5、どんな姿でも
文化祭1日目の午後。
校庭に設置されたステージの周りには多くの人が集まっていた。
校舎の窓からクラスの仕事の合間に覗いている人も多い。
『さぁ今年の生徒会の企画イベントは男装女装コンテスト!!MCは体育祭で実況が好評でした私、放送委員会委員長の原田と!』
『生徒会会計の佐倉でお送りします!』
時行が企画した男装女装コンテスト。
自薦他薦問わずの応募だったが大半が他薦である。
審査員は文化祭実行委員5名、放送委員3名の計8名。
香緒里自身もエントリーされてるので、衣装に着替えた後インカムを付けてステージ裏で最終確認を行っている。
天幕で覆われたステージ裏は女子が着替えるエリアと控え室の二つに分かれている。
女性陣は概ね準備が完了していた。
「会長、やっぱり似合いますね〜素敵です〜!」
「ふふ、ありがとう。」
里華に褒められて香緒里は微笑む。
演劇部が持ってきてくれた王子様風の衣装を身にまとい、髪は纏めて黒髪のウィッグを被っている。
「噂には聞いてたけど、似合うね、男装。」
柚希も感心したように香緒里を眺める。
生徒会で出るのは香織里だけなので他メンバーは出場者のチェックや放送委員会との音響チェック等を行う。
「やっぱりピッタリやろ?」
「だからそういう事じゃねぇんだけど………。」
着替え終わった悠に美愛が声を掛けている。
悠は黒髪のふわふわセミロングのウィッグを付け、緑ヶ丘の女子の制服を着て、黒タイツを履いている。
中のワイシャツは自身の物だが、ブレザー、リボン、スカートは美愛のものだ。
背格好が似ているからピッタリだろうと沙世に言われた悠だったが、『美愛の』制服であることを気にしていた。
何となくよろしくない感じがするらしい。
それに対して、美愛は「彼氏なんやし別にええやろ?」と言っていた。
ちなみに美愛は劇の宣伝も兼ねて、騎士の衣装を着ている。
「似合っとるで?」
美愛が顔を近付けそう言うと、悠は顔を赤らめる。
傍目は美少女を口説いているイケメンである。
直樹も美愛同様、劇の宣伝も兼ねて姫の衣装。
沙世に指導されたので振る舞いもバッチリ仕上がっている。
その沙世はメイクを終えたため、客席に戻っているのか既にいない。
香緒里は見回して人数を数える。
「あれ?エントリーしてるのって男女それぞれ7人ずつよね??男子1人いなくない?」
「あぁ…………1人、遅れて来るって連絡来てる。女子からステージ上がるからしばらくは猶予あるだろ。」
一輝に聞くとそう返ってくる。
「そっか、ならいいんだけど。対応はお願いね。」
「もちろん。」
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『では続いて参りましょう!!男装コンテスト、エントリーナンバー3番!我らが生徒会長の吉崎香緒里さん!』
時行のアナウンスを聞き、香緒里はステージの袖から中央に向かって歩く。
会長ー!という黄色い声が会場からいくつも聞こえ、香緒里は少し微笑みを浮かべて手を振り返す。
更に大きな悲鳴が返ってきた。
「王子様がいる………」
「求婚して欲しい………」
「普段あんなにかわいいのにギャップやば……」
『会長〜〜男子よりかっこよくならないでよ〜立場ないじゃーん。』
「ごめんね?」
時行の言葉に、ちょっと不敵に微笑むとまた会場が沸いた。
『ーーーーエントリーナンバー5番!2年C組の渡辺美愛さん!明日上演予定の2年C組の劇の衣装での登場です!』
美愛が出てくるとまた歓声が上がる。
スラリと背の高い美愛は男装が本当に映える。
クールに視線を観客の方に向けると、女子たちから溜息が聞こえる。
「守っていただきたい……」
「去年も思ってたけどやっぱりイケメン……!!」
「眼鏡騎士最高!」
『ーーーーーーでは最後のエントリー!エントリーナンバー7番!大本命の2年B組根室璃子さん!!女テニの王子様の異名は伊達じゃない!』
派手な格好ではない。
シャツに黒いベストに黒のロングコートにスラックス。
それがめちゃくちゃに似合う。
歩きながら表情をキメて観客にウィンクをする。
ここ一番の黄色い悲鳴が上がった。
「璃子様やっぱり素敵……一生推す……」
「カッコよすぎる………」
「イケメン過ぎて目がやられる……」
『さて、男装コンテストのメンバーが揃いましたね〜。』
『俺らが悲しくなるくらいのイケメン揃いですよね〜。』
『皆さん好きに動いて頂いて構いませんからね〜。』
璃子はファンサをして歓声を貰っている。
手慣れ過ぎている。
さすが王子。
『ではでは続いて女装コンテストに出場する方々をお呼びしましょうか!男装コンテストに参加の皆さんはそのままお待ちくださいね。』
『それでは、エントリーナンバー1番!2年C組の鮎川悠くん!』
かわいいことはとてもかわいい。
だがしかし愛想が一切ない。
男子バスケ部の仲間に「悠ーー!」と声を掛けられると、見んな!というように手を振った。
「あー……まぁ、そうなるよねぇ。」
「せっかくかわええのにもったないわー。」
ステージ上で並んで悠を見ていた香緒里と美愛はそう言う。
美愛は少し考えた後、悠に近付く。
「リボン、ズレてますよお嬢さん?」
そう言って、悠の胸元のリボンを直す。
ついでにポンと頭を撫でる。
「おっま……!!」
赤くなる悠に美愛はクールに笑う。
会場は沸いて盛り上がる。
なるほど、悠のかわいさを引き出しつつ、自分もアピールするのか。
上手いな美愛……と香緒里は感心した。
『エントリーナンバー4番!!2年C組渡辺直樹くん!こちらも明日の劇の衣装です!ちなみに先程の渡辺美愛さんとはなんと従姉弟!!美形の血なのか!?』
直樹がステージ上に見えるとザワついた。
どう考えても可愛すぎる女子にしか見えない直樹は、観客を見て控えめに微笑む。
「え…………あれほんとに男の子なの……???」
「かわいい………姫じゃん。」
「やばい、ときめきそう。」
男女問わず、全員の注目が直樹に行く。
可愛らしくお淑やかに歩いた直樹はステージの中央へ行くと、くるりと回った後、ドレスをつまみ、お辞儀をする。
ワッ!と会場が大いに沸いた。
これは女装部門は直樹に決定かな、と香緒里はその様子を見て思う。
充分に劇の宣伝にもなっただろう。
その後に出てきた人達もかわいいけれど直樹を超えるレベルではなかった。
『それでは最後のエントリーです!どうぞ〜!』
なぜか名前が告げられず、最後の出場者はステージに出てきた。
その姿を見て、直樹の時以上にザワついた。
ハイネックの薄手の長袖トップスに黒のロングスカートに少し高めのヒール。
スラリと背が高く、綺麗なロングの黒髪に整った美貌。
正に爆美女。
え、誰だかわからないけどめっちゃ美人……!
と会場がザワザワする中。
香緒里は出た瞬間にまさかと思っていたが、その美女と目が合って確信した。
「秀人………!?」
その声は、一瞬静まり返った会場に響いた。
『会長さすが!大せいかーい!!エントリーナンバー7番、2年A組の新谷秀人くんでーす!』
空気が揺れた。
会場にいた殆どの生徒が動揺している。
「沙世……知ってたな?」
前の方の列で見ていた真は隣に立つ沙世にそう聞く。
「そりゃあもちろん!だって私がプロデュースしたんだもん。」
秀人が出場することを知っていたのは沙世と、香緒里以外の生徒会メンバー、そしてMCの原田だけである。
秀人は綺麗なモデル歩きを見せる。
「そういえば、秀人のお母さんの美鈴さん、ファッションデザイナーになる前はモデルやってたって言ってたわね……。」
「血筋か………。」
雪音と翔太はそれを見て呟く。
「新谷やば……………。」
「イケメンで、女装したら美女とか誰も勝てなくない……?」
「美し過ぎるでしょ……色気やば。」
ザワつく会場と共に、香緒里自身も大混乱である。
その香緒里に真っ直ぐ秀人は近付いていく。
「綺麗………。」
思わず漏れた香緒里の本音に秀人は一瞬だけ目を細めると、一歩香緒里に近付いて右手でその顎をクイっと持ち上げる。
「驚いた?」
そう、妖しく微笑み、顔を少し近付けつつ言うと、香緒里の顔は真っ赤に染まる。
会場は今日一の悲鳴が上がった。
「イケメン×美女……!!!」
「イケメンの吉崎先輩は美女の新谷先輩の物ということですね……!!!」
「尊い………。」
「破壊力エグい………。」
膝から崩れ落ちているのは恐らく秀かおファンクラブのメンバーたち。
そうでない人達もあまりの衝撃に顔を赤くしてる者も多い。
真っ赤になって固まる香緒里の耳元に秀人は口を寄せて「かわいい」と囁く。
「……今日の秀人ずるい……。」
そう呟くと秀人は少し笑った。
そして自分の立ち位置までまた美しく歩いて行く。
メイクをしてウイッグも被って服も変えて。
完全に別人のように見えて、香緒里を見つめる目線だけはいつもと変わらない秀人なのだ。
むしろいつもより熱の籠ったその目線は大変に心臓に良くない。
『では、審査に入りまーす!エントリーされた方々は一度ステージからはけてくださいね〜。』
時行からそう言われた面々はステージ裏へと移動する。
「……マジで秀人なのか……。」
「そうだけど?」
ステージ裏の天幕内に行くと、悠が秀人のことをじーっと見つめていた。
見た目は美女なのに話す声は確かに秀人。
悠の頭の中は混乱していた。
秀人が近寄ると悠は少し顔を赤くして後退りする。
それを見て秀人は更に近付き悠に顔を近付ける。
「ちょ!来んな!」
「なんで?」
「あ〜〜調子狂う!!」
赤くなりタジタジになる悠を面白がって揶揄う秀人。
美少女に迫る美女。
美愛はその様子を見てケタケタ笑う。
「はーおもろいわー。沙世がそれやったんやろ?すごいわ。」
「そ。みんなが終わった後に、こっそりな。」
「香緒里、ようこれが新谷やってわかったなぁ。」
ようやく落ち着きを取り戻したらしい香緒里に美愛は話を振る。
「そりゃ……わかるよ、見れば。」
その言葉を聞き、秀人はちょっと嬉しそうに香緒里を見る。
「ていうか……出るって聞いてないんだけど。」
「まぁ元々はトッキーに、『面白いから出てくれ』って言われたんだけど。
香緒里には黙ってて欲しいって、沙世にも一輝たちにも言ってたからな。」
納得のいってなさそうな香緒里に対し、秀人は更に続ける。
「サプライズの方が面白いだろ?」
「確かに盛り上がったけど………。」
秀人がヒールを履いてるため、いつもより見上げなければならない。
「まぁ、普段より照れられると微妙な心地ではあるけどな?」
そう言って香織里の頬に触れ顔を少しだけ近付けると、香緒里はちょっと赤くなって視線を逸らす。
「だって見慣れないし………美人なのにかっこよくてちょっと無理……!」
さすがの秀人もここで一瞬固まり、離れる。
少し耳が赤い。
「会長ーーそろそろ結果発表に入るぞー。」
やや棒読みで一輝に言われ、香緒里は小走りにそちらに行く。
「顔真っ赤。」
「いや、だってもう無理………。」
「ステージ上がるまでになんとかしとけよー。」
一輝に言われ、香緒里は慌てて手で顔を扇いだ。
結果、優勝はクオリティや盛り上がり、振る舞い等も含めて男装部門は璃子、女装部門は直樹となった。
盛り上がりに盛り上がったコンテストは、根室璃子ファンクラブ、秀かおファンクラブの拡大を助長し、直樹ファンも増やした、という噂を後々香緒里は耳にした。




