4、その視線の先
文化祭がスタートした。
今年も開場と共に多くの人がやってきている。
香緒里達生徒会は文化祭中は、巡回を基本的にしておりトラブル対応等を行ったり、イベントの運営などをする。
クラス、部活の担当の時間は明確に振り分けられていないので、時間が空いた時に顔を出したり手伝ったりするくらいだ。
そんなわけで無事に人が入場してきたのを確認した後、生徒会の腕章をつけて巡回を始めた。
丁度生徒会は男女3人ずつなので、トラブル対応をすることも踏まえて男女ペアで回ることになった。
一輝とペアで回る香緒里は文化祭用にまとめたメモを片手に持つ。
「とりあえずオープニングのダンス部が大丈夫か確認して、その後講堂の方のステージの準備が終わってるか見に行こうか。」
「そうだな。オープニング終わった後はそこからはけてもらわないといけないから、そこの動きも現場にいる実行委員の最終確認だな。」
サクサクとスケジュールを確認して動いて行く。
校内を歩いていると「会長、お疲れ様です〜!」と後輩女子から声を度々掛けられる。
それに対して手を振り返すとキャー!と嬉しそうな声が上がる。
「相変わらず人気だな。」
「なんだかよくわからないんだけどね………。」
『こちら時行、模擬店ブース異常なしー』
『こちら手塚、校庭のステージ準備、順調です。』
インカムを通して報告が入ってくる。
「了解。じゃあ巡回続けて。時行里華ペアは本館の2年3年のクラスチェック、柚希颯斗ペアは本館の1年のクラスと文化部の展示チェックで。私と一輝はこのまま第二体育館と第一体育館に向かいます。」
『『了解。』』
一先ず問題はないようだ。
第二体育館に行くと今年も2階はお化け屋敷になっていた。
3年A組が行っている。
3年になると体育館や特別教室を使うことが出来るのだ。
「去年ここ来たか?」
「スタンプラリーで来たよ。秀人や悠たちと。」
「そういえば悠と渡辺が優勝してたな。」
「一輝は来た?」
「2日目に行った、スタンプラリー関係なしに。」
今年はスタンプラリーはやらない。
とはいえ、お化け屋敷は人気のアトラクションの1つなので賑わっていた。
今年は洋風らしい。
第二体育館を出て第一体育館もチェックした後、インカムで報告していると、時行から通信が入る。
『こちら時行。3年のクラスの巡回は終わったんだけど、2年の教室行く途中で迷子発見。』
「了解、そしたら本部まで連れてって、その後校内アナウンスしてもらって。2年生のクラスの巡回は私たちでやる。」
『オーライ、また連絡しまーす。』
プツッと音がして一度通信が切れる。
来場者数が増える程トラブルは増えがちである。
また迷子や人探しは出てくるだろう。
二人は2年生の教室がある本館3階へと行く。
階段を上がり、一番手前の教室が2年E組、一輝や翔太のクラスである。
E組は今年はドリンクを売っている。
お茶やコーヒー、タピオカドリンクなどメニューは様々。
「あれ?香緒里と一輝だ。巡回?」
教室を覗くと丁度手が空いていたらしい翔太が気が付き寄ってくる。
「うん、そうそう。」
「問題はなさそうか?」
「大丈夫だと思うよ。売上もぼちぼち。今日も暑いからこれからまだ売れるんじゃないかな。その辺の予測は亮がやってくれてるけど。」
教室の中を見ると亮は会計係をしつつパソコンであれこれデータを打ち込んでいる。
確かにそういうリサーチは得意そうである。
「また後で見に来るわ。人手足りなさそうだったら俺も時行も出るから言ってくれよ。」
「了解、頑張ってね。」
翔太に手を振り、次に隣のD組を見る。
今年のD組は大正ロマンカフェ。
男子は学ラン、女子は女学生風の袴を着ている、要はコンセプトカフェだ。
圭がこちらに気付いてやって来る。
「香緒里ちゃんおつかれー。」
「圭もお疲れ様。D組は問題なさそう?」
「うん、大丈夫そうかな。」
「雪音や奈津、かわいいから変なお客さんに気を付けてあげてね。」
「もちろん。亮と翔太にも頼まれてるしね〜。」
とはいえ圭自身も女性に絡まれそうな気はするが、まぁ圭なら何とかなるだろうとも思う。
いつもの制服はブレザーなのに対して今日は学ラン。
雰囲気がまた違って女子生徒の目を魅いている。
圭にも「気を付けてね。」と声を掛けつつ、次にC組を見る。
「うちのクラスの本番は明日だから、特に問題はないだろうけど……。」
「今日は展示と写真撮影会と、後はPV流すんだっけか?」
「そんな感じ。」
教室を覗くとお客さんはまばらで、C組に友人がいる生徒達がキャスト達と写真撮影をしている。
黒板に掛かったスクリーンには劇のPVが映っている。
PVは直樹作成だ。
「巡回お疲れ様〜。」
友代が声を掛けてくる。
「問題なさそうね?」
「うん、今日はみんなまったりだね。香緒里も今日はクラス気にしなくて大丈夫だと思うよ。」
「ありがとう。でもなんかあったら言ってね。」
隣のB組はポップコーンを売っている。
塩やキャラメル、チョコなど味は様々。
食べ歩きに向いているため、人もそれなりに並んでいた。
こちらも問題なし。
その隣のA組は脱出ゲームだ。
教室を4つに区切り、4ブースでそれぞれ謎解きをしている。
謎解きの内容は概ね秀人が考えたと聞いている。
受付の生徒に話し掛けていると教室の中から真が出てきた。
「香緒里も一輝もお疲れ様。」
「なかなか本格的な脱出ゲームっぽいな。」
「面白そうだねぇ。」
最近世間的にも脱出ゲームは流行ってるのもあり、それなりに待っている人達もいる。
「秀人は中?」
「あぁ、中で脱出に時間かかったり詰まったりしてる人達にアドバイスしてる。」
香緒里が聞くと真は中に目を向けて言う。
丁度脱出し終わった人たちが出てきたところで、アドバイスをもらったのかお礼を秀人に言っているところだった。
他校の女子生徒のようで、秀人の顔を見て赤くなっている。
対して秀人は一切表情を変えず、真顔で対応しているが。
やっぱりモテるんだよなぁ……とそれを見て香緒里は思う。
それを見るとちょっと心の中がモヤモヤする。
真はその視線に気付き、ちょっと苦笑いをする。
ヤキモチに自覚があるようで自覚ないんだよなぁと思う。
女子生徒が出口に行くのを目で追った秀人と香緒里の視線が合う。
秀人は表情を和らげ、こちらに来る。
「お疲れ、来てたんだ。」
「うん、巡回で。」
「体調は問題ないか?」
「今日は大丈夫、無理してないよ。」
「ならいい。」
短いやり取りではあるものの、香緒里を見る秀人の視線、秀人が来て嬉しそうに笑う香緒里の顔を見れば、二人が親密な関係にあることは周りの一般客にも一目瞭然である。
「相変わらずだなお前ら………。」
「……?何が?」
二人のやり取りを見た一輝が言う。
真はもう慣れっこなので今更何も言わない。
香緒里は分かってない様子で首を傾げるが、秀人は分かった上で何も言わない。
『こちら里華でーす、迷子の子は無事保護者と合流出来ました〜。そろそろ午後のコンテストの準備に時行先輩と入りますね〜。』
里華から通信が入ってきた。
「了解。私たちももう少ししたらそっちに向かうね。」
「もう11時か。確かにそろそろ最終の流れの打ち合わせだな。」
スマホを出し、一輝は時間を確認する。
午前中のそれぞれのブースはとりあえず問題のない様子だ。
「それじゃ、2人とも頑張ってね。」
「コンテスト、見に行くからなー。」
香緒里はそう言って秀人と真に手を振り、真はそう返した。
「一輝。」
「わかってるよ、ちゃんと見とく。」
秀人が呼び掛けると一輝は少し呆れたような表情をしつつも意図を理解して手をひらひらさせる。
「過保護だな。」
A組から離れてから一輝は小さく呟いた。
「何か言った?」
「いや、なんでもねーよ。」
本人はさっぱり理解してないから心配するのも仕方がないのかもしれないが。




