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一期一会  作者: 雪奈
第10章 梅雨闇に揺らぐ
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6、母と父


週末、野球部は他校との練習試合をしていたが、負けた。

エースである真が精彩をかいたからではない。

心が乱れていても、無心で野球をしている間だけは冷静でいられたから、球がブレたりなどはしていない。

相手がただ単に強い、春の甲子園予選でベスト8までいった高校だったから、というだけである。

県予選前に強豪校との試合が出来てよかったとも言える。


「やー負けちゃいましたねぇ。」

「まぁ、練習試合組まれた時からある程度は予想ついてたけどな……。」


時行が先輩達と話している。

3年生は県予選の後、勝ち進まない限り引退となる。

だが、練習試合に負けたとて、それをマイナスに捉えている人は少ないように見える。


そんな中、真は主将に声を掛けた。


「すみません、ちょっと行かなくちゃならないところがあって……抜けてもいいすか?」

「あー、そっか、入院してるんだっけか。わかった、監督には伝えとく。」


父が入院している、という話はしている。

以前部活を抜けた事で聞かれた時に話したのだ。

嘘ではない。

見舞いには行っていないが。



駅に着くと部員とは反対方向の電車に乗る。

電車に揺られ、何度か乗り換えをして、目的の場所に辿り着いた。

閑静な住宅街にある戸建て。

送られてきた住所と、目の前の表札を見るに、間違いないだろう。


インターホンを押すと聞き覚えのある声が返ってきた。

名前を名乗ると「ちょっと待ってね」と言われ、その後すぐに玄関の扉が開いた。


「久しぶりね、真くん。」

「お久しぶりです、綾子さん。」


出てきたのは母・麻衣の学生時代からの親友、綾子だった。

そのままリビングに案内される。

綾子の夫と子供たちは外出だそうだ。


「麻衣の葬儀の時以来だから、5年ぶりくらいかな??すっかり大人っぽくなったわね。」


そう言いながら綾子は麦茶の入ったコップをテーブルに置いた。


「今日は……麻衣たちのことを聞きに来たのね。」

「はい、綾子さんなら詳しく知っていると思ったので。」


高校から大学まで麻衣と同じ学校に通っていた綾子なら、麻衣と誠とそして隆弘のことを何か知ってるのではないかと思ったからだ。


「先に、前置きをしておくわね。麻衣はこの事を話すつもりだった。あなたがもう少し大きくなってからね。でも、話す前に亡くなってしまった。それは、覚えておいて。」


真が黙って頷くと、綾子は思い出すようにゆっくり話し始めた。



--------------


私と麻衣は揃って同じ大学に進学し、一緒に同じサークルにも入った。

そこで出会ったのが、小川誠と沢田隆弘。

誠くんは真面目で誠実なタイプ、隆弘は所謂遊び人タイプだった。

チャラついたイメージがあった隆弘のことを麻衣は敬遠してたんだけど、隆弘の方は美人の麻衣に興味を持ち、よく話しかけてた。

とにかく目立つ人で、顔がいいからモテてね、しょっちゅう女の子に囲まれてた。


けど、サークルで関わったり、たまたま一緒の授業を受けたりしているうちに、実は真面目なところもあるんだってことが分かった。

話し上手でもあったから、麻衣も一緒にいてだんだん楽しくて居心地がよくなったみたいで。

付き合いだしたのは大学2年の時だったかな。


仲は良かったと思う。

隆弘なりに麻衣のことを大事にしてるようにも見えた。

でも、やっぱり女友達も多くて、よく遊びに行ってしまってたわ。

麻衣も気になってはいたようだけど、「大丈夫だから。」

と言って、心配して別れた方がいいんじゃない?って言った私を窘めていた。


なんだかんだ、大学4年の時まで長く付き合ってたわ。

年が明けた頃、急に隆弘のアメリカ留学が決まって、麻衣は別れを告げられた。

麻衣は別れたくなかったでしょうね。

でもいつ戻って来るのかも分からなかったらしいから、受け入れるしかなかった。

旅立つ前日までは一緒にいたらしいわ。


そして隆弘が旅立って数日後、麻衣の両親が交通事故で亡くなった。

恋人と別れた上に両親も失って。

当時の麻衣は本当に見ていられないくらい、辛そうだった。

冷静でいられるわけないわよね......。

私ももちろん出来る限りそばに居て、支えたわ。

でも一番近くにいてくれたのは誠くん。


誠くんはずっと麻衣のいい男友達でいてくれたけど、多分ずっと好きだったんでしょうね。

悲しみを埋めてくれた誠くんと付き合ったのは自然な流れだと思う。


そして大学を卒業した直後、麻衣の妊娠が分かった。

つまり、真くんがお腹にいた。


「誰の子かわからない」と麻衣は言ってた。

隆弘が残してくれた子であって欲しい思いと、これから一緒に生きていくであろう誠くんとの子であって欲しい思いと、どちらも麻衣にはあった。


そんな麻衣に、誠くんは「俺と隆弘、どちらの子でも構わない。麻衣の子であることには変わりないから。だから、結婚して欲しい。」ってプロポーズをした。


そうして、2人は結婚したわ。

真くんが生まれた後、誠くんが「遺伝子検査をしよう」って言い出した。

そして、調べたら.........真くんは、誠くんとは血が繋がっていなかった。

つまり、隆弘の子だった。




--------------


「私が知っているのはここまで。そして、誠くんはあなたが隆弘の子だと分かった後も大事に育ててくれてたってことだけ。」


黙って聞いていた真は口を開いた。


「母さんは、あいつに......沢田隆弘に未練があったんでしょうか。」

「......わからない。どうやって隆弘と再会したのか、なぜ結婚することになったのかも、麻衣は話してくれなかったから。」


ごめんなさい、あまり役立たなくて。という綾子に真は首を振った。



真の親が隆弘であることは確かだった。

大好きな父は本当の父でなかった。

似ている、と思っていた仕草や癖も全部ただの偶然だったのか。

なんであいつが父親なんだ、あんなに冷たく、感情のない様な人間が。

暴力を振るい、暴言を吐き、母を追い詰めたあいつが。


そして母さんはあいつに未練があったのか?

だから再会して結婚したのだろうか。

そもそもその再会は偶然だったのだろうか。

大好きだったはずの母のことすら、よくわからなくなってしまった。


事実を知っても。

苦しみが、憎しみが、怒りが、疑問が、溢れて止まらない。

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