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一期一会  作者: 雪奈
第12章 秋めく文化祭
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3、無理しない


翌朝。

ぐっすり寝たせいか、少し高めだった熱は微熱くらいまで下がり、頭痛はなくなった。

怠さはまだ若干残る。


「香緒里、大丈夫なん??朝ごはん行ける?」

「うん、とりあえずは大丈夫かな。」


同室の美愛に声を掛けられそう答える。

朝食は食堂の方に行けそうなので行くことにする。

昨夜は夕食を食べずに寝てしまったのでお腹は空いている。


食堂に行き、朝ご飯を片手にテーブルを探すと既にいつものメンバーがいた。


「香緒里、大丈夫なの……???熱は??」


席を立ち近寄って、心配そうに雪音は言う。

倒れたという話は聞いていたが、昨日の香緒里に会ったのは秀人と、同室の美愛だけだったので様子が分からなかったのだ。


「うん、とりあえずは……心配掛けてごめんね。」


笑ってそう言うと、雪音は少しホッとしたように釣られて笑った。

相当心配していたらしい。

雪音の母が亡くなった経緯を聞けば、当然と言えば当然なのかもしれないが。

翔太もそんな雪音を見て、目を細めた。


空いていた秀人の隣の席に座る。

秀人は香緒里の顔をジッと見た後、何も言わずに香緒里の額に自身の手を当てる。


「……まだちょっと熱あるだろ。」

「………あります……微熱です……。」

「今日も休め。学校もだぞ。」

「……わかった。」


その光景を見ていた周囲がザワつく。

いつもより注目度が高い気がした。


「そういえば、昨日香緒里が倒れた時、秀人がお姫様抱っこで連れ去ったって、めちゃくちゃ話題になったんだよ。」


やり取りを見ていた沙世はご飯を食べながら言う。


「え………。」


香緒里は固まった。

熱ですっかり忘れていたが、そういえばそんな運ばれ方をしていた。

思い出して顔を赤くする。


対して秀人は顔色を変えず、箸を手に取る。


「ほらこれ見て。」


沙世はスマホを同じテーブルの香緒里、秀人、雪音、翔太、真に見せる。

そこにはお姫様抱っこを秀人にされて運ばれる香緒里の写真。


香緒里は手で顔を被って沈む。


「これの画角違いがあちこちで出回ってるみたい。」


沙世の持っている画像はファンクラブの後輩から貰ったらしい。


「とりあえず、消せ。」


真顔で秀人は沙世に告げる。

沙世は大人しく削除ボタンを押した。

逆らうのはよろしくないのは経験上知っている。


「まぁ、あの時のあれは確かに沸くのはわかるけどね………。」

「秀人の動き出しめちゃくちゃ早かったからな……俺が見た中で一番早かった秀人。」


雪音と翔太はそう話す。

4人も遠目にその光景を見ていた、というかそもそも秀人と一緒にいた。

香緒里が生徒会メンバーと一緒に入ってきたなと認識した時には既に秀人はそちらに向かっていた。


「入ってきた時から顔色よくなかったからな。」

「あの距離でよく見えるな……。」


少なくとも真にはそこまでは見えなかった。

とはいえ沙世のことなら遠目でも分かるかもしれないな、と呟くと沙世は固まった。


「とりあえず、香緒里の熱が上がらないように、この話はここまでにしておかない……?」


雪音がそう言い、話題を別の方向にシフトさせようとする。

ともかく、昨日の一件で秀かおファンクラブが拡大したのは間違いないだろう。



------------------


その翌日には熱もすっかり下がり、香緒里は学校に通いだした。

生徒会の仕事も再開する。

ただ、病み上がりのため、部活はまだ控えることにした。


登校し教室に入ると香緒里は町田の元へ行く。


「おはよう、ちょっといい?」

「おはよ。吉崎、倒れたって聞いたけどもう大丈夫なのか?」

「うん。まぁ全快か、って言われると微妙なところだけどとりあえずは平気。」

「ならいいんだけど……。忙しいのに脚本も頼んじゃってごめん。」


町田はそう言って頭を下げる。


「ううん、私が言いだしたことだし………。あ、それでね、脚本読んだ???」

「読んだ読んだ!めっちゃよかったよ。」

「ほんと!?よかったぁ。」


ホッとしたように笑顔になる香緒里に町田はちょっとだけ顔を赤らめる。

が、脳内に新谷秀人がチラつき急いで表情を戻す。

ちなみに香緒里は気付いていない。


「もし劇を実際にやってみてちょっとやりづらいとか、変えた方がいいんじゃないかってところがあったら、みんなで変えていって欲しいんだ。私は毎回見れないと思うし。」

「わかった。船橋とかもそういうの得意だと思うから、やってみるよ。」

「助かる、ありがとう。」


本当はそこも自分でやろうかと思っていた。

けれど、時間的にも体力的にも無理をしなければいけないと昨日休みながら考えたのだ。

『もっと人に頼れ』と秀人に言われた言葉を反芻した結果だ。




----------------


文化祭まであと1週間となった。

例年通りこの期間は文化祭準備期間となり、放課後の部活動はなくなり、今日はクラスの準備の日、明日は部活の準備の日と毎日交互に準備することになっている。


香緒里たち生徒会はクラスや部活にも顔を出しつつ、生徒会の仕事をする。


今日はクラスの準備日。

香緒里が生徒会で仕事をしていると廊下を走ってくる音が聞こえ、思い切り扉が開け放たれた。


「トッキー!!!!!!お前何勝手に俺のこと女装コンテストにエントリーしてんだよ!!!」


悠だった。

劇の練習中だったのだろう、王子風の服を着ている。


うるさ、と柚希は呟いた。


「あ、バレちゃった?」

「渡辺に聞いたんだよ!なんであいつが知ってんのか知らねーけど!」

「まぁ渡辺さんもエントリーしてるからねー男装コンテストに。ついでに教えちゃった☆」

「せめて俺に一言聞いてからやれよ!」

「聞いたら絶対嫌だって言うでしょ?」

「当たり前だろ!」


今年の生徒会主催の文化祭イベントは男装女装コンテストだ。

もちろん、時行の考案。

自薦他薦どちらもあり。

美愛も他薦である。

他薦の場合は大体その後に本人に伝えられるのだが、時行は伝えていなかったらしい。


「吉崎も知ってたなら早く教えてくれよ………。」

「てっきりトッキーが伝えてると思ったから。」

「やっぱりお前のせいじゃねーか!」


香緒里も他薦でエントリーされている。

知り合いの中だとあとは直樹、璃子がそれぞれ他薦でエントリー済みである。


「悠、諦めろ。こいつは取り下げねーよ。」


一輝にそう言われ、悠は肩を落とす。


「今年は女装しないで済むと思ったのに………。」


ちなみに時行は去年のC組の男装女装喫茶を見て、この企画を思い付いたらしい。

なので悠をエントリーしたがるのは自然といえば自然である。


「あ、吉崎、今クラス来れるか?そろそろちょっと通しで練習しようと思ってるんだけど。」

「そう、だねー……今なら行けるかな。いい?行ってきても。」

「いいぞ。俺らもそろそろ顔出しに行くか。」

「そうだねー。」


他のメンバーも作業を中断させ、クラスに行く準備をしだす。

香緒里は一足先に悠と共に生徒会室を出た。


「衣装似合うねー。」

「そうか???俺的には違和感だらけなんだけど。」


悠は歩きながら自分の衣装を見下ろす。


「うん。悠は元々顔はいいし、最近は身長も伸びてきたし。かっこいいと思うけど。」


入学当時は香緒里の方が身長は高かった。

だが1年かけて少しずつ悠は身長を伸ばし、今では香緒里より目線が高い。

香緒里の言葉に悠はチラリと見る。


「吉崎ってほんと直球だよなー……俺だからまだいいけどさ、他の男にあんまりそういうこと言わない方がいいぞ??」


悠は美愛以外見ていないので言われても普通に褒め言葉として受け取り、それ以上の気持ちはないが、普通の男ならば香緒里にそう言われたら落ちる可能性は高い。

そりゃ秀人も心配になるよなと改めて感じる。


「そう……??」

「そう。真面目な話。」

「……わかった、気を付ける。」


意図は多分よく分かっていないだろうが、とりあえず了承してもらえた。


教室に着くと他のキャストも衣装合わせが終わっていた。


「おかえりー。あ、香緒里も連れてきてくれたんや。」

「わーやっぱり美愛似合う!!配役美愛にしてよかった〜!」


香緒里は美愛の姿を見て喜ぶ。

美愛の役は騎士、つまり男装だ。

甲冑を模した衣装はスラリと背の高い美愛によく似合っている。


「俺よりかっこいいのずるくね……??」

「そ?でも悠もちゃんとかっこええよ?」

「………そうかよ。」


先程香緒里に褒められた時とは打って変わって悠は少し顔を赤くして目線を逸らす。

香緒里はニコニコとその様子を見る。


香緒里の書いた脚本は、呪いで塔に閉じ込められた姫を王子が助ける、という王道ラブストーリーだ。

美愛は姫にずっと従っている騎士。


ラブストーリーにしたものの、多分このキャスト陣ならば勝手にコメディにも寄ってくれるだろうなとぼんやりと思っている。

それならそれできっと面白いからいいだろうなとも。


そして主役の姫である直樹はというと、絶賛メイク中だ。

メイクをしているのはもちろん沙世。


「よーし出来た!私天才!元の素材がいいのもあるけど!」


沙世はくるりと直樹をみんなの方へ向ける。

ドレスを着て、ウィッグをつけ、メイクもしっかりした直樹はまるでお人形のようだった。


「可愛い……!!!!」

「え、直樹……?マジで……?」

「どうしよう、俺タイプかもしれん。」

「私より全然かわいいんだけど!?」


クラスメイト達は直樹を見てザワつく。

沙世に鏡を持たされた直樹は自身を見てびっくりする。


「オレ、めっちゃかわいいね……!?これ、女装コンテストも優勝出来る?」

「いけるでしょ、もちろんそっちのメイクも任せて!なんならこのまま出れば劇の宣伝にもなるか……?」


去年よりレベルの上がった女装直樹。

確かにこれならコンテスト優勝も夢ではないかもしれない。


「さ、それじゃ香緒里も来たことだし、練習しましょうか!」


監督を買って出てくれた船橋友代が号令をかけ、練習が始まった。


仲が良いのが売りのC組。

今年は文化祭のクラス部門の優勝も狙っている。

目指せ体育祭との2連勝だ。


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