5、喧騒の中で
翌日、香緒里達は大阪市内にある某ユニバーサルなテーマパークにやって来た。
井口はさすがに行かず、市内で仕事をするらしい。
「やっぱり人たくさんいるねー。」
「夏休みでしかもお盆だからね。」
「効率良く回った方が良さそうだな。」
開園1時間前以上から並び、開園直後に入るももう既に人はかなりいる。
並んでいる間に作戦会議を開き、まずは美愛おすすめの人気アトラクションである、翼竜に攫われるかのようにうつ伏せの姿勢で空を飛ぶ絶叫マシンに向かう。
「初めて来たけど、また舞浜のやつと違って面白いね〜。」
歩きながら周りを見渡して沙世は言う。
コンセプトが違うので雰囲気もまるで違う。
「一度だけそっちも行ったけど楽しかったねぇ。」
香緒里は中学卒業前に初めて舞浜のテーマパークに行った。
もちろん秀人たちと6人で。
その時も目新しいものばかりで目を白黒させていたが、今回も同じような気持ちである。
そもそも遊園地に殆ど行ったことがないというのもあるが。
初遊園地の直樹も同様な反応をしている。
ここのテーマパーク自体には美愛以外は初めて訪れた。
パークの奥の方にある恐竜のエリアに着くと、頭上を走る長いレールが見えた。
そこを時折走る、というより飛んでいる恐竜もとい人が見える。
「もしかして……あれ、乗るの…??」
「せやで!速すぎてどこ走ってるのかわからんくらいなんやけど、めちゃくちゃ気持ちええよ!」
頭上を見上げて香緒里が言うと、美愛はとても楽しげにそう答えた。
「うっわ絶対楽しいじゃん!」
「空飛んでる気分になれそう!」
「ワクワクしてきた!」
悠と奈津と沙世が目をキラキラさせながら、絶叫している人達を見る。
「香緒里と真は大丈夫??」
三半規管があまり強くない二人に雪音が聞く。
二人は頭上を見上げたまま固まっている。
「……大丈夫、何事も挑戦。」
「沙世が楽しそうだから乗るよ…。」
「無理するなよ?」
若干目が死んでいるが、二人はとりあえず乗る気ではあるらしい。
秀人もそう声を掛けるがまた首を振っていた。
「ほら、めちゃくちゃ速いみたいだし、気付いたら終わってるかもしれないしね?」
「そういう感じだと思いたい。」
「大丈夫かよ……。」
翔太はやや呆れながら二人を見た。
他のメンバーは特に絶叫マシンに抵抗はないようで列の方に向かっていった。
「うわー結構真下向くんだね……。」
「さすがに私もちょーーっと怖いかも…。」
香緒里の左隣に座る翔太と雪音は段々とうつ伏せの体勢に変わっていくのを感じ、そう言った。
足が完全に浮いている、というより真横だ。
日常で絶対この体勢にはならない。
絶叫系がすごく得意なわけでもない二人ですらこの反応。
「香緒里……?大丈夫か…?」
「私………生きて帰って来れるかな……。」
もう、降ります、と言える雰囲気でもない状況。
半分泣きそうになりながら香緒里はそう言う。
その前の列にいる真はなるべく心を乱さないように、まるで野球のマウンドに立つかの如く、集中していた。
隣に座る沙世はウキウキしており、更にその隣にいる直樹も楽しそうである。
そしてついに、出発した。
徐々に上がるスピード、容赦なく見えてくる遠い地面。
そして、急に重力から解き放たれるような感覚になる。
風が耳元で爆音のように鳴った。
「降ろしてぇえぇ!!」
という普段は絶対叫ばない香緒里が絶叫するくらいには激しいアトラクションだった。
「いやーすごかった!!!もう1回乗りたくなるな!」
「せやろ???うちこれが一番好きなんよー。」
「オレももう1回乗りたい!!」
「はーこれだから絶叫系は楽しいよね〜!」
悠、美愛、直樹、奈津が降りるなりらそう話す。
亮は楽しそうな奈津を見てちょっと笑っている。
「ちょっと……これはなかなかすごいね……。」
「俺も絶叫系は得意な方ではあるけど、次乗るならちょっと時間置きたいくらいではあるな…。」
「面白いといえば面白いけど、こう、確かによく分からないうちに終わるね。」
「なんかまだふわふわする……。」
由美、圭、翔太、雪音はやや疲れた表情で降りる。
一方、
「真、大丈夫!?立てる……?」
「あー……うん、なんとか。」
やっとの思いで真は立ち上がり、足元の覚束無い中、出口へと向かい、沙世はその手を取った。
「もう……無理……。」
「だから無理するなって言ったろ……?」
秀人はすっかり立てなくなってしまった香緒里を立たせ、支えながら出口へと行った。
真は近くの看板に片手を付いて項垂れ、香緒里は秀人の肩口に頭をつけ、服を掴んだまま動かない。
秀人はゆっくりその背中を撫でていた。
「三半規管弱い姉弟……。」
「こんなところで血の繋がりを感じるとは思わんかったわ。」
それを見て、奈津と美愛が言う。
「真、お水いる?買ってくるよ?」
「………ダメ、行くな。ここにいて。」
「はい………。」
顔を覗き込んで聞く沙世の腕を真は掴んでそう言う。
沙世はちょっと顔を赤くした。
「なっちゃんたち、回ってていいよ。」
「俺らで二人を見とくからさ。後で合流しよ?」
雪音と翔太は元気が有り余ってそうな奈津や悠達にそう声を掛けた。
「え、いいの??」
「平気平気、二人が復活したらこっちはこっちで回るから。」
「せっかく来たんだし、楽しんで来て。」
じゃあ、お言葉に甘えて……と、奈津、亮、悠、美愛、圭、由美、直樹は次のアトラクションに乗るために動き出した。
「さて、問題はこっちだな。」
未だに動けない二人を見て翔太は言う。
「とりあえず、座れそうなベンチ探して来ようか。」
「見つけたら連絡するからちょっと待ってて。」
雪音と翔太はそう言って手を繋いで探しに行った。
秀人は引っ付いて離れない香緒里を見る。
気持ち悪そうで気の毒ではあるものの、普段香緒里からここまでくっついて来ないので若干心臓には良くない。
とにかく、近い。
かわいいけど、良くない。
「まだ気持ち悪いの、変わらないか……??」
「さっきよりは、ちょっと……マシ……。地面あるし…。」
「まぁ、降りたからな…………。」
「ごめんね…………。」
「大丈夫、気にすんな。落ち着くまでそうしてていいから。」
一方固まる真に腕を掴まれたままの沙世はちょっとおろおろしていた。
絶叫系があんまり得意でないのは知っていたが、まさかここまでなるとは想定外だった。
「ごめんねぇ、私が乗りたいって言ったからだよね……?」
「沙世が楽しかったんなら、俺はそれでいいよ………。」
「……嬉しいけども!嬉しいけども無理はしないでよう!!」
雪音達が見付けて来たベンチに座り、飲み物を飲んで落ち着くまで、しばらくの時間がかかった。
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「香緒里たち、大丈夫かなぁ?」
「まぁ、翔太と新谷がいるからとりあえずは大丈夫だろ。」
奈津が呟くと亮はそう言った。
さり気なく、奈津が人にぶつかりそうになるのを引き寄せて避けさせる。
それに気付いた奈津は手を繋ぎながら、亮の腕にしっかりしがみつく。
ニコニコする奈津に、亮の口角も少し上がる。
「相変わらず仲良いよねぇ。」
「出掛けると大体いつもあんなもんだよー。迷子とナンパ防止の意味もあるけど。」
後ろを少し見て由美が言うと圭はそう返す。
「ましてここはかなり人多いからね、亮も気が気でないと思うよ?」
「うっかりはぐれたら大変だもんねぇ。」
「由美ちゃんも気を付けてね。」
「うん、圭くん目印にしとくね。」
由美はそう言って笑う。
直樹は今日も迷子にならないように美愛に見張られている。
「ミメイーあれ付けない?」
「あーカチューシャか。ええよ、みんなでつける??」
「まぁせっかくだしな。」
そう言って3人はお店に入って行く。
「テーマパーク来たらちょっと付けたくなるよねー。」
そうねーと言いつつ由美は圭の後ろに付いて、美愛達の後を追う。
「…………俺は付けないからな。」
「付ければいーのに、かわいいよ?」
「奈津の頼みでもそれはちょっと無理だな。」
「えー?」
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香緒里と真がなんとか復活した後、6人は一先ず酔いそうなアトラクションを避け、アーケードゲームをしたりお土産物を見たり、食べ歩きをしたりして、のんびりパーク内を歩き回っていた。
「付き合わせちゃってごめんねー…。」
「いいのよ、どうせ混んでて乗るのにもたくさん並ばなきゃいけないし。」
「そうそう、こうやってのんびりするのも楽しいよ。」
トイレを終え、手を洗いながら香緒里がそう言うと雪音と沙世は笑って返した。
トイレ1つ取っても大行列なのでアトラクションに並ぶとなるとかなり待つことになる。
旅行が決まったのが近々だったので、待ち時間を短縮するチケットも取れなかった。
トイレから出て、秀人たちが待っている場所へと向かう。
「あー……また目立ってるねぇ。仕方ないけど。」
秀人、真、翔太が話しながら待っているのを周りの女子達がチラチラ見ているのが見えた。
特に秀人はどこにいてもその容姿は目立つ。
芸能人なのでは?と言う声もちょっと聞こえる。
「私の彼氏なんだけどな…!!離れるとすぐ目立つんだから!」
と沙世は周りの女子達を見て言う。
早く行かないと、と沙世が思っているとそれより先に香緒里が小走りに秀人の元へと寄っていく。
「…………なるほど、無自覚ヤキモチね。」
それを見て、雪音は呟いた。
香緒里が近付いて来るのに気付いた秀人は少し微笑み、「おかえり」と言った。
それを見て、香緒里はホッとして少し表情を和らげる。
遅れてやって来た沙世は香緒里達の様子を見て、
「最近の香緒里って、なんかこう、わんこっぽいよね。」
と言った。
「え、そう……??」
「うん、秀人に寄って行くところなんか、正に。」
翔太は実家で飼っている愛犬を思い出す。
確かに、それに近い。
秀人はちょっと固まって「わんこ……」と小さく呟いた。
「えぇぇ……??そうかな………??確かに傍には行きたくなる、けど……。」
そう言って、隣に立つ秀人の顔を見上げた。
そして恐らく無意識にその腕に触れる。
「うーん、久しぶりのデートだから楽しくなっちゃってるのかも……?」
「香緒里???そろそろ秀人が限界だからステイよ??」
雪音はそう言って香緒里を止めようとする。
秀人の耳は赤く、香緒里から視線を逸らしている。
爆撃に続く爆撃。
1回ストップしてくれ……!と心の中で秀人は思う。
色々ともたない。
香緒里は自分の気持ちを素直に言っているだけなので、何かいけないことを言っただろうか……?と首を傾げながら、秀人を見ている。
「あれ、多分今必死に円周率とか数えてるだろうな……。」
「香緒里って時々無自覚にすごいこと言うよな。」
「真、お前は人の事言えないからな?」
「そうか…??」
ひとしきり香緒里と秀人の様子を見て満足した沙世は真の隣に戻って来る。
楽しそうな様子の沙世を見て真はちょっと笑って頭を撫で、その手を取る。
「今日はたくさん繋いでくれるね?人が多いから?」
「いや?俺が離したくないだけだよ。」
「そ、そっ……か。」
手を、なのか、沙世を、なのかは名言しないもののサラリと言われたその言葉に沙世は顔を赤くする。
「そういうとこだぞ、真……。」
無自覚姉弟め、と翔太が呟いたのを聞いたのは雪音だけだった。




