1、帰省したい
8月に入った。
美愛と同室の吉崎香緒里は同じ空手部の上原奈津と鮎川亮と共に、インターハイの開催地である兵庫へと旅立った。
いつものメンバーの中で3人も不在となると、夕方の談話室も若干寂しいように感じた。
「香緒里から返事来たの?」
スマホを操作する新谷秀人に安西雪音が問い掛ける。
「無事宿に着いたって夕方頃に。夕飯の写真も送られてきた。」
「香緒里、連絡マメだよな。」
「秀人の方が割りと返さないイメージあるよな。」
石川翔太と沢田真はそう話す。
そう言う真も連絡は割りと空きがちである。
「あ、でも香緒里は秀人からはすぐ返信来るんだよねーって言ってたよ。」
「香緒里ちゃん限定ってことか………さすがというかなんというか。」
「俺らからの返信ももう少し早くしてくれねぇ!?」
谷中沙世がそう言うと、鮎川圭が感心と呆れが半分半分の顔をし、鮎川悠が嘆く。
即レスが必要な場合はすぐに返信するが後でもいい場合は割りと時間を空けられてしまう。
特に悠や圭はなんてことない話を振りがちなので。
「香緒里ちゃんもなっちゃんも、亮くんもいないってなると……ちょっとやっぱり寂しいねぇ。」
「インターハイやからしゃーないけどな。とはいえ、ルームメイトがいないとまぁちょっと寂しいなぁ。」
「シュウトも、寂しいんじゃなーい?」
須賀由美がそう呟き、美愛が相槌を打つ。
渡辺直樹にそう聞かれた秀人は少し黙った後、「まぁな。」と軽く答える。
香緒里のインターハイについて行きたい思いは山々だろうが、3年生も引退し男子バスケ部の主将となった秀人にそんな暇はなかった。
「お、そろそろ時間だな。」
「直樹もやるか?」
「やるやるー。」
圭のスマホのアラームが鳴り、悠、直樹、美愛がスマホを片手に集まって座る。
スマホゲームのマルチプレイクエストの時間らしい。
最近4人でやっているのをよく見かけ、由美はプレイしないが大体美愛の隣りに座ってそれを見ている。
仲良いねぇ、とそれを眺めていると、次に秀人のスマホが鳴った。
「電話?」
「ちょっと向こう行ってくる。」
真の問いに秀人は頷き、電話に出ながら談話室を出ていく。
「もしもし?」と答えている柔らかい声色的に、
「香緒里からだねぇ……。」
「ほんっと、1年前に比べて変わったよねぇ、二人とも。」
秀人の後ろ姿を見ながら雪音と沙世は言う。
高校入学当初くらいだと会えない日に電話、などした事があったかというと多分なかっただろう。
「前が淡白過ぎたとも言うけどな。」
「いやまぁ、真と沙世の場合は幼馴染だからそもそもの距離が近過ぎるけどな?」
翔太はほぼくっついてるくらいの距離感で座る二人を見てそう突っ込む。
先程まで二人で沙世のスマホで動画を見ていたせいもあるが。
え?そう?という顔を二人ともしている。
「香緒里がそれだけ心に余裕が出来て秀人に甘えられてるってことだからいいことだとは思うけどねー。」
「問題は香緒里にその自覚がないってとこだけど。」
「あーよく秀人固まらせてるもんな。」
「……ちなみに真は人のこと言えないからな……??」
翔太はそう真に言い、沙世は隣で大きく頷く。
果たして電話でどんな会話をしているのかは、香緒里と秀人しか知らない。
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「悠、ちょっとええ?相談……というか頼みがあるんやけど。」
そろそろ消灯の時間になるから、と部屋にみんなでぞろぞろ戻ろうとした時に、美愛は悠を呼び止めた。
「?いいけど……?」
二人は多目的棟から出る。
消灯前ということで外に人は誰もいない。
「何かあったのか?」
「あった……ちゅうか、これからあるっちゅうか……」
歯切れの悪い言い方をする美愛を見て悠は首を傾げるも、黙ってその続きを待つ。
「お盆に、大阪に帰ろう思てんねんけど…………それに、一緒に行って欲しい。」
「……俺に?」
「うん。…………実は、こっちに来てからまだ一度も大阪に帰ってないんや。あっちに帰る勇気が出なくて…………でも、悠と一緒なら帰れるような気がして…………あ、もちろん香緒里たちも誘おうとは思てんねん?けど、まず悠に聞きたくて……。」
いつもより、言葉を選びながら少しづつ美愛は話す。
「……あかん、かなぁ……?」
少し不安そうな目で美愛は悠を見る。
好きな子に頼られて嬉しくない男がいるだろうか?いやいない。
「分かった、行く。」
「ほんま?ありがとう!」
ホッとしたように美愛は表情を崩した。
秀人のように上手く気持ちを隠せるタイプでない悠はちょっと顔を背け、近くにあるベンチに座った。
美愛はその隣に腰掛けると話を続ける。
「うちの家、割りと昔からある旅館でな。結構お客さんも多かってん。けど、うちの事件があって地元での評判が落ちた。そういう罪悪感もあって…………ちょっと帰りづらかった。」
おかんもおとんも気にせず帰って来いって言うねんけどなぁ……と美愛は苦笑いしながら言う。
「でも、いい加減帰らないと逆に心配かけるんやないかって思って。直樹のおとんも向こうにおるしな。」
「なるほどな……。」
悠は呟く。
その後美愛の顔を見て、微笑む。
「んじゃ、みんな誘って賑やかに帰ればいーじゃん?その方が気が紛れるだろ。せっかくのお盆だし、旅行気分で。明日にでも聞いてみてさ。」
「……せやな。」
「俺、あそこ行ったことないんだよな、ほらU〇J。」
「めっちゃおもろいよ、あんたもジェットコースター好きやろ?」
「そりゃもちろん!」
話しているうちに、少し陰っていた美愛の表情も明るくなっていく。
久しぶりの帰省。
不安な気持ちも多分大きいだろう。
この笑顔をなるべく曇らせたくない。
そう思いながら、悠はもう一度美愛の横顔を見た。




