表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一期一会  作者: 雪奈
第11章 夏雲を越えて
PR
124/127

7、前に進む


香緒里と秀人が部屋を出る少し前。


男子部屋で悠は布団の中に入っているものの、眠れずにいた。

帰りの電車でうたた寝をしていたせいか、妙に目が冴えてしまっていたのだ。


他の友人らは皆寝ている。

秀人は時折寝返りを打っているので眠りは浅そうだが。


どうしたものかと思っていると、スマホが振動する。

開くと、美愛からメッセージアプリに『まだ起きてる?』と来ていた。


『起きてる。何かあったか?』

『ちょっと、散歩に付き合ってくれへん?』

『わかった。着替えたら部屋出る。』


誘われて断る理由もない。

悠はすぐに浴衣から服に着替えるとスマホだけ持ち、部屋の外に出た。


既に美愛も着替えて待っており、二人は静かに旅館の入口の方へと行く。

フロントにはもう人がいなく、暖簾の奥の従業員用の部屋に光が点っているだけで暗かった。


手馴れた様子で引き戸を開け、美愛は外に出る。

二人で外に行き、旅館の敷地から出て少しした頃、美愛はようやく口を開いた。


「急に呼び出してごめん。」

「眠くなかったし、全然いいよ。」

「ならええんやけど……。」


美愛は歩きながら少し周りを見回す。


「久しぶりに帰って来たから、家の周りを歩きたかったんやけど、昼間はちょっと出歩く勇気なくてな。夜なら、人にもあんま会わんかな思て。」


美愛は、夜一人で歩くのは危ないやん?と言っているが、多分本音は一人で出歩きたくなかったのだろう。

だから、悠を誘った。

何かあった時に頼ろうとしてくれることは素直に嬉しい。


逃げずに前に進もうと頑張っている。

だがしかし進む明確なきっかけがなく困っているようにも見える。

この散歩も恐らく気持ちを整理するためのものだろう。


昼間の話や他愛ない話をしながら二人は閑静な住宅街を歩く。

時刻は23時前頃なので人通りはほとんどない。


前から来た自転車の明かりに少し目を細める。

その自転車は悠と美愛の横を通り過ぎた後、急ブレーキを踏んだ。


「美愛……!?」


名前を呼ばれ、振り返ってその人の顔を見た美愛は表情を強張らせる。


「帰ってきてたんや……。」


自転車に乗ってたのは、同い年くらいの制服を着た少し明るめの髪色の女子高生。

自転車を降り、こちらに近付いて来る。


「瑛子………。なんでここに……。」

「バイト終わって帰るとこや。」


恐らく、美愛の元同級生だろうと悠は察する。

いじめていた唯でも弥生でもない。

美愛の顔色はあまりよくない。

無理矢理このまま立ち去ることも出来なくはない。

けれど、それでいいのだろうか。


「少し、話せへん?」


瑛子と呼ばれたその女子高生は美愛にそう聞く。

美愛は悠の方を横目でチラリと見た後、「わかった。」と返事をした。


瑛子の後を付いて行き、近くにあった公園に入る。

二人はベンチに座り、悠はそこから声がギリギリ届くくらいの距離に立った。


「元気………してた?」

「まぁ………一応……。」


瑛子に聞かれ、美愛は歯切れ悪く答える。


「毎年、帰ってきてたん?」

「いや、今回が初めて……5年ぶりくらいに、戻ってきたん。」

「そっか………。」


向こうも向こうで若干気まずい様子ではあるようで、探り探りという感じに美愛に投げかけている。

元々、美愛の友人だったのだろうということはわかった。


「まぁ、帰っては来づらいよなぁ………。」


小さく呟いた後、瑛子は美愛を見た。


「うち、ずっと美愛に謝りたかったんや。」

「え……?」

「唯と、弥生のこと……面白がって虐めてたんはうちやうちの周りも一緒だったのに、唯が自殺しようとして、警察まで出てきて………怖くなって、全部美愛のせいにした。」


突然そう言われ、美愛は面食らう。


「いや………でも、うちが悪いのは事実やし………。」

「美愛が中心だったのは確かに間違いやないけど、美愛だけのせいでは絶対なかったんに………うちらは逃げた。」


瑛子は膝の上に置いた手を握り締める。

一度唇をギュッと噛み、続ける。


「全部美愛のせいにして、逃げて、本当にごめん。弱くて……ごめん……。うちだけやない、他にも同じように思ってる子達もいる。もちろん、気にしてないやつらもおるけど………。」


そう言って、瑛子は頭をさげる。


「謝ったって、あの時のことはなかったことにならん。唯も弥生も傷付けたし、うちらは逃げて美愛を一人にした。これは変わらん、けど、どうしても伝えたかった。美愛、真っ直ぐな子やから、絶対一人で抱え込んでると思って………。」

「瑛子………。」

「ほんまに、ごめん。」


何と返したらいいか分からず、美愛は黙る。

許す、というのも何か違うような気がするし、じゃあお友達に戻りましょうというのもまた違う気がする。

困っている美愛に気付いたのだろう、瑛子は苦笑する。


「突然こんなこと言われても困るわなぁ。すまん、うちが伝えたいことだけ伝えてしもて。」


まぁこれも結局自己満足でしかないんかなぁ、と瑛子は言う。


「唯も弥生も、今は楽しく過ごしてるみたいやで。」

「そっか………。」

「ほな、聞いてくれてありがとう。遅くなるし帰るわ。」

「………瑛子、今日会えて……良かった。」

「うちもや。」


少しだけ美愛は笑みを浮かべた。


「彼氏さんも、付き合わせてしもてすまんなぁ。美愛のこと、よろしくな。」


瑛子はそう悠にも声を掛け、帰っていく。

彼氏ではないんだが………と否定するタイミングはなかった。


瑛子が公園を出た後も、美愛はベンチに座り、空を見上げていた。

悠はその隣に腰を下ろした。


「ずっと………自分だけのせいやって思ってきたけど………うち以外にも、後悔してる人たちおったんやな。」


美愛はそう空に向かって言う。


「渡辺だけのせいじゃないだろ、って言ったろ?」

「せやったなぁ………もちろんうちの罪がなくなるわけでは全然ない。けど………なんやろ、同じ気持ちの人がいるんやって、分かって………少しだけ、気が楽になったような気がする………これ、ええんやろか?」

「いいだろ。お前は一人で背負い込み過ぎ。」


悠の言葉に、美愛の目から涙が零れる。


「前に進むの、怖かったんや。それは逃げてるんじゃないか、忘れようとしてるんやないか、って。でも………そうやないねんな………過去抱えたまんま、前に進むんでも、ええんやな……。」


罪はなかったことにはならない。

許しても貰えないだろう。

罪悪感が消えることもない。

けれど、忘れなくていいのだ。

忘れることが前を向くことではない。


「うちが、そう思えたんは、悠がいてくれたからや。」


涙を拭い、美愛は悠を見る。


「悠が一緒にいてくれたから、大阪まで帰って来られた、前に進もうって思えた。」


言葉を区切り、じっと目を見つめる。


「うち、悠のこと好きや。これからも傍にいて欲しい。」

「当たり前だろ。言われなくても、傍にいる。」


悠はそう言うと、美愛の頭を自分の肩口に乗せる。


「俺は、渡辺のことずっと好きだよ。初めて見た時から。」


ずっと口にはしていなかった言葉をようやく口にする。

すると、美愛は「ちょっと待った。」と言って顔を上げた。


「もしかして………一目惚れなん?」

「………悪いかよ。」

「一目惚れって、こう、その後悪いとこ目ぇついて好感度下がるようなイメージあるんやけど。」

「……中身知って、更に好きになったんだよ……あーーーもう!!言わせんな!帰るぞ!」


悠はそう言うと顔を赤くして立ち上がる。


「そうか〜それは知らんかったわ〜。」

「もういいだろ……!」

「よくないわ、嬉しいもん。」


笑って美愛がそう言うと、悠は今度は耳まで赤くなる。


「………そうかよ……。」


手を美愛に向けて差し出す。

そしてもう一度、帰るぞ、と言う。

美愛は微笑んでその手を取った。


「ありがとう、悠。」


様々な思いを込めて、美愛は手を引いて前を歩いていくその背中に向かって、呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ