4、穏やかな夜
部屋に荷物を置き、香緒里達女子は早速浴衣とタオル等を持ち、お風呂へと向かった。
大浴場も客室同様綺麗に清掃されており、雰囲気もよかった。
「夜まで待とうかと思ったんだけどさ………」
身体も洗い終わり、湯船に浸かっている時に沙世はそう切り出す。
「美愛、玄関でお兄さんに彼氏の話聞かれた時に言ってた、『まだ』ってどういうこと!?」
「あ、今聞いちゃうんだ。」
「だって気になり過ぎてこのままじゃご飯もままならないよ!?」
奈津に言われた沙世は手をブンブンして言う。
「沙世に限ってご飯もままならないことはなさそうだけど………。」
「とにかく、どうなの?」
香緒里はそう言う。
沙世は気にせず、美愛に詰め寄った。
「そんな深い意味はないんやけど………。」
「………悠でしょ?」
そう言ってジト目で見てくる沙世に美愛は苦笑する。
「まぁ、うーん……なんて言ったらええんやろな。スキー旅行の時、ちょっとまぁ悠に昔の……大阪にいた頃の話聞いてもらったんやけど………。
んー、まだ昔の話も含めて、うちの中で整理ついてないねん。この旅行、終わってからでもええ?ちゃんとまとまったら話すわ。」
美愛にしては歯切れの悪い言い方をする。
香緒里達は昔の話を知らない。
由美だけは知っているが、その知っていることを美愛は知らない。
「まぁ、美愛がそう言うなら待つしかないでしょ?沙世。」
「う〜まぁ、そうだよねぇ………分かった、待つ。」
「旅行終わってみんなが帰省して、また寮に戻った後に女子会しなきゃねー。」
香緒里に言われ、沙世は渋々納得し、雪音はちょっと楽しそうにそう言う。
思ったより明るい表情の美愛に、由美は内心ホッとしていた。
まだ、知らないふりをしていよう。
美愛の口からしっかり聞きたいから。
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お風呂に入り、少し部屋でゆっくり休んだ後に宴会場の方へ向かうと、既に男子組がおり、携帯ゲーム機で某大乱闘をしていた。
ちなみに、部屋はもちろん男女別にし、井口だけゆっくり2人部屋で休んでもらうこととなった。
男子は全員で7人だが、「布団7枚敷けるから大丈夫やで。」と美愛が言うのでそのまま特に変更はしなかった。
井口はまだ部屋にいるようで不在だ。
「スタンド持ってきてるんなら、前のあのテレビ使ってもええよ?」
「ほんと?じゃあ繋げよっか。」
美愛に言われ、早々に残機が無くなってしまったらしい翔太がテレビに繋げる準備を始める。
「相変わらず賑やかだよねぇ、ゲームしてると。」
「ゲームしてなくても賑やかやろ。」
「それはそう。」
しばらくゲームしてるのを見つつ、談笑していると夕食であろう、醤油や肉の焼ける香りが漂ってきた。
沙世がそれに気付き、「お腹空いた……」と呟いた。
「沙世、食べ歩きで結構色々食べてなかった???」
「まぁ、食べたけど……あ、でも半分くらいは真にも食べてもらってるから……!!……とはいえお風呂入るとお腹空くんだよね……。」
雪音に突っ込まれ、沙世は言い訳をする。
「毎回思うんだけど、沙世ちゃんそれだけ色々食べてよく太らないよね……?」
「……残念ながら体重は増えてるのよ……!!増える度に必死に部活で動きまくって減らしてるだけ。引退した後が怖いわ……。何もしないでも痩せてる美愛とは違うのだ。」
由美に言われると今度は沙世はそう力説した。
その最後にこの中で一番スタイルのいいであろう美愛を見る。
「まぁ、確かに食べても太らんタイプではあるなぁ。」
「美愛ちゃん、脂肪はお腹にいかないタイプでしょ?」
「そうとも言うな。」
奈津は美愛を上から下まで見た上で、言う。
羨ましい……!と沙世は嘆く。
沙世は全体的にスリムである。
そういえば、と沙世は話題を変える。
「うちにさ、真が住むことになったじゃない?まぁ住むって言っても普段は寮なんだけど。」
真の家庭事情はさすがに成り行きで美愛と由美も知っている。
「なんていうかこう、これってもう半分結婚では??と思うんだけど。」
「まぁ、戸籍的には違うけど、確かにそうっちゃそう……なのかな?」
「気持ち的にそうなるのはちょっと分かるかも。」
沙世の言葉に香緒里と雪音はそう答える。
ちなみに男子組はテレビのある部屋の前方でゲームをしており、後方で話している女子組の話は賑やかさも相まって多分聞こえていない。
「まぁ、一緒の家に泊まってた時にも何もなかったから大して変化はないんだろうけどね。」
高校に入って、実家に帰省する際には真は殆ど谷中家に滞在していた。
なので然程変わるかと言われると状況はあまり変わらない。
「でも一緒に一つの家で寝泊まり出来るのはやっぱりちょっと羨ましいなぁ。私たちはそういうのはないから。」
「香緒里は年末年始に新谷の家泊まったんやっけ?」
「うん、そうそう。うちのお父さんが忙しくてねー。誘ってもらったの。」
いいなーと雪音は言う。
高校生だと恋人同士で旅行をしたりお互いの家に泊まりに行ったりなどは確かに難しいのが一般的だろう。
「ひとつ屋根の下にいて何もないの……??」
「ないねぇ。高校生だし、普通じゃない……?」
「何もないねぇ。いや、親の目を盗んでちゅーくらいはするけど。」
「……うん。」
奈津に言われ、香緒里はそう言った後、沙世の言葉に少し顔を赤くしつつ頷く。
「そっか……ないのかー……。」
奈津はそう言って少し遠い目をする。
その表情と視線から、あーー……と5人は察する。
香緒里と雪音は春に見てしまったあの部室での出来事を思い出して顔を見合わせる。
あれは、見なかった。見ていなかった。
とお互いの視線で再度確認し合う。
何とも言えない雰囲気になったところで丁度、夕食が運ばれてきた。
男子組もゲームを終わらせ、席に着く。
牛肉のしゃぶしゃぶに野菜や肉などの串カツなどボリュームがあり、どれも美味しそうである。
美味しく食べ進めていると、1人の男性従業員が宴会場に顔を覗かせた。
「パパ、やっほー。」
直樹がパパと呼んだその人は美愛の父によく似ていた。
「直樹!元気にしてたか??」
「元気元気〜楽しくしてるよ〜。」
ニコニコと話す直樹に直樹の父は表情を崩す。
「直樹と美愛のお父さんって、関西の方ではないの……?」
香緒里は隣に座る美愛に聞く。
先程会った美愛の家族は母や兄は関西弁なのに対し、父は標準語だった。
「あー、この旅館、うちのおかんの実家なんや。おとんは婿入りってわけやないんやけど、結婚して手伝っとる感じ。直樹のおとんはその縁で日本帰って来た時からここで働いてるんやで。」
そういえば年末は埼玉の父方の祖父母宅に帰る、と言っていた気がする。
「いやーほんと美愛ちゃんちにお世話になってるよ、ありがとう。」
「うちは何もしてへんけどな。おっちゃんも元気そうでよかったわ。」
「直樹のこともありがとね。友達もたくさん出来たようでよかったよ。」
また後でゆっくり来るね、と直樹父は皆に頭を下げ出て行った。
忙しそうだねぇ、と直樹は言いつつご飯を食べ進める。
かなりボリュームがあったのにも関わらず、デザート前にたこ焼きも出たので食べ盛りとはいえ女子組にはなかなかお腹がきつかった。
「やっぱり関西ってご飯に粉もんって普通なの?」
「せやで?」
美愛に聞くと当たり前やろ、というような感じに返された。
夕食を食べ終え、片付けてもらった後も宴会場に滞在する。
22時頃までは使って大丈夫、とのことなので今度は某鉄道すごろくゲームを始めた。
現在は沙世、奈津、美愛、由美がプレイしている。
「あー貧乏神つけたままこっち来ないでよ!!!」
「しゃーないやんゴールそっちやもん。」
「サイコロ増えるカードが出ない…………。」
「わーい青マス!夏の青マスはやっぱり美味しいよね〜。」
その後ろで真や悠達が「そっちから回った方がよくね?」「この物件買っとくといいぞ。」等々アドバイスをしながら見学している。
秀人は先程出番が終わったので、それより少し後ろで賑やかな様子を眺めていた。
翔太と雪音はスマホで明日行くテーマパークのサイトを見て、どれ乗る?等話している。
急に肩に重みを感じ、横に座っていた香緒里を見ると、秀人に頭を預け、寝てしまっていた。
先程から時折欠伸をしたりしていたので眠そうだなとは思っていたが。
インターハイが終わってまだ3日、疲れも残っているだろう。
昨日一昨日は空手部は部活はなかったが、生徒会の仕事をしていたらしい。
それに加えて今日は旅行。
日中は歩き回り、その後お風呂に入り先程ご飯をお腹いっぱい食べた。
眠くなるなと言う方が無理であろう。
ソファや椅子に座っているわけではないのでバランスが悪く、身体が傾きそうなのをそっと支え、畳の上に横にしてやる。
無防備に浴衣姿で寝ている香緒里は、一応健全な男子高校生の秀人にとっては若干……いや結構目のやり場に困るところではある。
なので、浴衣の上に着ていた羽織を脱ぎ、香緒里にかけた。
とはいえ、安心しきった顔で熟睡する香緒里の寝顔はかわいい。
秀人は目を細め、口元に少し笑みを浮かべながらその頭をそっと撫でる。
無防備すぎだろ、と心の中で呟く。
「香緒里、寝ちゃった?」
少し前の方にいた雪音が振り返って聞いてくる。
「あぁ。」
「お風呂上がりに部屋で話してた時も眠そうだったのよねぇ、寝なかったけど。」
そう言って翔太と共に近付いてくる。
そして香緒里の横に来ると、スマホのカメラを構えてその寝顔を撮った。
「躊躇なく撮るな。」
「旅の思い出よ。それに、かわいいでしょ?」
「そりゃもちろん。」
「写真、いる?」
「……いる。」
その返答に少し笑った後、雪音は香緒里を見る。
「よっぽど秀人の隣だと気が抜けて安心するんでしょうねぇ。」
優しい眼差しで香緒里を見る雪音を、翔太は少し微笑みながら見た。
雪音が言った直後、香緒里は寝返りを打ち、秀人の方へ近寄り、秀人の浴衣をキュッと握った。
「……もう膝枕してあげたら?」
「いや、さすがにそれは色んな意味で無理……。」
翔太にそう言われた秀人は額に手を当てつつ言った。
その耳は赤い。
人目を気にしてなのか、この状況が、なのかは分からないが、ある意味とても幸せそうなその姿を見て、雪音と翔太は顔を見合せて笑った。




