表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一期一会  作者: 雪奈
第10章 梅雨闇に揺らぐ
PR
111/126

7、血の繋がり


揺れるバスの中で真は窓から外を眺めた。

住宅街から徐々に田んぼや畑が多くなり、家は少なくなる。

景色は変わり行き進んでいくのに、真の気持ちはずっと同じところをぐるぐる回っている。

綾子の話が頭を巡り、どうして、なぜという思いは消えてくれない。

胸の奥にずっとある黒いモヤも晴れない。




学校の最寄りのバス停に着いたので下車をすると、バス停のベンチには沙世が座っていた。

降りてきた真に気が付くと立ち上がった。


「おかえり。」

「何でここに.........。」

「前野とトッキーに、真が練習試合の後にどこかに出掛けたって言ってたから、帰るまで待ってたの。」


何時から.........?

真が前野達と別れたのは昼過ぎ、今はもう夕方だ。

一体どれくらい待ったのか。


帰り道ずっと考えて巡っていた物が、一瞬頭の中で止まった。

そして、無意識に沙世のことを抱き寄せた。


「真.........?」


どうしたの、と耳打つ沙世の声が妙に心地よい。

視界が揺らぎ、呼び掛ける沙世の声も徐々に遠ざかる。


「え、ちょっ!すごい熱!!」


頭を少しずらし、自身の額を真の額につけた沙世は声を上げる。

身体に力が入らなくなってくるのが分かる。

支えられなくなった沙世はそのまま座り込み、真を抱えたままスマホを取り出し電話を掛けた。


「もしもし秀人!?真が帰ってきたんだけど、すごい熱で......うん、そう、バス停にいる。今すぐ来て!」



沙世が電話で何か話している声を聞きながら、意識を手放す。


「沙世.........。」


落ちる直前、そう無意識に呟きながら。



-------------


目が覚めると、知らない白い天井が見えた。


「真.........。」


顔を横に向けると沙世がいた。

手が温かいと思ったら、手を握っていてくれたようだ。

不安そうな顔をしている。


「ここは......」

「寮の保健室だ。バス停のとこでぶっ倒れたの、覚えてるか?」


真の呟きに秀人の声が答える。

身体を起こすと、沙世と秀人以外にも香緒里、雪音、翔太がベッドの周りにいた。

翔太が寮の養護教諭を呼んだようで、女性がベッドを仕切るカーテンから顔を覗かす。


「あ、起きたのね。暫くゆっくり寝てたから熱は少し落ち着いたみたい。疲れから来る熱か、風邪だと思うから今日は部屋でゆっくり寝ること。明日まだ熱があれば病院に行きなさい。」


もう帰る時間のようで、それだけ伝え、何かあったら寮の担当教師に報告するように言い、出ていってしまった。


「そうか、帰ってきて倒れたのか.........。」

「沙世から電話が来てお前が倒れたって聞いて、焦った。」

「悪い、迷惑掛けて......。」

「......で?そんなになるまで、何を悩んでたんだ?」


問い詰めるように、秀人は真を見据える。

これは多分、ちょっと怒っている。

チラリと周りを見ると、香緒里と雪音は心配そうに、翔太は秀人と同じく少し怒っているようにも見える。

これはもう、誤魔化して隠し通せるレベルではないな.........。



「...わかった、話す。」


そして真は順に追って話し出した。

義母が来て、隆弘が入院したこと、実の父親だったことを聞き。

母の親友に会って、母と小川誠と沢田隆弘について聞いた話を全て、話した。


「本当はこうなる前に話した方が良かったのは、わかってる。......でも、無理だった。感情を抑えるのに必死だった。......ごめん。」


秀人は一つ息をついた。


「真が抱え込みやすいタイプなのはわかってたから、どうしようか迷ってた。でも、俺らももう少し早く気付いて踏み込んでやれば良かった。」

「まぁ、正直ここまでの話とは俺らも想像出来てなかったけど。」


翔太も続いて言う。

それに対して真は自嘲気味に笑う。


「笑っちゃうだろ?長年憎んでた相手が本当の父親だったなんて。」


沙世は手を握る力を少し強めた。

秀人は考えるように黙り込む。

そんな中、香緒里が口を開いた。


「そっか.........じゃあ私と真は姉弟だった、てことだよね。」


香緒里に言われて真は初めて思い至った。

そこまで頭が回っていなかった。

真が香緒里を見ると、小さく笑った。


「ずっとね、真には何か近しい物を感じてたんだ。シンパシー、って言うのかな?友達とも恋人とも全然違う何か。だから、血が半分繋がってるんだってわかって、なんかしっくり来た。」


真もそれはずっと感じていた。

恋ともちょっと違うけれど、何か気になる、そんな親近感。


だが、香緒里とも半分血が繋がってる、ということは、


「あいつ、母さんのことを大事にしてたなんて絶対嘘だろ。恵さんのことも誑かして、結果、2人とも捨てた。」


吐き捨てるようにそう言った後、視線を下に向ける。


「俺にも、その血が入ってる。似てるって言われたんだよ、義理の母親に。俺もあぁなるのか?母さんも、恵さんも捨てた、あいつのように.........。」


その声は少し震えていた。

大嫌いで、憎い男。

その男の血が自分にも流れていると思うだけで怖い。


「血の繋がりだけで全てが決まると思うなよ。香緒里だって真の父親と血が繋がってる。香緒里がそうなると思うか?思わないだろ?」


その気持ちを断ち切るように、秀人は言う。


「人は誰と生きるか、過ごすかで変わる。お前が一緒に過ごしていたのは、影響を受けていたのは誰だ?沢田隆弘じゃないだろ?」

「それは............。」



真の心の奥にあるのは、誠への尊敬と愛だ。

生まれてこの方疑いようもなかった父への思い。

あの人のようになりたいと思っていた。

過去を聞いて、尚更。


「俺は、あいつのようにはなりたくない。小川誠のような...父さんのような人間になりたい、と思ってた。それは今も変わらない。血の繋がっていない俺を、それでも愛して大事にしてくれたあの人のようになりたい。」

「なら、それがお前の答えだろ?そう思っているなら、沢田隆弘のようにはならない。血が繋がらなくても、お前を自分の子供として愛していたなら、それはもう父親だろ。」


秀人の言葉に、その隣にいた香緒里が大きく頷いた。

香緒里も養父の義之とは血が繋がっていない。

だが、香緒里を愛して育てた義之は、紛れもなく香緒里の父だ。


「そう、か......そうだよな......。」


そう言った真の横で沙世が大粒の涙を零し出す。

声を上げず、静かにボロボロと。


「ごめ、ん、............我慢、出来なくて......。」

「いや、いいよ。............沙世は、いつも俺の代わりに泣いてくれるな。」


ありがとう、と呟いて沙世の頬に手を添えて涙を拭い、その後優しく抱き締めた。





沙世の涙が落ち着いた頃、真は再び口を開いた。


「母さんのことは、まだよく分かっていない。親父のことを、父さんのことを、それぞれどう思っていたのか。どこで親父と再会して、なんで結婚したのか。綾子さんに聞いてもそこは分からなかった。」

「なら、沢田隆弘に聞きに行くしかないな。」

「あぁ。」


そう答えた真の目を秀人は見る。


「今度は一人で抱え込むなよ。ちゃんと俺らを頼れ。」

「わかってる。だから、行く時は着いてきて欲しい。」


その目に少し力が戻ったように、秀人には見えた。

もちろん、まだ心の整理はつけてはいないだろう。

それでも進もうという意思を感じた。


わかった、とそれぞれが頷いた後、翔太が手を打った。


「はい、じゃあ今日はここまで。真は一応病人なんだから、この後はすぐに部屋戻ってしっかり寝ること。」

「食べられそうなもの、さっき購買で見繕って部屋に置いておいて貰ったから食べられそうなら食べるのよ?」


もちろん、ご飯食べ損なった沙世の分は由美ちゃんに預けてあるから、と雪音は付け足す。


「やった、ありがとう雪音!」


少し表情を明るくした沙世が笑う。

穏やかで優しい空気を感じて、真は少しホッとした。


そうか、家に居場所がなくたって、俺にはここがあったよな、と。

それこそ『血が繋がっていなくても』大事な大事な居場所だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ