3、告白
12時間以上のフライトを終え、フランスに着いた。
香緒里と真は結局酔い止めを飲んだり水分を取ったりしながら、ほぼ寝つつ機内を過ごした。
2回目の機内食ももちろん食べられていない。
二人の酔いは降りてからも続き、しばらく香緒里は沙世に引っ付いており、真は秀人にもたれかかっていた。
沙世は「気の毒ではあったけど役得だった。」と後に話し、真と秀人を見て盛り上がっていた女子もいたという。
結局、二人はろくに夕飯も食べられずにホテルへ行き、就寝した。
----------
修学旅行2日目。
朝食会場は全クラス合同。
ビュッフェスタイルになっており、皆料理を取ったあとに班のテーブルへと座る。
「香緒里、もう大丈夫なん?」
「うん、一晩寝たからもう大丈夫。まぁこれからバス乗るからまた酔い止めは飲まなきゃなんだけど…………。」
ビュッフェの列に並びながら美愛に聞かれた香緒里はそう答えた。
食後バスに乗ることを考えるとたくさんは食べられない。
とはいえ、昨日はろくにご飯を食べていないのでお腹は空いている。
沙世や直樹は朝からガッツリ取っていた。
「あ、真!」
料理を取った皿を持ち、テーブルに移動している中で、既に席に座り食べ始めている班の中に、沙世は真たちを見つけた。
「おはよ。」
「おはよー、もう体調大丈夫なの?」
「今はな。またバスに乗るからどうせ多少は酔うんだけど……。」
香緒里と同様のことを言っている。
その香緒里はすぐ隣に座る秀人と話していた。
「食欲は?」
「お腹は空いてる。そんなに食べない方がいいんだろうけど……。」
「そうだろうな。酔い止めしっかり飲んで、無理するなよ。」
「うん、ありがとう。」
香緒里と真は「お互い頑張ろう」と励まし合っていた。
酔い止めを飲めば基本は酷くならないのだが、昨日の酔いが若干トラウマになっている様子。
修学旅行中はほぼバス移動となるので、ある意味試練ではある。
-------------
今日はシャルトル・オルレアン方面にバスで移動し、そこで観光をする予定となっていた。
シャルトル大聖堂をまず訪れた。
フランスで一番美しい、と言われる程の大聖堂で、規模も大きく見た目から迫力がある。
『正面から見えます、2つの尖った塔。右側のシンプルな形の塔は約800年前のロマネスク様式、左側は一度火事で燃えてしまい、建て直したためゴシック様式になっています。』
ガイドさんがマイクで話す声が、イヤホンから聞こえてくる。
「おっきいねぇ……。」
「日本で言うとお寺とかそういう感じになるのかな?」
沙世と由美はそびえ立つ大聖堂を見上げてそうコメントする。
大聖堂の中に入ると、薄暗く、青いステンドグラスの光が床に落ちていて、神秘的な雰囲気を放っていた。
「直樹?何してるん??」
「なんか床に迷路書いてあるから辿ってた。」
「ほんとだ、なんか書いてある。」
「あんたまでしゃがむなや。」
迷路を座って見ている直樹の隣に悠も座る。
美愛は二人の腕を引いて立ち上がらせようとしている。
「美愛ママ……。」
「いやこんな大きな子たち産んだ覚えないわ!」
思わず呟いた沙世に美愛は突っ込む。
シャルトル大聖堂を出た後、少し歩いてマルトロワ広場へと行く。
中央に鎮座するジャンヌ・ダルク像の説明をガイドさんから説明を受けた後、40分程の自由時間となる。
「ね、あっちのカフェ行ってみない??なんか美味しいものあるかも!」
「注文大丈夫かな?」
「そんな時の悠でしょ!」
香緒里の手を引き、沙世は言う。
名指しされた悠は驚く。
「ええぇ、俺?」
「だってちょっと話せるんでしょ?」
「ほんとに最低限な??」
「まぁ、美愛と二人でどっか行きたいーっていうならいいけど。」
悠は隣の美愛を見る。
「ええんやない?みんなで行くんで。」
「……わかったよ、行くよ、行く。」
「よっしゃ百人力!」
「いえーい!」
沙世と直樹はハイタッチする。
どうしても美味しい物を食べたいらしい。
そういう面で頼られ慣れていない悠は若干困惑してるが。
「ええやん、頼られとけば。」
「いっつもこういう役割は亮や圭だったらさ、慣れねぇんだよな〜……。」
「実際この中でちょっとでも喋れるのは悠なんやから。」
「まぁ、そうなんだけどさ。……通じなくても笑うなよ。」
「笑わへんよ、頑張ってくれるだけ嬉しいし。」
美愛と話し、悠は少しだけ表情を和らげた。
まぁ、やるだけやってみるか。
----------
一番初めにマルトロワ広場に到着していたE組は既に皆バラバラに自由時間を過ごしていた。
翔太は亮と共に広場内を歩く。
「こういうところにメリーゴーランドがあるの、なんか不思議な感じするな。」
「フランスだとたまにこういう広場にある。」
「そうなんだ。レトロでかわいいよな。」
広場に置かれているクラシックなメリーゴーランドの横を歩きながら二人は話す。
D組が来れば雪音たちの元へ行こうかと思っていたが、自由時間の半分くらいの時間が過ぎてもまだ来る様子はない。
WiFiも外で使えないためメッセージアプリで連絡も取れない。
「あの……石川くん、今ちょっといい……?」
クラスメイトの江口綾が話し掛けてきた。
「俺?……いいけど、何?」
「鮎川くん、2人にしてもらってもいいかな?」
翔太は亮の方を見ると、亮は「好きにしろ。適当にうろうろしてる。」と言い、その場から離れる。
翔太と江口はメリーゴーランドから少し離れた、人の少ない所まで行く。
修学旅行で異性からの呼び出し。
それで用を察せない程翔太は鈍くない。
むしろ、元々察しはいい方だ。
故に、付いてきたはいいがどうしたものかと江口の言葉を待ちながら考える。
「石川くん……その……好きです。いっつも、クラスの係で助けてもらってるうちに好きになって……。」
顔を赤くしながら、江口は翔太にそう伝える。
江口とは確かにクラスで同じ係をしていた。
関わることはクラスの女子の中では多い方ではあった。
「ありがとう。でも……ごめん。俺は彼女のことが好きだから、気持ちには応えられない。」
「そう……だよね。ごめんね、彼女いるの知ってるのに……でも、どうしても気持ちだけ伝えたくて。」
翔太は今まで1、2回程しか告白された経験がない。
しかも、小学生くらいの頃だ。
こういう時、なんて返したらいいのかわからない。
秀人や真はいつもどうやって断っているのだろうか。
「ごめんね。」
「ううん、いいの。」
少し目に涙を滲ませながら、聞いてくれてありがとう、と言いながら江口は足早に立ち去った。
泣かせてしまった。
仕方ないことではある。
翔太にとって雪音以外は考えられないから、断る他はない。
雪音以上の女子はいないのだ。
--------------
他のクラスから少し遅れてマルトロワ広場に行き、自由時間を過ごし、D組はバスに乗ってオルレアン大聖堂へと行った。
「結局亮たちに会えなかったなー。」
「時間ずれちゃったし、人も多かったからな。」
「仕方ないねぇ。」
オルレアン大聖堂の中に進みながら、奈津が零すと圭と雪音はそう言う。
D組のガイドさんの話が長いのだ。
そのため他のクラスより所要時間がかかる。
ためになる情報をたくさん話してくれてはいるのだが。
「ねぇねぇ、さっきA組の子がマルトロワ広場で告白現場見たって。」
「え、ほんと?誰と誰?」
後ろで話す別のクラスの女子の会話が聞こえてくる。
「E組の江口さんが、石川くんに告ってたらしい。」
「え、でも石川くんって雪音の……。」
前に丁度雪音がいた事に気が付いたその2人は慌てて声を小さくする。
「ふーん……。」
「雪ちゃん……?」
「いや、まぁ、翔太ならちゃんと断るよ。」
ちょっと声のトーンが下がった雪音を奈津は見、圭はフォローをする。
「そうね、翔太ならちゃんと優しく断るでしょうね。」
雪音はそう言って、イヤホンを付け直す。
奈津と圭は顔を見合わせる。
「雪ちゃん、もしかしてちょっと怒ってるのかな……?」
「怒ってる、というよりは余裕ない感じなのかも。」
二人は雪音に聞こえないよう小声で会話をする。
普段の雪音なら「そっか。」くらいに流しそうなものである。
翔太が雪音のことしか見ていないのは疑いのない事実ではあるので。
雪音自身、何にそんなにモヤモヤしているのかいまいちわかっていなかった。
雪音と付き合い出してから翔太が告白されたことはなかった。
小学校の頃に告白されたという噂は聞いたことはあったが。
だから、モヤモヤするのか、それとも別の何かなのか。
持て余したこの気持ちをどうすればいいのかわからず、雪音は黙るしかなかった。




