閑話 声にしなくても 後編
午前の部が終わり、全校生徒にお弁当が支給される。
全部滞りなく行き渡ったのを確認した後、香緒里たちはようやく昼休憩となる。
香緒里は一輝と共に最後に生徒会本部のテントを出て、お互いの目的の友人たちを探す。
大体の生徒は自分のクラスの応援席で食べたり、その後ろのスペースで同じ部活の友人たちと食べている。
「なぁ、あれ……秀人たちじゃないか?」
一輝が指差す方向、校庭の外れの木陰の方を見る。
圭と時行が90度の綺麗なお辞儀をしており、その向かいには秀人と翔太が立っている。
「えぇぇぇ何してるのよあれ………。」
困惑する香緒里と対象的に、午前中の出来事を思い出してちょっと察する一輝。
事態が収束したら時行をクラスの方に連れて行こう、と思う。
「借人競走のお題に香緒里を使うんじゃねぇよ。」
「特定個人に結びつくようなお題にするな。美女だったら大体ミス緑高に行きつくだろ?」
「申し訳ありませんでしたっ!」
香緒里と一輝がそちらに寄っていくと、そんな話が聞こえてくる。
あーやっぱりな、と一輝は思うが、香緒里は「借人競走のこと…??」と若干首を傾げているので、「ほら、お題に『会長』とか『美女』とか『イケメン』ってのがあっただろ?」と一輝が説明する。
「あ、香緒里お疲れ様ー。」
真と並んで既にお弁当を食べだしている沙世から声が掛かる。
秀人たちも気付いてこちらを見た。
「えーと……私そんなに気にしてないよ……?」
香緒里が来た事で秀人は一瞬固まるが、直ぐに香緒里の方に向き直る。
「香緒里?圭だったらまだよかったけど、他の男だったらどうだ??」
「えー…?そう、だねぇ……友達じゃない人だったらちょっと嫌かも……」
秀人も、連れて行かれてたもんね……と小さく付け加える。
突然爆弾を投げられて秀人は固まる。
それは嫌だと思ってるということだな???
が、3秒後には復帰し、
「……だろ?」
と言う。
そのやり取りを見て、
「なぁ、思うんだけど俺被害者じゃないか……????」
と圭は言う。
紛れもなく被害者だな、と周りでそれを見ていたいつものメンバーは思う。
「俺は純粋に盛り上がるかなと思ってやったまでで…!!」
「お前は一番面白がっていただろ?しっかり反省しろ。」
翔太に睨まれ、すみませんでした、と時行は再び頭を下げる。
「ゆきちゃん、ちょっと喜んでない?」
「ふふふ、私のために怒ってくれてるの、嬉しいもの。」
奈津に言われた雪音はニコニコと翔太を眺めていた。
「それじゃ、また午後なー。」
と一輝は時行を引き摺って自分のクラスの方へ行きながら、だからお前に任せんの不安だったんだよ、と言っているのが聞こえた。
「私はある意味面白かったんだけどねー今のやり取りも含め。」
「香緒里、まだヤキモチ自覚してないのか…?」
「してないんじゃない?モヤってはいるみたいだけど。」
沙世と真はもぐもぐ食べながら完全に見学者をしている。
悠、美愛は応援団なので、既に食べ終え、午後の最初の応援合戦の準備に行っている。
一段落したので翔太は雪音の隣に腰を下ろし、弁当を広げだす。
「ありがと。」
「んーん、俺が嫌だったからさ?」
「それでも嬉しい。」
にっこり笑う雪音に翔太は表情を緩ませる。
相変わらず仲良いねぇ、と奈津は呟く。
翔太たちの傍に座った秀人の隣に香緒里も座る。
「なんかいつもより若干距離近くない???」
と沙世は隣の真に囁く。
自分たちの距離の方が近いことは棚に上げているが。
多分秀人も気付いてる、気付いててなんも言わないんだろうなーと真はそれを見て思う。
巻き込まれて可哀想であった圭は由美と直樹にドンマイと慰められながら、ご飯を食べていたのであった。
『さぁ応援合戦も終わりまして!続いての午後の競技は玉入れでーーす!』
『この競技は全学年合同チームで一斉にやりますよー!午後も盛り上がって行きましょー!!』
玉入れには沙世、由美、直樹、奈津、雪音、翔太、亮が出る。
香緒里は応援合戦の得点(教師たちがそれぞれの団の得点をつける)の集計しながら横目にそれを眺める。
とりあえずE組で亮が正確に玉を投げ入れているのが見えた。
一輝も見ていたらしく、「ロボットかよ。」と呟いたので吹き出しそうになった。
ちなみに直樹は飛距離が由美よりなく、届いていない。
体力どころか腕力もないらしい。
『玉入れはC組とE組の同率1位となりました!!』
『ここからは全員参加の学年毎の競技になります!残念ながら我々も参加しなくてはならないので、不在の場合は後輩に託したいと思います……。』
『リレーの時は走り終わった後すぐに放送席に向かいますので!』
『その執念なんなんですか………先輩方が不在の際は、私生徒会会計監査の手塚颯斗が実況を行わせていただきます。粛々とやらせていただきますので。』
颯斗の冷めた声が聞こえてくる。
だがしかし、颯斗くん素敵……!という声が聞こえてくるのでイケメンは強い。
大玉転がし、綱引き、リレーはクラスの連携が試される。
綱引きは若干戦力の差にもよる。
「おっしゃーー!ここからはクラス競技だ!力合わせて行くぞ!!!」
「「「おーーー!!」」」
C組は応援団のクラス代表の悠を中心に円陣を組み盛り上がる。
多分クラス仲は2年生の中ではいい。
運動神経のいいメンバーは他のクラスより若干少なく、文化部も多いが。
大玉転がしは1位、綱引きは4位。
ただ1年生や3年生のクラスが奮闘したため、全学年の合同得点はかなりいいところまでいっている。
得点板は下げられてしまっているので生徒会のみがその詳細を知っている。
そうして迎えた最後の種目、クラス対抗全員リレー。
『1年生の全員リレーが終わり、次は2年生となります。騒がしい先輩方に代わり、手塚が実況させていただきます。A組からE組、スタート地点に並び………今、スタートしました。』
原田と時行に比べて淡々とした実況。
『まず先頭に立ったのはE組の佐倉さん………あの人そのままここに来る気か……?』
全員参加の競技以外は出ていない時行と原田。
体力は余りまくっているはずである。
全力で実況解説に臨みたい気持ちも伺える。
バトンを次の走者に渡した後、予想通りレースの邪魔をしないようにそのまま実況席に舞い戻り、観客席から爆笑を誘っていた。
『はいでは佐倉戻って参りました!はーくんは原田が戻るまで一応いてね!』
『あーー……バトンは全クラス第3走者に渡りました、以前トップはE組です。B組、追い上げてきました。』
『お、原田だな???そのまま頑張って戻ってこい!』
時行と同じように原田はそのまま戻って来た。
実況席がわちゃわちゃしてる間に走り終えた香緒里はちょっとホッとする。
足が速いわけでも遅いわけでもない香緒里は無難なところに配置されていた。
今C組は沙世が走っている。
香緒里よりは速いので健闘を見せている。
『さぁリレーももう終盤戦!!現在1位はE組!午前中の部活対抗で活躍を見せました鮎川亮が走っています。』
『もう少し他の競技で活かしてくれてもいいんだけどね!?うちのクラスに貢献してよ亮!!!』
『全員参加以外出ていないあなた方が言います?』
何だかんだ颯斗も実況席に残りリレーを見ている。
『おぉっと!次の走者にバトンが渡り、ここでC組が上がってきた!これは陸上部で学級委員の町田ぁ!!!E組を抜かして先頭に躍り出た!』
『そのまま渡辺美愛にバトンを渡す!更に差をつける!!』
『A組も上がってきた!これは沢田!E組を抜き、2位に上がる!更に前の渡辺を抜かすためにスパートを駆ける!』
香緒里の横で沙世がその様子を見ている。
どちらを応援すべきか迷うところだが視線はずっと真を追っている。
美愛からバトンが渡るのはアンカーの悠、そして真が渡すのは秀人だ。
秀人の方を見ると、目が一瞬合った。
頑張って、と心の中で呟く。
『渡辺なんとか1位を保ったままアンカーの悠に渡す!部活対抗と同様の見事な連携!!』
『一方A組も新谷へとバトンが渡った!!悠へと迫る!奇しくもバスケ部対決だ!!!』
『どんどん距離が近付いていく!速い速すぎる新谷!だがしかし鮎川悠も負けじと引き離そうとする!』
『今!新谷が追い付いた!!だが抜かれまいと悠も粘る!!このまま一直線か!!』
『もうゴールだゴールだ!いや最後に新谷が踏み出した!今ゴールです!!!!』
強烈なデッドヒートの末、A組が勝った。
A組から大歓声が上がり、秀人の周りにみんなが寄ってくる。
「あーーくっそ……あとちょっとだったのに………。」
息が上がり、膝に手を付きながら悠は悔しがる。
その悠に美愛が近付く。
「まぁ、新谷はちょっと規格外過ぎやしなぁ。大健闘やろ。」
「………負けたけどな。」
「でも、かっこよかったで?」
「おまえ………それはずりーよ…」
美愛の言葉に悠は顔を赤くし、しゃがみ込む。
それを見て美愛はちょっと楽しそうに、そして優しく笑った。
『次は3年生のクラス対抗全員リレーでーす。2年生の皆さんは応援席にお戻りくださーい。』
原田のアナウンスで皆ぞろぞろと各応援席に戻って行く。
生徒会本部に戻ろうとしていた香緒里は、その中で秀人を見付けて駆け寄り、服の裾を掴んで引き止めた。
「香緒里、どうした?」
「応援、出来なくてごめんね。」
香緒里の言葉を聞き、秀人は微笑んだ。
「大丈夫、伝わってるよ。」
そう言って香緒里の頭をぽんぽんと優しく撫でる。
「残り頑張れ、会長。」
「うん、ありがとう。」
香緒里も笑ってそう返事をし、生徒会本部の方へ小走りで向かっていく。
「いいいいまのみた!?」
「見た!!!何話してたか分からないけど頭ぽんぽんしてたしあの表情!!」
「しかも会長最後すごい足取りウキウキじゃなかった!?」
「かわいい……尊い……」
2人のやり取りを遠目に見守っていたファンクラブ会員たちが崩れ落ちた。
『では、次に結果発表を会長の方から、お願いします。』
閉会式。
体育祭実行委員に言われ、香緒里はマイクを持って壇上に上がる、
『それでは第5位から順に発表します。……第5位、D組。第4位、B組。』
壇上から見ると落胆する者、まだと期待を込めてこちらを見る者、様々だ。
『第3位、E組。』
『第2位………A組。そして、総合優勝、第1位はC組です。』
ワッとC組の方から歓声が上がる。
2年生の全体リレーも3年生の全体リレーも2位だったが、総合優勝を争っていた3年生のA組がリレーでは第4位だったのだ。
A組の方を見ると、秀人と真の二人がいる。
ちょっぴり悔しそうではあるが、楽しかったようで笑っている。
香緒里のクラスであるC組はみんな手を叩いたりハイタッチをして喜んでいるのが見える。
リレーで負けてしまい悔しがっていた悠も今は満面の笑みで美愛とハイタッチを交わしている。
ぺこりと頭を下げ、壇上から降りる。
『続いて表彰式です。校長先生から優勝のトロフィーと商品を渡していただきます。』
とりあえず、会長としての体育祭の表の仕事はここまでだ。
ここからは後夜祭の準備へと走る。
まだまだゆっくり出来ないなぁ、と思いながら生徒会メンバーと共に次の作戦に取りかかった。
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後夜祭が無事に始まったのを見届け、生徒会メンバーはみんな一息をつく。
時行は後夜祭の提案者なのでまだまだこれからだが。
「さすがに疲れたな。」
「でも無事に後夜祭まで辿り着けてよかった〜………。」
ここ数日働き詰めの香緒里には疲労の色が見える。
「会長。」
「なぁに?」
「後夜祭の終わりまでしばらく出番ないからさ、どっかでゆっくり休んで来いよ。」
「えぇ、でもみんなは?」
「俺らは俺らでゆるゆるやるからさ。会長は働きすぎだ。ちょっと寝てもいいくらいだぞ?」
「………分かった。後夜祭終わるまでには戻ってくる。」
言わないと休憩しなさそうだからなこの人、と一輝は校舎へと入っていく香緒里を見て思う。
まぁ校舎に行ったところで、どっかの教室から後夜祭をみんなが楽しめるか見守るんだろうけど。
「みんなも適当に休みつつ見回りだけしとけよー。」
「はーい。」
一輝が声を掛けると柚希と颯斗、里華も散っていく。
時行はもう既にいない。
さてどうするか、とウロウロしていると男バス部員と話している秀人が目に入る。
「秀人ー。」
「一輝、お疲れー。」
「ちょっと頼みがあるんだけど。」
「何だよ。」
「会長探してきてくれねぇ?」
「……香緒里を?」
「校舎のどっかにいるはずなんだ。急ぎじゃないんだけどさ。秀人の方が絶対見つけるの早いだろ?」
「そりゃもちろんそうだけど。」
「と、いうわけで頼んだ。」
若干腑に落ちない顔をしながらも、香緒里に会う名目が出来たからか、すぐに校舎へ向けて歩き出す。
これで会長もすぐには帰って来れねーだろ、と一輝は心の中で思う。
「えー真、せっかくだし踊らないのー?」
「いや無理だって!」
キャンプファイヤーを指差して言う沙世に、真は顔の前で手を振る。
いくら沙世の提案でもダンスはさすがに遠慮したい。
「そっかー……じゃ、ご飯食べに行こ!」
「夕飯食べただろ……???」
「デザートよデザート!ほらあっちにクレープあるし!」
そう言って沙世は真の手を引く。
仕方ないな、と言いながらも沙世に振り回されるのは真的に結構好きだったりする。
「……今日、楽しかった?」
歩きながら沙世は真を見上げて聞く。
つい2日前まで、父親の事や葬儀の事で気持ち的にもスケジュール的にもバタバタしていた。
だから、少し心配になったのだろう。
「楽しかったよ。なかなか沙世とはいられなかったけど。」
そう言うと、沙世は嬉しそうに笑う。
私ももっと一緒にいたかったなぁ、と。
そんな沙世を見て、真は優しい笑みを浮かべた。
どんなに辛いことがあっても。
日常は明日も明後日も続いていくのだ。




