4、迷う
その日の夜、香緒里と沙世の部屋で女子会が開かれていた。
昨日は長時間のフライトで皆疲れていたので寝てしまったが、今日はまだ体力が余っている。
美愛と由美が来ており、雪音と奈津はまだいない。
「今日のフラッペ美味しかったなーまた飲みたいなぁ。」
「あ、マルトロワ広場のやつ?美味しかったねぇ。」
「私も飲めばよかったかなぁ……いやでも酔う可能性もあったしな……。」
結局、香緒里たちは広場内にあるカフェに行き、美味しいと噂のフラッペを飲んだ。
香緒里はバス酔いを気にしてコーヒーにしていたが。
「しっかし悠、ほんとにフランス語話せんのね。ちょっととか言ってたけど店員さんに注文するくらいなら全然問題なさそーだったよね。」
「せやなー初めて頭良く見えたわ。」
沙世が感心したように言い、美愛が同意した。
流暢に店員に声を掛け、注文をしていたので正直びっくりした。
英語も確かに話せるのだろう。
「惚れ直した?」
「……まぁ、見直しはしたな。」
沙世がニマーと笑って美愛に聞くと、美愛はちょっと笑ってそう言った。
と、その時に部屋の呼び鈴が鳴った。
香緒里は覗き穴から外にいる人物を確認した後、ドアを開けた。
「あれ?奈津だけ?」
「うん……雪ちゃんは今日はいいかな、って。」
奈津は少し視線を落として言う。
沙世たちの元へ行くと香緒里と同様の反応を3人ともする。
「雪音、何かあったの?」
「実はね、翔ちゃんが同じクラスの子に告白された、っていう話をうちのクラスの子たちが話してたのを聞いちゃったんだよね。」
香緒里が聞くと奈津はそう話した。
「翔太が?まぁ翔太のこと好きになる女子はいても全然おかしくないよね、クラスメイトなら尚更。でも、翔太ならしっかり断るでしょ。」
「と、私も思うし、雪ちゃんもそれは分かってるみたいなんだけど、なんかその話聞いてから様子が変なんだよねぇ。」
沙世はそう言い、奈津も頷き、二人でうーんと考える。
香緒里も少し考えた後、
「翔太から聞きたかったのかもね。噂だから余計にモヤモヤしてるのかも。」
と言った。
「あー……それはあるかも。……さっき翔ちゃんからメッセージ来たんだけど、その告白のことについては何も書いてなかったぽいんだよねー。翔ちゃんに限って隠す、なんてことはないと思うんだけど。」
「翔太なら、直接しっかり会って報告したいって思うかも。話の流れとかではなく。」
「なるほど……。」
香緒里の分析に奈津はちょっと納得する。
「そしたら、時間の問題かなぁ??」
「と、思うよ。翔太自身がなんとかしてくれるんじゃないかなぁ。」
「私もそう思う。」
香緒里に続き、沙世も言う。
付き合いの長い二人がそう言うならば、その可能性は高いのだろう。
「では、少し空気を変えようか??私が飛行機内で撮った秘蔵写真!」
微妙な空気になったのを感じた沙世はサッとスマホを撮り出して言った。
じゃん、と効果音を付けて見せて来たのは、悠に寄りかかって寝る美愛と直樹。
「わぁかわいい。」
「これがね、こうなります、」
更に出した写真は、寄り添って眠っている美愛と悠。
「これねー直樹は完全に反対側に傾いてたから、多分悠が自分で退かしたんと思うんだよね〜。」
「美愛ならOK、てことなんだねぇ。」
「ふふふ、かわいいねぇ。」
「悠のこんな幸せそうな寝顔初めて見たなー。」
沙世が差し出した写真を見て、香緒里、由美、奈津はそれぞれニコニコしながら言う。
「沙世…………いつの間に撮ったん???さすがにちょっと恥ずかしいんやけど……。」
少し顔を赤くしながら美愛は溜息をつく。
その美愛を見て、沙世は満足そうに笑う。
「いやーこんなに幸せそうに寝られちゃー撮るしかないでしょ。しかも悠、これ多分自分から寄ってるよ?愛されてるねぇ。」
「…………まぁ、最近、大事にされてるんかなぁって思う時はあるけど……ってなんでまた撮ってんねん!」
いつの間にか沙世はスマホを構えて美愛を撮っていた。
「顔赤い美愛はレアだから悠に送ろうかと思って。……悠の前だとレアじゃないか?」
「沙世、その辺にしておいてあげて?」
あーもう〜と頭を抱える美愛を見て香緒里はやんわり沙世を止める。
照れてる美愛はかわいいけれども。
由美はそんな美愛を見てニコニコする。
「ごめんごめん、ついつい。じゃあ次別の写真ね。」
「まだあるの?」
「今度は美愛のじゃなくて、友達から送られてきたやつ。」
そう言って見せてきたのは、恐らく空港内であろう、秀人にもたれかかっている真の写真。
飛行機酔いが酷かった時のものに見える。
「これは一部の女子が喜びそうな写真だね。」
「沙世的にはこれはOKなん?」
「全然問題なし。秀人だし。なんならイケメン×イケメンで美味しい。」
「沙世ちゃん…………。」
イケメン好きは未だに健在である。
いつもより距離が近い二人に盛り上がった沙世の部活の友人が撮ったらしい。
「香緒里は微妙な心境だね?」
「え…………いや、まぁ……うん……。」
写真を見て固まっていた香緒里は奈津に指摘されて口篭る。
「嫌ってわけではないんたけど…………いいなぁ、って……。」
「え、かわいい。」
「これは新谷に報告やな。」
ちょっぴり頬を赤らめて言う香緒里。
ヤキモチ、とはちょっと異なるのだろうけど。
奈津と美愛がすかさず言う。
「秀人に私と香緒里のあの時の写真見せたら同じような顔しそうだな〜似た者カップルめ。」
いっそ見せてみようかな、なんて沙世は言う。
沙世の腕から離れなかった香緒里はとてもかわいかったのだ。
確実に妬かれるだろう。
やっぱりこのカップルも見てて楽しいなーと沙世は修学旅行中も満喫していた。
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修学旅行3日目。
朝食会場で翔太は亮と共に雪音たちを探していた。
昨日会えなかった、というのもあるが、昨夜メッセージアプリでやりとりした時に、いつもと違った気がしたのだ。
亮は単純に奈津に会いたいだけだとは思うが。
食事が終わり、部屋に戻るタイミングでようやく雪音、奈津、圭を見つけた。
「雪音!」
声を掛け、そちらに行くと立ち止まりこちらに目を向ける。
やっぱりちょっといつもと違う気がする。
「おはよう、どうしたの?」
「おはよ。いや、昨日も会えなかったし、と思って、探してたんだけど。」
2人の横では奈津たちが「ガイドさんの話が長いんだよ〜」等話している。
「そっか。」
「雪音……?何かあった?」
「……あったのは、翔太でしょ?」
「え?」
「何も、言ってくれないのね。」
雪音は翔太から目を逸らし、出口の方へ歩いて行く。
いつもと違いすぎる雪音の態度に翔太は追い掛けるのを躊躇ってしまった。
「雪ちゃん待って!」
奈津は慌ててその後を追う。
圭もそれを追い掛けようとする。
が、その前に一度立ち止まって、翔太を見る。
「雪音ちゃん、告白のこと知ってるぞ。噂で流れてきた。」
そう言った後二人の方へ小走りで行く。
残された翔太は額を押さえ、下を向く。
「あーマジか…………対応ミスったな……。」
「珍しいな。」
「噂になってるのは知らなかった……。誤解のないように、2人きりになってから話そうと思ってたんだけど…………まさかもう知ってたなんて……。」
それはあの態度になる。
でも、LINEで報告するのも違うと思ったし、人がたくさんいて聞かれるかもしれないところで言うのも違うと思ったのだ。
いつもの学校でなら、2人で話せることも多いのに、修学旅行でそもそもの距離があることが仇になってしまった。
「追わなくていいのか?」
「……多分、今行っても取り合ってもらえないと思う。また、自由時間か夕飯の時にタイミング見つけて話すよ。」
雪音からの初めての拒絶に近い対応。
結構心に来るものはある。
でも、雪音自身が今多分一番不安定なはずだ。
ごめん、と心の中で呟いた。
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今日はパリ市内を観光した後、ギャラリーラファイエットというフランスを代表する巨大な老舗デパートで自由行動となっている。
まず、エッフェル塔の近くでバスを降り、集合写真を撮ったり、個々で撮影したりした。
「フランスに来たーーー!って感じたね。」
「班でも写真撮ってもらわない?」
「ええな。あ、友代〜写真撮ってくれへん?」
美愛は近くにいた船橋友代に声を掛ける。
友代は一眼レフカメラを片手にやって来る。
完全に私物である。
友代は香緒里たちの班の写真を一眼レフとスマホの両方で撮った後、美愛と悠にカメラを向け、撮る。
「ツーショット頂き〜。」
「一声掛けてもよくね?」
「2人とも放っておいたらツーショット撮らないタイプでしょ???だから不意打ちで撮った方がいいかなって。
実はちょいちょい撮ってるよ?」
「え……全然知らへんけど。」
「言ってないもん。」
「言えや!」
「言えよ!」
綺麗に美愛と悠はハモる。
沙世以外にもC組には2人の写真をこっそり撮っている人たちは実はいる。
2人の関係を応援している……というのもあるが、半分は楽しんでいるのだ。
1年以上くっつきそうでくっつかないのを見ていたためであるが。
その後、バスに乗り込み市内を巡る。
コンコルド広場や、シャンゼリゼ通りを通って凱旋門を見たりした後に昼食を食べる。
午後からはギャラリーラファイエットへと向かう。
班行動とはいえ、自由時間、ということで皆ちょっとウキウキしている。
「めっちゃでかくない!?え、全部ギャラリーラファイエットなの!?」
そびえ立つ壁のようにも見える石造りの壁をバスの中から見て沙世は声を上げる。
街の一角全部がその建物で遠くから見ても迫力がある。
「デパートっていうより要塞みたいな感じだね。」
「中入ると、びっくりするぞ。」
香緒里の言葉に通路を挟んで隣に座っていた悠が言う。
「どーいうこと?」
「外観と全っ然違う。見りゃ分かるよ。」
その隣に座る直樹が聞くと、具体的には言わずぼかした。
皆で首を傾げていたが、中に入って見てその言葉が分かった。
入口から入ると吹き抜けになっており、天井にはクーポールと言われる巨大なステンドグラスのドーム。
その真下には吹き抜けに突き抜けるかのような巨大なクリスマスツリー。
「すっ…ご………。」
「え、めっちゃ綺麗……だけど迫力すごいね…。」
日本では見た事のない景色に香緒里たちは圧倒される。
「見りゃわかるだろ?」
「これは確かにすごいねぇ。」
悠に言われ、直樹は頷いた。
諸注意を担任の柏木から受けた後、解散し、2時間の自由時間になった。
2時間後にここのクリスマスツリーの下に集合。
それまでは皆自由に周る。
「悠は来たことあるんやろ?」
「ある………けど、ここの中はごちゃごちゃしてるからよくわかんねーんだよな…。」
「とりあえず下から見て行って、気になるところ入ってみる?」
クリスマスツリーの前で写真を撮っている班もいる中、香緒里たちの班は動き出す。
歩いているだけでわくわくするような雰囲気があるこの中は人がごった返していた。
「下見るとなんかすごいね。」
エスカレーターに乗りながら沙世は下を振り返って言う。
「人がゴミのようだ?」
「直樹くんよく知ってるねそれ…。」
2階、3階は洋服屋が立ち並ぶ。
ブランド物などの服を来たマネキンがたくさんある。
「上の階に行くとおもちゃ屋とか本屋、カフェとかあっていいかもしれねーな。」
「じゃあそっちの方に向かう?」
ブランドの服やバッグを買う予定は高校生の香緒里たちにはまだない。
そのため、悠の勧めで上階へ向かうことにした。
日本のエスカレーターと違い、降りたら次のエスカレーターが目の前にあるわけではないようで、更に上の階を目指すためにエスカレーターを探さなければならない。
歩き疲れそうだな、と思いながら香緒里は列の後ろの方を歩いていると、すれ違った女性の鞄の中から小さなポーチが落ち、慌てて拾った。
「あの、落としましたよ?」
思わず日本語で言ってしまったが、肩を叩いて呼んだため、気付いてもらえた。
「Merci」
とお礼を言われる。
それを渡して振り向くと、さっきまで前を歩いていたはずの沙世たちの姿が、ない。
周りにはたくさん人がいるのに、香緒里と同じ制服を来た者は誰一人見当たらなかった。
「嘘でしょ………。」
思わず、呆然と呟いた。




