6、隣にいたい
美愛たちは、ハリウッドがコンセプトのエリアでジェットコースターに1つ乗った後、エリアを移動していた。
「足付かないし、支えはお腹のとこしかないからすごい怖かった………。」
「足が付ければお腹のとこのバーだけていいんだけどね。付かないなら肩あたりを抑えて欲しい。」
絶叫系強者の5人と違い、一般的な感覚を持つ由美と圭にとってはそれなりに恐怖を感じるレベルのアトラクションだった。
由美は隣を歩く圭のことを見上げる。
「圭くん、元気そうで良かった。」
「んーーまぁ、最初のうちはね、さすがにちょっと落ち込んだけど。割りと上手く立ち直ったつもりだからね。」
圭は美愛に気持ちを伝えた話を由美だけに話していた。
身を引いたことは香緒里や奈津達も勘づいてはいるだろうけど、わざわざ話すまでもないと思ったのだ。
心配も掛けたくないし。
「そんなわけだから、この旅行は気にせず楽しめてるから平気だよ?由美ちゃんもいるしね!」
「またそういうこと言って。」
いつもの調子で言う圭に由美は苦笑する。
だいぶこのテンションの圭にも慣れた。
魔法の世界がコンセプトのエリアに着く。
まるで映画の中のような建物に一同は「おぉぉ。」と感嘆の声を上げる。
「おーーっと直樹、そっち行くと離れるぞ?」
またもフラフラと店のある方へ一人で歩き出す直樹の腕を圭は取った。
捕まえていたはずの美愛はというと、少し高い位置にある建物の方を見上げてぼんやりしていた。
「……どうした?」
隣に立った悠は美愛の顔を見て聞く。
声を掛けられ、そちらから視線を外し、悠の方をチラリと見る。
「いや……昔、いじめとかなんもない時に友達とかと来たなぁって思い出してん。」
「そっか。その時は楽しかったか?」
「せやなぁ、多分、楽しかったんだと思う。もう、あんまり覚えてへんけど……。」
覚えてないというより、多分無意識に忘れようとしているのかもしれないけれど。
「んじゃ、今回はそれ以上に楽しく過ごして、思い出塗り替えるか?」
悠はそう言って笑う。
「なるほど?」
「ということでまずは杖買いに行こーぜ!絶対欲しかったんだよな〜」
楽しそうにそう言い、歩き出す悠に釣られて美愛も笑う。
「うちも杖は持っとらんなー。あれあると色々仕掛け楽しめるねん。」
「亮、杖は買う?買っちゃう?」
「………杖ならまぁ、いいか。」
「オレ、ローブも欲しいな〜。」
「一式買うと結構高くない???」
「それはそう。」
「お金持ちらしからぬ発言ね、圭くんも悠くんも。」
わいわい騒ぎながら、グッズの売っている店へと向かう。
思い出の塗り替え、か。
この旅行自体がそうなのかもしれんなぁ、と美愛は悠を見てそう思った。
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夕方頃、香緒里たちは美愛たちとようやく合流した。
人も多く、列に並んでる時間もあったのでなかなか会えなかったのだ。
「香緒里と沢田、結局あの後何か乗れたの??」
「乗ったは乗ったけど………。」
「結局ちょっと酔ったな。」
奈津に聞かれた香緒里と真はそう答えた。
ここのテーマパークの黄色い人気キャラクターのアトラクションに乗ったのだが、思ったよりも視界の揺れが激しく、降りてからもしばらくフワフワしていた。
どちらかといえばここのテーマパークは三半規管にダメージのあるアトラクションが多い気がする。
面白かったは面白かったんだけどねーと話す香緒里達を少し離れた位置から見つつ、この後どうするか考えていた秀人の傍に沙世が寄ってくる。
「最近、ちょっと秀人の気持ちが分かるようになったわ。やばいね、無自覚。」
こそこそとそう沙世は秀人に言う。
あの後も何度か真は沙世のことを固まらせていた。
「…だろ?」
「香緒里のあれに耐えられてる秀人のメンタル強靭過ぎない???」
「毎度結構ギリギリなんだけどな………。」
苦笑してそう漏らす秀人を見て、沙世はちょっと楽しそうに笑う。
「クールな秀人の余裕をなくさせるのは香緒里だけだもんね〜。秀かおファンクラブの人達に見せてあげたいくらい。」
「沙世、お前楽しんでないか???てかなんだよその略称。」
「なんか最近正式名称になったらしいよ?」
「なんでそんなに詳しいんだよ………」
「部活の後輩が会員なんだよね………ってそんな目しないでよ!情報提供とかはしてないからね!?さすがに香緒里の名誉のためにもそんなことしないから!」
「………ならいいけど。」
香緒里の人気が上がると共に、徐々に規模が拡大しているらしいファンクラブ。
沙世は入らないものの、気持ち的にはちょっと似たようなものである。
「ともかく、ちょっと今日は私はいっぱいいっぱいなので、とりあえず行ってきます。」
すちゃっと敬礼をした後、沙世は真の方へ駆け、抱きつく。
抱きつかれた真は驚いたものの、少し嬉しそうな顔をして沙世の頭を撫でる。
あのくらいストレートに表現出来たら楽なんだろう、と秀人は見て思う。
沙世と入れ替わりに香緒里が秀人の傍にやって来る。
「ご飯買いに行こうかーって美愛が言ってるから、そろそろ出発しよ?」
「ん、わかった。」
「沙世と何話してたの?」
「んーー香緒里がかわいいって話?」
そう秀人が笑って言うと香緒里はちょっと顔を赤くした。
話の内容的には間違ってはない。
ほら、行くんだろ?と秀人は香緒里の手を取って美愛達の方へ向かった。
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夜のパレードを見てから帰宅し、風呂へ入って布団へ入ると皆ものの数分で寝てしまった。
炎天下の中一日歩いたため体力の消耗は激しい。
三半規管弱い組が特にダメージを受けたのは気温のせいも多分ある。
うとうとしていた香緒里は物音でぼんやり覚醒した。
横の布団を見ると美愛がいない。
外に出たのだろうか?
少し気になった香緒里は布団から出て浴衣を整えると部屋を出て廊下を見る。
既にもういないようだ。
女子部屋男子部屋井口の部屋と並んだ先の廊下の突き当たりから顔を覗かせるもそこにもいない。
まぁその先は階段しかないのだが。
外に出たのだろうか?と思っていると、男子部屋の扉が開いた。
「香緒里?」
「秀人……どうしたの?」
「そりゃこっちのセリフだけど。」
「美愛が部屋から出て行ったからどうしたのかな、と思って。」
香緒里の言葉に秀人は合点がいった顔をした。
「なるほど。俺も悠が出て行ったのが気になってな。でも2人ともいないのなら、そういうことだろ。」
「二人で出て行ったってことね。」
最近よく二人でいるのを見るし、この旅行中もよく一緒にいる。
付き合うまではいかなくとも、進展はしているのだろうということは窺える。
「眼鏡なのね。」
ふと秀人の顔を見て香緒里は言う。
「あぁ、さすがにもう寝るとこだったからな。コンタクトは取った。」
文化祭の時に一度見たきりでその後はあまり眼鏡姿を見ていないので、ちょっと見慣れない。
ので、少しドキドキする。
何となくそのまま部屋に戻るのが勿体ないような気がして、香緒里は廊下の窓を開けた。
夏の夜の少し生暖かい風が廊下に吹き抜ける。
外を見る香緒里の隣に秀人は並び、風によって少し乱れた香緒里の髪に触れ、手ぐしで整える。
少しくすぐったそうに目を細めた後、香緒里は秀人を見た。
「旅行、楽しかったねぇ。」
「そうだな。」
「………インターハイでね、4日間だけなのに、秀人に会えなくて寂しかった。だから、たくさん一緒にいられて嬉しい。」
少し恥ずかしそうにそう言う香緒里を見て、秀人は思わず抱き寄せる。
そして、「俺もだよ。」と言って、キスをした。
それだけで済まそうと思ったのに。
薄暗がりに、まだ髪から漂うシャンプーの香りに、浴衣から覗く肌、様々な物が秀人の判断を鈍らす。
そして昼間の香緒里の無自覚の積み重ね。
その上で先程の「寂しかった」という可愛すぎる発言。
つい、いつもよりキスが深く、長くなる。
香緒里もそれを拒まない。
「ん………しゅう、と……?」
息継ぎの合間に漏れ出た香緒里の言葉に秀人は我に返り、慌てて離れた。
「………悪い。」
少し顔を赤くし、目線を逸らす秀人を香緒里は少し乱れた息を整えながら、潤んだ瞳で見る。
香緒里の顔も赤い。
「……秀人だから、嫌じゃないよ……?」
その状態で放たれた言葉は秀人を固まらせる。
それは、やばい。
泣け無しの理性をフル稼働してなんとか耐えようとする。
だが、香緒里は尚も続ける。
「最近ね………秀人のことが好き過ぎてどうしようって、思う時があるんだよね……。」
その言葉を聞いた秀人は、壁にもたれ掛かり、溜息をつきながらそのまま座り込み、下を向いた。
これはもう、無理だろ……。
顔が赤くなるのが分かる。
心臓がうるさいくらい鳴っている。
かわいいが過ぎる。
香緒里は突然座り込んだ秀人の傍にしゃがむ。
困らせてしまっただろうか、と少し不安になる。
その目線に気付いた秀人は、「ほんっと香緒里って……」と呟き、座ったまま抱き締める。
心臓の音も聞こえてしまうだろう、バレてしまうだろう。
それでも、今は離したくなかった。
抱き締められた香緒里にもちろんその音は届く。
秀人でもドキドキするんだと驚き、そしてその原因は自分であることにようやく気が付く。
私、もしかしてすごいこと言ってしまった……!?
と自分の発言を思い返して香緒里も赤くなる。
でも、本当のことなのだ。
秀人が好きで好きで堪らなくなる。
今も。
その持て余した感情をぶつけるように、香緒里も秀人にギュッと抱き着いた。
そして、二人はお互いの心臓の音が収まるまで、しばらくそうしていた。
窓から入る風がその熱を冷ますかのように吹き抜けた。




