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一期一会  作者: 雪奈
第13章 冬、異国の地で
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142/214

2、初フライト


修学旅行当日。

香緒里たちは朝早くに学校からバスに乗り込み、成田空港へと向かった。

昼頃の飛行機に乗るためである。

フランスまでは14時間程かかり、時差もあるので昼頃に出発しなければ夕方に現地へ辿り着けない。


空港に行くことすら初めての香緒里にとってはわくわくの連続。

無事に空港へ着き、点呼を取った後に荷物を団体用のチェックインカウンターに預ける。


「え、ちょっと待って、スーツケース重くて上げられないんだけど…………。」


小柄な沙世にはそもそもスーツケースが大きい。

ちょっと高さのある台に乗せるのは難易度が高かった。


「私やるよー?」


香緒里はそう言うと、ひょいとスーツケースを持ち上げ台に乗せた。


「い、イケメン……!!!さすが空手部エース!筋肉が違う……!!」

「一応鍛えてるからねぇ。由美のも乗せちゃうよ。」


そう言って香緒里は自分の分と後ろに並ぶ由美の分も順番に乗せた。


「香緒里ちゃんかっこいい…………これは確かに、ファンクラブ入りたくもなるかも……。」


そのやり取りを見ていた美愛は自分のスーツケースをちょっと持ち上げてみる。

確かに重い。

沙世や由美よりは力はあるが。

と思っていると、横からひょいと悠が美愛のスーツケースを持ち上げて台に乗せた。


「え?ありがとう……意外と力あるんやな。」

「あのなぁ俺も一応男だぞ?これくらい持てるって。」

「……横で苦戦してる男おるけど?」


直樹が頑張って持ち上げようとしているも、持ち上がらない。

体力もなければ力もないのだ。

悠は溜息をついた後、直樹のも持ち上げる。


「わーありがとう王子〜。」

「だーからやめろって言ってんだろそれ!」


きゅるんとかわいく姫ポーズをしながら言う直樹。

未だに時折悠をいじっている。


「悠って、身長もっと伸びたらめっちゃモテそうだよね。」

「確かにそれはある。」


さり気なく美愛に優しくする悠を見て、沙世と香緒里はそう話す。

身長は亮と共に伸びていっている。

今では美愛と同じくらいまで大きくなった。

直樹も少しずつ実は伸びている。


その後無事に出国審査を終え、搭乗まで待ち時間となった。

しばらく時間はあるのでどうしようかと思っていると、秀人と真がやって来た。

香緒里と沙世は近くに駆け寄る。


「C組も出国審査終わったんだな。」

「うん、無事に。この後どうしようかって言ってたところ。」

「私お腹空いたんだよねー朝ご飯早かったし。」

「すぐ機内食出るだろ。」


沙世はお腹に手を当てて言う。

真はそうツッコミつつもゲート内にあるカフェをスマホで調べ出している。


「班の人たちはいいの?」

「あぁ、香緒里たちのとこ行ってくるって伝えてるから。」


秀人たちと同じ班の男子はバスケ部と野球部の人たちだったはずだ。

香緒里や沙世とも顔見知りである。


「旅行中はそんなに一緒にいられないだろうからな。会える時は会いたいだろ?」

「うん……会いたい。」


秀人にそう言われた香緒里はちょっと赤くなりながら答える。

それを見て秀人は微笑んで頭を撫でた。


「相変わらず甘々だね〜。」

「だなぁ。」

「お前らが言う?」


真と沙世の言葉に近くにいた悠が呆れたように言った。

沙世の頭に顎を乗せ、所謂バックハグのような状態で真は沙世と二人でスマホを見ていた。

距離が近い。


「みんな仲良いねぇ。」

「じゃーユミはオレと仲良くする??」

「それは……遠慮しておこうかなぁ。」

「由美に手出したらあかんで?」


美愛は由美を自分の傍に寄せる。

直樹はケラケラ笑いながら「冗談だよ〜」と言う。

若干圭が移って来てるんじゃないか?と悠は感じたが黙っておいた。



-------------


飛行機に乗り込み、シートベルトも締めて無事に離陸。

独特の浮遊感が一瞬ある。


通路側の香緒里からは見えづらいが、窓を見ると一面の空が広がっていた。


「景色、すごいねぇ。」

「初めて乗ったけど、なんか不思議な感じ。空飛んでるんだもんね、これ。」


窓際の由美、その隣の沙世は言う。

香緒里はその隣だ。

後ろの座席の窓際から美愛、悠、直樹が座っている。


「『エコノミーって狭いなぁ』思てるやろ。」

「…………まぁ、席同士近いなとは思うけど。でもみんなで行くならこっちの方が楽しいだろ。」

「ポジティブやな。」


エコノミーに乗るのが初だと言う悠。

さすが鮎川グループの息子である。




「なっちゃんたちっていつも乗るのはファーストクラスなの?」

「ファーストは乗ったことあるはあるけど……基本的にはビジネスクラスが多いね。」

「そしたら今日は寝づらいだろうね。」

「んーまぁそうかもしれないけど……これはこれできっと楽しめるよ。」

「亮が隣にいれば座ってても寝やすいんだけどね〜。」

「突然の惚気。」


C組より少し後ろの方の席で雪音、奈津、圭はそう話す。

雪音が窓側、その隣に奈津、圭の順で座っている。

奈津的には初エコノミーは新鮮でちょっと楽しいらしい。

柔軟性が高い。


「さすがに仕事は持ち込んでないんだ。」

「まぁな。これだけ1箇所に人がいると情報漏洩も怖いし、修学旅行中はやらない予定だ。」

「井口さんは?」

「日本で、頼んでおいた仕事をやってもらっている。」


その更に後方の中央4人席には翔太と亮がいる。

亮が通路側で翔太がその隣。

翔太の隣には時行と一輝がいる。


「一応、安全のためにSPはついているがな。」

「さすがだねぇ。」



離陸してしばらくした頃、機内食が配られ始める。

秀人は隣に座る真を見る。

先程から言葉数が少ない。


「真…………酔っただろ。」

「…………酔った。」


顔色が良くない。


「酔い止めは?」

「飛行機で酔うこと想定してなくて飲んでねぇ…………。」

「今からでも飲んどけ。食事は?」

「ぜってー無理……。」


秀人はCAさんに声を掛け、水を貰い、真の分の食事を代わりに断る。


「食事終わったら機内も暗くなるだろうからとりあえず席倒して寝とけ。」

「そうする……。」


新幹線や電車では酔わないので油断していたのだろう。

今飲んでもまたフライト中にもう一度飲まなければならない。

秀人は念の為次に飲むであろう時間を想定しておく。


しかし、真が酔ったということは、同じ三半規管弱い姉弟の香緒里も酔っているのではないか。

そう思い、秀人は席を立った。



「香緒里……とりあえず寝とく?」

「そうする……。」


なぜ飛行機も乗り物であることを失念していたのかと数時間前の自分を恨みたい。

新幹線や電車では酔わない。

ここまで来るバスの前には酔い止めを飲んでいた。

それでも多少は酔うのだが、酷いものではない。

飛行機も酔い止めを飲んでいればここまで酷くならなかったかもしれない。


沙世は隣で心配して水を貰ったりブランケットを掛けたりしてくれている。

胃の不快感が止まらない。

吐きそうではあるけどこれはまだ吐けない。

寝られれば多少マシなのだろうが、それも出来ずにいる。


「香緒里、大丈夫か?」


そこに秀人がやって来る。


「秀人…………あんまり、大丈夫ではないかなぁ……。」

「真が酔ってるから、と思ったけど、やっぱりそうだよな……。」


半泣きになっている香緒里の頭を優しく撫でる。


「真は大丈夫?」

「香緒里と状況は似たようなもんだな。」

「ちょっと行ってくる。」


秀人に聞いた沙世は立ち上がり、真の方へと行く。

席を秀人とチェンジ出来れば一番いいのだろうが、班もクラスも違うのでそうもいかない。


「酔い止めは?」

「さっき飲んだ……もうあんまり意味無いかもしれないけど……。」

「飲まないよりマシだ。ゆっくり休め。寝られるかどうかはわからねぇけど……。」


香緒里は秀人の手を少し握る。

そして秀人の顔を見て、少しだけ笑う。


「秀人が来てくれたから……ちょっと寝られるかも。ありがとう。」


いつもより弱弱しい。

抱き締めてあげたい衝動に囚われるが、ここは人前であるので耐える。

代わりに手を握り返し、少しだけ頬に触れる。


「無理するな。吐きそうになったらちゃんと沙世に言えよ。」


そう、声色を優しくして言う。

その声が、優しい視線が心地いい。

ありがとう、ともう一度言い、香緒里は目を閉じた。

最後に頭をゆっくり撫でると、秀人は席へと戻った。



機内食を食べ終わり、しばらくすると機内が暗くなる。

それに伴い、賑やかだった機内も少し静かになる。

イヤホンをし、画面で映画などをみる者。

座席を倒し眠る者。


消灯からしばらくした頃、リクライニングで寝ていた悠は両肩が重いことに気が付き目が覚める。


「こいつら…………。」


美愛と直樹も椅子を倒しつつも、上体をこちらに預けた状態で寝ている。

どうりで身動きが取りづらいはずだ。

悠はまず、左隣の直樹をグイッと押して反対側に追いやる。

爆睡しているようでそれでも起きない。


右隣の美愛もよく寝ている。

悠の肩に頭を乗せているため、距離が近い。

寝ているため、いつも付けている赤縁の眼鏡はしておらず、長い睫毛がよく見えた。

かわいい、と心の中で呟き、悠は空いた左手で美愛のツインテールに触れ、梳いた。


そして、もう一度寝るか。と思い、少しだけ美愛の方に頭を乗せ、目を瞑った。


しばらくそのまま二人で眠っていたので、気付いた前の座席の沙世のスマホで激写されてしまうのだが、二人はそれに気がつくことはなかった。


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