5、揺らがない
香緒里と秀人が屋上にいる頃、翔太は雪音、奈津、亮と学食にいた。
他メンバーは用事があったり授業の兼ね合いがあったりしていない。
「翔太、沢田に何かあったのか?」
食事中、亮が突然そう問い掛けて来た。
「奈津や悠圭以外のこと気にするなんて、珍しいね。」
「亮は翔ちゃんだけじゃなくて、新谷と沢田のことも実はちゃんと友達で身内だと思ってるんだよ〜??」
翔太の言葉に、奈津がそう言う。
亮は否定も肯定もせず視線を逸らしたが、多分これは肯定なのだろう。
「何かあった、んだとは思うんだけどね。俺達もまだ全然わからなくって。とりあえず待ってみてるところ。」
「何か話してくれればいいんだけどね……。」
亮の質問に答え、雪音も合わせてそう言う。
亮にまで気付かれているということは、奈津はもちろん、圭にももしかしたら気付かれてるかもしれないな、と思う。
毎日顔を合わせて言葉を交わしていれば分かるくらいには違和感があるのだろう。
「なんかこう、元気ないもんね。」
「反応がいつもより1拍遅い。」
奈津と亮は真を見ていてそう思ったらしい。
亮も周囲に興味がないだけで、意外と近しい人達のことはよく観察しているようである。
「真ももちろん心配なんだけど、秀人もな……最近ちょっと気を張っているというか……。」
同室故に感じることや考えることも多いのかもしれない。
増してや人の事をかなりよく見ている秀人のことだから、余計に目につくところはあるのだろう。
「あ、なんか寝不足なんだよね?」
「え、なっちゃん気が付いてたの??」
翔太ですら気になったのは今朝なのに、と驚いたが続く言葉に納得した。
「香緒里がね、気にしてたんだ。」
「なるほど。」
「だからね、寝不足の恋人には膝枕してあげるといいんだよ、って教えてあげた。」
え、と翔太と雪音は固まった。
悩んだ香緒里が奈津にしっかり相談していたというのも驚きだが、そのアドバイスもなかなかだ。
「奈津、それバラしていいのか?」
「雪ちゃんと翔ちゃんは香緒里の保護者みたいなものだし、いいんじゃない?」
亮に指摘された奈津はケロッとした顔でそう言う。
意外と押せ押せのアドバイス。
「香緒里には……ちょっとハードル高いんじゃない??」
「大丈夫だと思うよ?さっき新谷の手を引いてどこかに向かう香緒里を見掛けたし。」
「え、ほんとに?????」
突然の香緒里の成長に翔太も雪音も驚きを隠せず顔を見合せた。
その後、雪音は数秒沈黙し、考えた後にまた口を開いた。
「そっか、香緒里の頭は今、『秀人の寝不足をなんとかしてあげなきゃ』ってなってるんだ。だから、膝枕の意味を多分考えてないのよ。」
「なるほど、的確な分析。」
「まぁそれでも、秀人のために主体的に考えて積極的に行動してるのは成長だと思うけど。」
「雪ちゃんほんと香緒里の保護者ね。」
結果を聞きたいところではあるが、香緒里がもし本当にアクションを起こしたのなら、秀人は拒否しないだろう。
その意味も秀人ならきっと汲み取れる。
「なっちゃん……意外とけしかけるの上手いわね……??」
「え?そう??普通のアドバイスかと思ったけど。」
あれ?と奈津は首を傾げ、亮は若干呆れたような視線を向けていた。
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真が義母に話を聞いてから、5日が経った。
未だに心の中の靄は一切晴れないどころか日に日に重たくなっている。
義母からの話なので、まだ確定ではないのかもしれない。
でも本当なのかもしれない。
そんな曖昧な状態では誰にも話せなくて。
いつも通りに振舞っているつもりだけど、沙世や中学からの友人達にはきっとお見通しだろう。
1人になると考えてしまうので、朝や夜はみんなと過ごすようにしている。
けれど、ずっと気を張っているのも疲れるので時々一人で校内を歩いている。
夕食後、真は香緒里達が談話室に向かっている際、「ちょっとトイレに行ってくる。」と言って、一人でふらりと外に出た。
雨は降っていないが、なんとなく空気が湿っぽい。
寮や多目的棟があるエリアから校舎のある方に歩いて行くといくつかベンチがある。
そのベンチの一つに腰掛け、空を見上げる。
考えたくないのに、考えてしまう。
真実を確かめに行かなければならないのに、なかなか勇気が出ない。
考えれば考える程、隆弘への憎しみが、大好きだったはずの母への不信感が、募る。
一人になってはいけないのかもしれない、けれど一人になりたい。
誰かが歩いて来る音が聞こえ、そちらを見る。
「沙世……。」
沙世は黙って真の隣に座った。
2人きりになったのは久しぶりのような気がした。
そのまま、二人で何も話さずにそのまま過ごす。
先に沈黙を破ったのは、真の方だった。
「…………聞かないのか?」
「だって……まだ話せないんでしょ?」
沙世はそう言って真の方を見る。
「あの人が、麗子さんが来たのは知ってる。真がそれで出て行ったことも、何か聞かされたんだろうなってことも。」
気付かれている。
でもそれが何かは知られていない。
「心配だよ?当たり前じゃん?でも真は話さないでしょ?」
「…………そこまで分かってんなら、今は放っておいてくれ。」
「やだ。」
「……っなんでだよ!沙世には俺の気持ちわかんねーだろ!?一人にしてくれよ!!」
「こんな状態の真を放っておけないよ。」
声を荒らげても、あくまで態度を変えず、沙世は淡々と返す。
「俺が放っておいてくれって言うんだから言うこと聞けよ!!」
いつもより強い言葉を投げかけてしまう。
完全に八つ当たりなのは分かっている。
でもどうしてもイライラが止められない。
何も説明出来ないのがもどかしい。
そのもどかしさにもイライラする。
真は立ち上がり、踵を返して寮の方に向かう。
沙世はその背中を悲しげな目で見る。
1つ、溜息をついた。
「今は突っ込むべきじゃなかったかなぁ……。」
ポツリとそう呟く。
沙世も立ち上がって真の行った方向に進む。
と、物陰に香緒里と雪音がいることに気が付いた。
「香緒里、雪音……もしかして、聞いてた?」
「ごめん、真を追ってく沙世を見て気になって、来ちゃった。」
「まぁ、いいけど。」
そのまま3人で連れ立って寮に向かう。
「沙世、大丈夫??」
「私???私は……大丈夫。真のあれ、八つ当たりだから。私にイライラしてるんでも怒ってるんでもない。感情の行き場がないだけ。」
沙世はそう言って少し遠くを見た。
前にもこういうこと、あったから。と漏らす。
香緒里には少し、意外に思えた。
真に拒否をされたら沙世は傷付くのかもしれないと思い、心配していたからだ。
でも、幼馴染で昔から積み重ねたものがあるからそれくらいでは揺らがないのかもしれない。
或いは、隣に立つ覚悟を持っているのか。
「二人とも、心配で来てくれたんでしょ??ありがとね。」
「ううん、全然そんな……」
「むしろ覗いちゃってごめん。」
「早く話してくれるといいんだけどね〜。」
明るく振る舞う沙世を香緒里と雪音は少し心配そうに見る。
それに気付いた沙世はニッコリ笑う。
「ほんとに、大丈夫だよ。私が折れてちゃダメだもん。」
その瞳は揺らいでいなかった。




