9、二人きり
『今年の一年のミス緑高ミスター緑高、2人とも生徒会かよ〜。』
『画面偏差値高め生徒会てこと???』
『一部な、一部。』
『なぁもしかして俺をディスってる!?』
今年のミスコンミスターコンのMCは例によって時行と原田である。
1年生のミス緑高ミスター緑高は、里華と颯斗だ。
特に初めて里華を見た時、雪音並に美人だなと思っただけある、と香緒里は舞台袖から二人を見て考える。
「佐倉先輩、もう裏戻ってもいいですか。」
『感慨も何もねぇなぁ!いいよ戻って!』
後輩が冷たいよぉ!と嘆く時行を見て、会場内から笑い声が上がる。
『2年生のミス緑高ミスター緑高の発表でーす。』
『なぁこれ、もういっぺんに言っていいだろ?』
『いいんじゃね?』
『はーい、2年生は見事二人とも2連覇!!安西雪音さんと新谷秀人くんでーす!』
去年のように雪音と秀人は壇上に上がる。
『どうです?2連覇の気分は。』
「どう、と言われても……。」
「特になし。」
『え〜そんな〜。』
雪音は困ったように笑い、秀人は短くそう言う。
『あ、そういえば安西さんと僅差でうちの会長が2位だったんだよな〜。』
香緒里も結果をもちろん知っていた。
ファンクラブがあるくらいだから当然と言えば当然なのだろうが、香緒里は「なんで……」と結果を見て不思議な気持ちになった。
「え?そうなの?じゃあ私辞退した方がいいかしら。」
『いやいやいや、それはダメだよ会長に怒られちゃう。
あの人、2人が2連覇って聞いて、当然でしょっていう顔をしながらめちゃくちゃ喜んでたんだよ??』
「「え、かわいい。」」
時行の言葉に二人はハモる。
会場は湧いた。
「トッキー、時々私をネタにするよね……。」
「まぁ会長の話出すと喜ぶ人が一定数いるからね。」
香緒里が言うと隣に立つ柚希がそれに対して答える。
「あとは、あの2人、ステージで喋るタイプでもないから、会長の話題出せば乗ってくれると思ったんだろ。」
柚希と反対隣に立つ一輝も言う。
時行は考えていないようで考えているのだ、多分。
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3年生の発表に移ったので、秀人と雪音は壇上から降りる。
「先行ってるね。香緒里のとこ、行くんでしょう?」
秀人が動き出す前に雪音はそう声を掛ける。
「…よくわかったな。」
「一応私たちも付き合い長いからね。なんとなくわかるわよ。」
「それもそうか。」
じゃあ後で、と雪音は翔太たちの方へと戻って行く。
秀人はステージ裏に周り、生徒会のいる天幕へ顔を出す。
「あれ?秀人、何かあった?」
香緒里が気付いて寄ってくる。
その手をちょっと引きつつ、秀人は一輝の方を見る。
「香緒里、連れてっていいか?」
「あーいいよ、閉会式まで仕事ねーし。」
一輝の隣で里華や柚希も頷いている。
「秀人が連れてった方がちゃんと休んでくれるだろ。よろしく。」
「了解。閉会式までには帰すよ。」
「えぇぇ?」
秀人はそのまま香緒里の手を引いて歩き出す。
「秀人……?」
「んー?」
「どこ行くの?」
「考え中。」
そう言いつつ、校庭から離れていく。
生徒の大半は校庭におり、寮のある方へ行くにつれ、人もいなくなってくる。
寮の近くのベンチまで来ると秀人は香緒里を促して座らせ、自分もその隣に座る。
「どうせまた休んでないんだろ?」
「……まだ、大丈夫。」
「限界を攻めるなよ。」
秀人の言葉に香緒里がそう答えてきたので突っ込む。
「無理してるつもりは、そんなにないの。文化祭、みんなが楽しそうにしてるのを見て、嬉しかったから。」
「そっか。」
「時間かけてたくさん準備したから、喜んで貰えて嬉しいんだ。」
嬉しそうにそう話す香緒里を秀人は見つめる。
そんな顔をされたら、何も注意出来なくなる。
「でも、やっぱり秀人の隣が一番落ち着くなぁ。」
ぽつりと香緒里が漏らした言葉に、秀人はちょっとだけフリーズする。
文化祭中も時折会ってはいた。
けれど常に他に誰かがいた。
完全に2人きりなのはかなり久しぶりだ。
その中でこの言葉。
秀人は黙って香緒里の髪を梳いた。
こちらを見上げてくる視線にまた狂わされそうで、少しだけ視線を外す。
「……コンテストの時さ、気付かれるだろうなとは思ってたんだよ。でもあんなに早いとは思ってなかった。」
昨日の男装女装コンテストの時の話を秀人は話す。
「目が合った瞬間だろ?」
「うん、そう。出てきた時に、あれ?って思ったんだけど、目が合って確信したの。」
秀人から向けられる視線は姿が変わっても変わらなかったのだ、間違うはずがない。
そう香緒里は思っている。
「でも、秀人が綺麗になりすぎてて……それにはびっくりしたかな。」
「……普段とどっちがいい?」
「そりゃ、もちろん普段の秀人の方がいいけど……。」
近付くと香緒里は少し顔を赤くして逸らした。
しかし、その後に秀人の顔をジッと見つめる。
「香緒里……?」
「やっぱり、かっこいい秀人の方がいいな……。」
意図せずの上目遣い。
香緒里から言われ慣れない「かっこいい」の言葉。
恐らく無意識なのだろうとは思う。
耳を赤くした秀人は香緒里の肩に頭を乗せる。
「秀人?」
「なんでもない。」
かわいすぎる。
わかっていないのか首を傾げるその仕草さえも。
「香緒里。」
耳元で、少し声を低くして優しく呼ばれると、香緒里は胸の奥がキュンとした気がした。
思わず秀人の服の裾をギュッと握る。
ドキドキして、顔に熱が集まるのを感じた。
目が合うともう逸らせない。
「その顔、反則。」
「え……?」
抱き寄せられ、キスをされる。
少し長めのキス。
唇から離れた後、額にもキスをされる。
「かわいい。」
そう囁かれる。
その表情は優しく甘い。
「秀人……ずるい。」
「香緒里が好きなだけだ。」
腕の中で呟くと、そう返ってくる。
心臓が持たない。
「……どんどん好きになっちゃう……。」
思わず小さく言った言葉は、秀人を固まらせた。
ずるいのはどっちだよ、と秀人は思い、抱きしめる力を強めた。
喧騒がはるか遠くに聞こえる。
文化祭ももうすぐ終わりを迎えようとしている。




