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一期一会  作者: 雪奈
第10章 梅雨闇に揺らぐ
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閑話 あなたの隣で


沙世が初めて真に出会ったのは3歳の時だ。

幼かったのであまり記憶はないが、いつもにこにこしていて優しい真のことが出会った頃から大好きだった、ということだけは覚えている。

家が隣同士で母親同士が仲良くなったのでほぼ毎日のように遊んでいたらしい。


同じ幼稚園に入園し、同じクラスになった。

当時から顔が整っていて、更に同年代の男の子たちと比べて穏やかで優しかった真はまぁ女の子に人気があった。


『私だけの真ちゃんだったのに……!』


と幼いながら嫉妬した記憶もある。

とはいえ、家が隣の幼馴染、他の女の子たちに比べてだいぶ仲は良かったと思う。



真の父親が亡くなったのは5歳の頃だ。

少し『死』というものを理解し始めたがまだ実感が伴わないくらいの年齢。


「なんでお父さんを燃やしちゃうんだろう」


と真が言っていたのが印象的だった。


亡くなった当初は実感がなかった真だが、段々父親に会えない寂しさが出てきて、よく泣いていた。

その泣いている真を放っておけなくて、一緒にいられる時は常に一緒にいて、話し掛けていた。

今以上に上手いことを言えなかった沙世には傍にいることしか出来なかったとも言える。



小学生になると、お互いに同性の友達も多く出来たので遊ぶことは減ってしまった。

そして相変わらずモテた。

秀人が転校してきてからは人気が2分割されたので良かったが。


沙世は幼馴染で家も隣で親同士が仲が良いという特権を生かして、真の一番仲のいい女子、というポジションを譲らなかった。

当時の真は恐らく妹分程度にしか見ていなかっただろうが。



そして、5年生の時に真の母親は沢田隆弘と再婚し、真は小川真から沢田真になった。

再婚した当初は戸惑いもあったようだけど、「お母さんが幸せならいい。」と言っていた。

それなりに3人で仲良くしていたように見えた。




けれど、それから何ヶ月かしてから、真の義父は酒に溺れるようになった。

酒に呑まれ、暴言を吐き、殴る蹴る。


真も真の母もそのことを隠していた。

だが、長年真と一緒にいる沙世は気付いてしまった。

真の様子が普段と違うことに。

明るく振舞っているように見えて、実は違うことに。


そのことを真に聞いてみると、話してくれた。

でも絶対に誰にも、親にも話さないで欲しい。

話したのがバレたら多分もっと悪化するから、と念を押された。

それでも沙世に話してくれたのは、誰かに吐き出したかったのだろう、と今は思う。



そのうちに真の母は体調を崩し、入院。

義父も家を空けることが多かった。

心配した沙世の両親が声を掛け、真が沙世の家で夕飯をとるようになったのはこの頃。

そして、徐々に真が壊れていきだしたのも、この頃からだ。


「あいつは見舞いにすら来ねぇ。どこで何してんのかさっぱりわからねぇし。」


と当時真は言っていた。



沙世は終始真といるようになった。

「沙世は真くんにベッタリだね。」

と友達やクラスメイトに呆れや妬みが籠った言い方で言われることもあった。


それでも傍を離れなかった。

そうでないと、真が崩れてしまいそうで怖かったから。

励ましたりするのは上手く出来ない。

だからくだらない、他愛のない話を隣でしていた。





真の母が亡くなった時、真は泣かなかった。

沙世の方が泣いていた。

亡くなって、悲しいはずなのに、その目は義父を見ていた。

怒りと憎しみの籠った目で。




それから直ぐに、真の義父は再婚した。

その時の真の荒れ様は凄かった。

目つきが変わり、放つオーラはトゲトゲしく、周囲は「怖い」と言って距離を置く人達もいた。

何かと怒り、物を叩き、先生にも目をつけられた。


沙世に当たることもしょっちゅうあった。

「鬱陶しい」「あっちへ行け」「お前なんかにわかるかよ」

色んなことを言われた。

それでも、沙世は離れなかった。


真のその言葉が本心ではないのが分かったから。

八つ当たりなのが分かったから。

だって、怒りながらその目の奥は苦しくて悲しそうだったから。



沙世だけは離れない、とその時に決めたのだ。



-----------


中学に入って環境が変わり、少し落ち着いたかのように見えた。

だが、真はいじめを始めた。

どこかにぶつけたかったのかもしれないし、何もかもどうでもよかったのかもしれない。

そして沙世はそれに追従してしまった。

今にして思えば、未熟だったのだ。

本当は止めなければいけなかったのに。



だから、いじめを止めてくれた香緒里や秀人には感謝している。

と、同時に悔しさもあった。

真が前のように少しずつ明るく、雰囲気も柔らかくなってきたからだ。

沙世には出来なかったことだから。




中学卒業間際に、沙世のアタックの末、付き合うことになった。

正式に傍にいれる資格が手に入ったのだ。

なのに、それを手放してしまった。




香緒里の家の事で香緒里と秀人が揉め、その間に真が入り、香緒里を慰め支えた。

初めて、真の隣に立つことが苦しくなった。


一番に見てもらえないことが辛かった。

だから、逃げてしまった。

離れないと決めていたのに。


だけど

「沙世は、俺のことをずっと支えてくれてた。いつの間にか、なくてはならない存在になってたのに、俺は隣にいてくれることが当たり前すぎて、全然気付いていなかった。」

そう、真は言って「好きだ」と伝えてくれた。

沙世を選んでくれた。



だから、もう二度と離れないと決めたのだ。

何があっても真の隣は譲らない、揺らがない。

何も言えないかもしれない、声を上手く掛けられないかもしれない。

それでも傍にいる。



その気持ちは今も変わらない。

確実真に何かがあったであろう今も。

沙世だけで支える、なんて思い上がりはしていない。

今の真には、秀人や香緒里、雪音、翔太がいる。

直接ではなくても、見守ってくれる友人たちもいる。



でも、真の一番傍には自分がいたいと思うのだ。

だって、出会った頃から真のことが一番好きだから。

怒っても、壊れても、間違えても。

どんな真でも、大好きだから。

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