エピローグ
第10章 エピローグ
香緒里は屋上から校庭で行われるキャンプファイヤーを1人で見ていた。
時刻はもう既に19時半を過ぎた頃。
この時期のこの時間に体育祭の後夜祭が出来るのは全寮制ならではだろう。
隆弘の葬儀から2日後、体育祭が行われた。
生徒会就任後すぐから準備していたこのイベントが無事に終われたことで、香緒里はようやく一息つくことが出来た。
走るのが得意なわけではない香緒里は特別思い入れがある行事ではなかったが、運動神経のいい友人たちの活躍を見るのはちょっと楽しかった。
「見つけた。」
屋上の扉が開き、秀人が入ってくる。
「秀人、どうしたの?」
「香緒里こそ、なんで屋上にいるんだよ。」
そう言いながら秀人は屋上のフェンスの近くにいる香緒里の隣へ並ぶ。
「一輝にね、最近忙しかったからどこかでゆっくり休んで来いって言われたの。後夜祭は会長の出番はそんなにないからね。」
「なるほどな……それで一輝は俺に香緒里を探してくるように頼んだのか……。」
要はどこかで休んでいるであろう香緒里に気を使ったのだろう。
「んじゃ、一輝には感謝しないとなー。こうして久しぶりに香緒里を独り占め出来るわけだし。」
そう言って秀人は隣に立つ香緒里の頭に自分の頭を乗せる。
少し恥ずかしそうに微笑みながらも香緒里は下のキャンプファイヤーを見ながら話す。
「最近何かと忙しかったからねー。」
「まさか後夜祭までやるとは思ってなかった。」
「トッキーがねー、キャンプファイヤーやろう!って張り切っちゃって。許可取り大変だったんだよ?まず先生のところに行って、その後消防署にも行って。で、夕飯の時間もあるからスケジュール調整したり、文化祭の時のように出店の準備も手配して。」
真のことでゴタゴタしながらも香緒里は生徒会で必死に準備を進め、なんならインターハイ出場も決まった。
「ほんとお疲れ……。」
秀人は苦笑いしながら声を掛ける。
よく体調崩さず乗り切ったと思う。
校庭を見るとキャンプファイヤーの周りでフォークダンスが始まった。
ノリよく参加する人もいれば遠巻きに眺めている人達もいる。
音頭を取っているのはもちろん時行である。
恐らく沙世が「踊る?」と聞いているのであろう、無理無理と手を振っている真がいるのが見えた。
諦めたのか、沙世は真を引っ張って出店の方へ駆けて行く。
「相変わらず振り回されてるな、真は。」
同じように秀人も見ていたのだろう、そう言う。
振り回されつつも楽しそうではある。
「真、落ち着いて良かったね。」
「あぁ、そうだな。」
「……秀人も、お疲れ様。」
香緒里のその言葉に「え?」と秀人は香緒里を見た。
「ずっと、真のために気を張ってたでしょ?どう動けばいいのか、何て声を掛けたらいいのか、ずっと考えて。」
「……バレてたのか。」
「そりゃ、秀人のこと見てればわかるよ?」
なんてことのないように香緒里は言う。
秀人としては隠しているつもりだったし、バレていないと思っていた。
実際真には気付かれていないと思う。
翔太あたりは気付いてそうだが。
「私ね、秀人のそういうところ、好きよ。」
顔を見て、優しく笑いながら香緒里は言う。
秀人は一瞬フリーズする。
数秒後、秀人は香緒里の腕を引き、フェンスから離れると、抱き締めた。
嬉しいのと、愛しさとかわいさでいっぱいになる。
「ずるいよな、ほんと……。」
「そう…………??思ったこと言っただけなんだけど……。」
それがずるいんだよ、と心の中で秀人は呟く。
なんてことのないように、秀人の理性を崩そうとしてくる。
香緒里が顔を上げると、至近距離で秀人と目が合う。
「好きだよ。」
甘く囁かれて、顔が赤くなるのが分かる。
近付いてくる顔に、思わず目を瞑るとそのままキスをされる。
外の喧騒が一瞬だけ、聞こえなくなったような気がした。
もうすぐ来る夏を感じさせるような風が2人の周りを吹き抜けた。




