6、信頼
文化祭2日目。
今日も香緒里たちは朝から巡回している。
2日目ということで若干生徒達の気の緩みも出てきて、1日目よりもトラブルが多い。
物が壊れたり、ちょっとした怪我をしたり、来場者とトラブルになったり。
巡回と言いつつも大体がトラブル対応になってきている。
「昨日よりバタついてるな……。」
「生徒会のイベント、昨日にしておいて正解だったかもね。」
「ほんとな……。」
香緒里は今日も一輝と組んでいる。
「一輝、そういえば彼女さんと回らなくて大丈夫なの?付き合って初めての文化祭よね?
私一人で巡回も出来るし。」
以前彼女がいると話していたのをふと思い出して香緒里は聞く。
「あー……まぁ、生徒会入った時点でその辺は仕方ないのはわかってるからな。会長が劇出てる間にでも時間あったら回るよ。」
「そう……?いつでも言ってね?」
香緒里を一人で巡回に行かせたとなると心配性な彼氏に何を言われるか分からないので仕方ない、とは言えないが。
一輝自身も香緒里を一人で巡回に行かせるのは若干不安なところはあるので諦めてはいる。
彼女には別の形で穴埋めをするつもりである。
「あ、あそこ。」
香緒里は校舎の陰になっているところを指差す。
うちの女子生徒2人が他校の男子2人に絡まれているのが見えた。
そのまま走り出そうとする香緒里の腕を掴む。
「ちょっと待て落ち着け。」
「えぇ……?」
「俺が先に行くから。」
溜息をついて一輝は女子生徒たちに近付いて行く。
こういうとこなんだよな、秀人の心配しているところって。
戦えば香緒里が勝つは勝つだろう、強いので。
とはいえ、単純な腕力であれば男子側が強いことだってなくはないのだ。
そもそも女子が行った時点で舐められ、トラブルが助長されることもあるだろう。
「おい、何してんだ。迷惑がってるだろ。」
そう一輝が話しかけると2人は一輝を見て、一瞬止まった後舌打ちをしてその場から逃げた。
一輝はバスケ部であるため、身長は高い。
180cm近くはあるので見下ろされるとそれなりに威圧になる。
「一輝先輩、吉崎先輩、ありがとうございます!」
「助かりました〜。」
女子生徒はよく見ると男子バスケ部のマネージャーの後藤咲乃と奈津の従姉妹の大久保杏子だった。
「クラスの仕事中?」
「はい、そうなんです。ちょっと物が足りなさそうだったんで買い出しに行ってたんですけど、その帰りに絡まれまして……。」
香緒里が聞くと咲乃はそう答える。
「ナンパ目的のやつらもたまにいるから気を付けろ。男手もしっかり借りるんだぞ。」
一輝の言葉に二人は「はーい」と返事をし、再度香緒里たちにお礼を言った後、校舎の方へ戻って行く。
「こちら一輝。校舎東側らへんでナンパしてるやつらを発見。対処したが、恐らく他にもそういうやつらがいるだろうから、巡回時になるべく女子は少人数で動かないように声を掛けてくれ。」
『『了解。』』
一輝はインカムを切ると、香緒里を見る。
「これで多少は発生率下がるだろ。」
「ありがとう、諸々。」
「いーよ、会長をサポートすんのが副会長だろ。」
柚希を以前助けた時に、秀人に「危ないだろ」と言われたのを思い出し、ちょっとその意味が分かったような気もした。
確かに男子が行った方がすんなり事が収まりやすいのだろう。
『こちら時行。今2年のクラスを巡回中なんだけど、A組がすげー行列で他のクラスの所まで差し掛かりそうになってる。』
「脱出ゲームか……確かに一回転に時間はかかるけど、そんなに並ぶか?」
『秀人目当てで2周目3周目してる人達が結構いるっぽい。んで、A組が会長に来て欲しいって。』
「私??そりゃまぁそういう時の対応策はいくつか用意してるけど……。」
「………なるほどな。とりあえず行くか。」
妙に納得した様子の一輝と共に香緒里は2年A組に向かう。
途中生徒会室で目的の物を取り出し手に持つ。
A組に行くと前の廊下には確かに人が溢れていた。
廊下いっぱいに列を作っている。
丁度3階の一番奥の教室なので行き来する人の邪魔にはなっていないが、その列はB組の方まで来ている。
「確かにこれはやべーな。」
「お、来たきた。んじゃ、俺らは他のとこ見てくるねー。」
「お願いしまぁす。」
時行と里華は入れ替わりに巡回に戻って行く。
ちょっとすみません、と香緒里と一輝は列をかき分けてA組の入口まで行く。
「あ、会長と副会長。」
「激混みだな。」
「そうなんだよー、時間も決まってるからさ、捌くに捌けない感じ。」
「なのにどんどん人は増えてってちょっとどうしたらいいかわからなくて……、」
受付にいたA組の男子と女子がそう話す。
「一応、対応策はあるんだけど。学級委員の子いる?」
「残念ながら今部活の方のシフトなんだ。」
「そしたら誰に話通せばいいかな?」
その男子は少し考えた後、ちょっと待ってて、と行って教室の中に入って行く。
しばらくして秀人が出てくる。
並んでいた一般客の女性たちがきゃあきゃあ言うのが聞こえる。
緑高生は秀人には香緒里という絶対的彼女がいるので不用意に近付く人は少ないが、こうして一般客が混じるとその人気度がよく伺える。
そういえばそれで去年は裏方に回ってたんだっけな、と一輝は思い出す。
「あれ?香緒里、どうした?」
「行列がすごいって聞いたから対応しに来たの。
秀人がこの時間帯の責任者って事でいいの?」
「あぁ、それでOK。」
「それじゃあ。整理券、用意したから使って。」
「なるほど、ゲーム時間が決まってるから確かにその方が効率いいな。」
「ここからは任せても大丈夫?」
「もちろん。」
香緒里が整理券を手渡すとすぐに意図を読み取る。
少ないやり取りだがしっかり意思疎通が取れるのはさすがだな、と一輝は見て思う。
そして、確かにA組が香緒里を呼んだ意味はあったのかなとも思う。
秀人は表情はあまり変わらないものの、香緒里を見る視線や声のトーンが明らかに他に向けるものと違う。
それだけで『特別』であることが一見して察せるくらいには。
「それじゃ、一輝行こっか。」
「もういいのか?」
「うん、あとは秀人に任せておけば大丈夫。」
またね、と最後に声を掛けて香緒里は一輝と共に巡回に戻って行く。
「今の生徒会の人、彼女なんですか?」
業務に戻ろうとした秀人に一番前で待っていた他校の女子生徒が聞く。
すると秀人はちょっと笑って肩を竦める。
「やっぱり彼女なんですね……。」
別の女子高生もそう聞く。
「どうでしょうね。」
そう言いつつ、香緒里が去って行った方向を見る。
その声は接客時より柔らかい。
受付に座るA組の二人は、その表情を見て顔を見合わせる。
クールな新谷秀人にこの顔をさせられるのは生徒会長だけである。
「私もファンクラブ入ろうかな……。」
「え?マジで?」




