1、登校日
夏休み中の登校日の日。
今日は文化祭のクラスの出し物について話し合いをするための登校日だった。
校舎自体は香緒里は生徒会の仕事で夏休み中もしょっちゅう通っていたので久しぶりではないのだが、教室には行ってないのでこちらは少し久しぶりだ。
「教室来ると、なんか夏休み終わったって感じになるよね〜。」
「まだあと数日あるんだけどね。沙世、今年は宿題大丈夫…?」
谷中沙世と一緒に教室に入りながら香緒里は聞く。
「うっ………まだ終わってない、けど、去年よりは終わってるから……!」
「また最終日に泣かないように今日帰ったらやりなよ?」
「はい……。」
去年は沙世は香緒里のルームメイトでもある渡辺美愛と共に夏休み最終日に香緒里に泣きつき、宿題を一晩かけて仕上げるはめになったのだ。
美愛も宿題は恐らくあんまり進んでいないであろうことは同室の香緒里にはわかっているので、今日部屋に帰ったら釘を刺しておこうと思った。
生徒会の仕事もあるので今年は見てあげられる余裕はないだろうから。
その美愛は教室の1番前の席にいる鮎川悠と二人で話している。
付き合う前後くらいからあぁしてよく二人でいるのをよく見掛けていた。
時折言い合いはしてるものの、以前のようなトゲトゲした感じはなく、空気感は柔らかい。
スキンシップはないが、仲良いのがよくわかる。
そんな二人の空気感に気付いたクラスメイトは多く、その中の一人である、香緒里と共に学級委員をしている町田が二人の傍に行く。
「なぁ、夏休み前からちょーーーっと気になってたんだけどさ、もしかして二人付き合い出した……??」
「そうやけど?」
「まぁ、つい最近ではあるけどな。」
町田の質問に美愛と悠は恥ずかしがることもなくそう答えた。
やり取りを固唾を飲んで見守っていたクラスメイトたちはその答えを聞き、歓声を上げた。
「マジかーーーー!!」
「ようやくか!」
「悠おめでとう!!」
胴上げするんじゃないかくらいの勢いでクラスメイトたちは二人の周りに来て声を掛ける。
既に二人から話を聞いていた香緒里、沙世、須賀由美、渡辺直樹はその様子を輪の外から眺めて笑った。
---------
「なるほど、なんか大歓声が隣のクラスから聞こえてきたなと思ったら、そういうことだったのね。」
「すごい歓声だったものね。」
その日の夜の談話室で沙世から昼間の話を聞いた上原奈津と安西雪音は納得したように頷いた。
「E組にも聞こえてきたよ、それ。」
石川翔太も笑って言う。
何事かと思っていたが理由を聞くとまぁそうなるよな、と思う内容である。
「うちのクラスは1年間2人を見てきたからね〜感慨深いよね。」
沙世は首を縦に振りながらそう言った。
2年次にはクラス替えがないため、メンバーは去年と変わらないのだ。
「騒ぎすぎなんだよ……。」
若干眉根を寄せて悠はそう言った。
なかなかの騒ぎではあった。
「照れてるん?」
「照れてねーよ!……苦手なんだよ、あーいう風にからかわれるの……。」
隣に座る美愛に言われた悠は溜息混じりにそう言う。
それを見て美愛はちょっと面白そうに笑う。
「まぁ、悠は分かりやすかったからなー。」
「気にしてる人達も多かったんだろ。」
新谷秀人と沢田真はそう言う。
余程鈍い人でない限りは二人の周りにいる大体の人が、悠が美愛のことを好きであることに気付いていただろう。
「それはそれで穴があったら入りたい……。」
途中から若干開き直って否定するのをやめてはいたが、バレバレであったことはやはりちょっと恥ずかしいらしく、悠は頭を抱えた。
「美愛ちゃんはあんまりそういうの気にしてないよね。」
「あーまぁせやなぁ。」
対照的にあっけらからんとしている美愛を見て、由美は言う。
「まぁ、悠のこと好きなんは事実やしな。隠すのも変やろ。」
「お前……そういうこと普通に言うなよ……。」
好き発言に悠は顔を赤くする。
まだまだ美愛の方が上手ではある。
見ている面々はこっそりニヤニヤする。
「そういえば、C組は劇やるんだっけ?」
兄がちょっと可哀想になった鮎川圭は話題を変えるために沙世に話を振った。
「そうそう、今年は劇やるんだー。キャストは大体決まったよ。悠が主演で王子、直樹が姫。」
「ちょっと待ってツッコミどころが多過ぎるんだけど!?」
配役を聞いた圭は声を上げる。
「お前、演技出来るのか?」
鮎川亮は弟に目を向ける。
「出来ねぇよ!なんでこんなことになってんのかさっぱりわかんねーけどいつの間にか押し付けられてた………」
哀れ悠。
希望していないのに主演に抜擢されたらしい。
「まず直樹が姫に推薦されたんだよねーで、直樹がそれなら相手役は悠がいい、って言うから。」
「まずそこがよくわからないけどな???」
今度は真が突っ込む。
ただ、小柄でクォーターの直樹が元々なかなかの美少年であることは事実で、女装がめちゃくちゃ似合うのは去年の男装女装喫茶で証明済みではある。
ネタ枠という意味も含めての抜擢である。
「ユウとやったら楽しそーじゃん?」
「俺は別に楽しくないんだが????」
とはいえ、やるとなったら意外と真面目なのが悠なのでC組のメンバーも然程そこは心配していない。
「あとは香緒里の脚本次第やなー。」
「え、香緒里が脚本するの??」
「うん、そうそう。」
美愛の言葉に雪音は驚いたように言う。
「ちょっと待て。」
秀人がワントーン低い声で会話を止める。
その一声でちょっと察した圭は由美と直樹をこっそり自分の元へ呼んだ。
「沙世、悠、渡辺………お前ら、香緒里が今生徒会の仕事と、国体に出てるための練習で忙しいこと、知っているよな??」
秀人は3人の前に立ち、見下ろす。
「それはもちろん知ってるけど……。」
「なんで話し合いの時に止めなかった??」
声は荒らげていない。
淡々と言っている。
なのにめちゃくちゃ圧がある。
3人は冷や汗が出てきた。
「カオリが自分でやるって言い出したんだよー?本番や練習は多分あんまり顔出せないから、脚本だけでもーって。」
圭に呼ばれて離れた位置にいた直樹がそう言う。
それを聞いて、秀人は溜息をついた。
「……なんで自ら仕事を増やすかな……。」
「香緒里らしいっちゃらしいわねぇ。」
肩を落とす秀人に苦笑いをしながら雪音は言う。
過保護だよなぁ、と翔太は秀人を見て思う。
香緒里が無理をしがちなので心配なのはよくわかるのだが。
ちなみにこの場に香緒里はいない。
20時を過ぎた今も、多目的棟の4階の部屋で文化祭実行委員会と共に打ち合わせ中である。
「まぁ、沙世達が止めたところで香緒里がやめたかはわからないんじゃねーか?」
沙世の隣に座って話を聞いていた真は秀人に向かってそう言う。
止めた方が良かったのかもしれない、とは沙世達も確かに思う。
止められるとしたらクラスの中で沙世達くらいだろうというのもわかる。
とはいえ、である。
「まぁ、そうなんだけどな……。」
悪い、と秀人は言い、再びソファに腰を下ろす。
大丈夫と言って頑張ってしまい、頑張れてしまう香緒里が心配なだけなのではあるのだが、本人にはなかなかそれが伝わらない。
無事に文化祭を乗り越えてくれればいいのだが、と秀人は思う。




