4、秘密の屋上
翌日の朝、真はいつもより若干テンションは低めであったが食堂に来た。
いつものように香緒里たちと話をし、悠たちと絡み。
傍から見ればいつも通りに振舞っていた。
付き合いの長い香緒里たちには無理しているようにしか見えなかったが。
聞いてはいけないオーラが出ていたので香緒里や沙世も聞けなかった。
昨晩の様子を食後に秀人達に聞いた。
「手の甲の傷、どこかに何度もぶつけたような感じだった。多分……あれは自分でやったんだろうね。」
手当てをした翔太はそう言う。
「何を聞いても黙ってばっかで、何も聞き出せなかった。どこに行っていたのかも、何でそんな怪我をしたのかも、教えてくれなかった。」
と、秀人は話していた。
朝起きて、しばらくぼんやりしていたものの、着替えて部屋を出る頃には表情も戻っており、いつものように話したらしい。
逆にその普通が心配で、怖い。
何が真の心の中で起きているのか。
その後授業はいつも通り受けていたが、昼休みはどこかにふらりと行ってしまった。
部活にも出て、夕食後談話室にも来てくれたが口数はそんなに多くない。
いつも通りのようで、いつも通りでない。
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「真、大丈夫か?」
放課後、体育祭の準備が滞っているので部活に出るのを遅らせて、今日は生徒会室で生徒会の仕事をしていた。
その手を止めて、時行は香緒里にそう聞いた。
「……やっぱり、野球部でもちょっと違う?」
「うーん、何か凄くおかしいってわけでもないんだけどね。なんだろう、違和感?練習に身が入ってないってわけでもないし。」
首を傾げながら時行は言う。
「キャッチボールをしてて、なんかいつもとボールの投げ方や気持ちの込め方が違う、みたいな感じか?」
横で聞いていた一輝が言う。
生徒会室には今この3人しかいない。
「あ、そうそう、そんな感じ。俺は大体真と組んでやってるんだけどさ、なんか違うんだよなー。」
「そっか………。」
「かおりん、知ってる……?」
「ううん、私たちにも何も話してくれなくて……。でも、もう少し待ってみる。言えない事情があるとか、まだ話せる段階じゃないのかもしれないし。」
香緒里はそこで書類から顔を上げ、時行を見る。
「だから、トッキー達は真といつも通りに話してくれると嬉しいかな。いつも通りの方が気が楽なことって、絶対あると思うから。」
そう、少し微笑みながら言うと、時行は「わかった。」と頷いた。
「なんか前からちょっと思ってたんだけど、かおりんって真の姉ポジぽいとこあるよね。」
「え?そう?」
「なんだろ?見守ってる感じ?」
「んーーまぁ私たちは真も含めて友達っていうより確かに家族みたいなところはある気がするけど……。」
家族より深い時間は過ごしている、とは思う。
特に香緒里にとっては。
何にも変え難い存在の恋人と友人たちではある。
だからこそ、今のこの状態がもどかしくて、心配ではある。
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授業中、珍しく秀人は欠伸を噛み殺した。
成績優秀、テストは常に満点の秀人は正直授業を聞かなくても問題はない。
だが、緑ヶ丘高校の成績は授業態度も加味されるため、毎度一応真面目に受けており(黒板を見ながら別のことを考えていることも多いが)、授業中に眠くなることも一切ない。
ただ、ここ数日、つまり真が急に義母と外出し、夜中に帰ってきたあの日からろくに寝られていない。
真に何が起きているのか気になりなかなか寝付けず、寝ても部屋の中に真がいるのかが気になって眠りが浅く、すぐに起きてしまう。
そんなこんなで日中眠くなる。
とはいえ、昼寝を教室でしたところで結局眠りが浅く質も悪いのであまり変わりはない。
部活に影響が出ないようにしないといけない。
そもそもここで秀人が倒れたら元も子もない。
昼休み、教室で昼ご飯を食べた後、どうしたものかとぼんやりしていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
教室の入口を見ると香緒里がいた。
「新谷くん、彼女さん〜。」
入口近くにいたクラスメイトが秀人を呼ぶ。
立ち上がり、近づいて行くと嬉しそうな顔をする。
あーもうだからその顔ダメだって、と内心思いながらも廊下へ連れ出す。
「どうした?今日の昼休みは生徒会の方に行くって言ってなかったか?」
「んーと、仕事の調整してきたから、大丈夫。ちょっと付いてきてくれる?」
そう言って秀人の手を取り、引っ張って行く。
香緒里から手を繋いでくるのは珍しい。
連れて行かれてたどり着いたのは屋上だった。
「屋上って普段は立ち入り禁止じゃなかったか?」
鍵を開けている香緒里に声を掛けると振り向いて笑う。
「ふふふ、私生徒会長なのよ??」
なんだそのかわいい職権乱用は、と言い出しそうになるのを秀人は慌てて飲み込んだ。
「懐かしいよね、中学の時の屋上。秀人と初めてゆっくり話したのも屋上だったもんねぇ。」
「そういえばそうだったな。」
中学2年生の頃、無断で屋上に入りそこで初めは香緒里と秀人、その後に雪音と翔太が加わり、そこで昼休みを過ごしていたのはいい思い出だ。
屋上に出ると、今日は曇り空だがそんなに寒くはない。
学校の周りには住宅がないので開けた景色が広がっていた。
香緒里は屋上の中ほどまで歩くと座り、秀人を手招きした後、自身の膝を示した。
秀人はピシッと固まった。
「あの……香緒里さん……???もしかしてそれって……」
「奈津がね、寝不足の恋人には膝枕がいいって言ってたから。」
香緒里になんてことを仕込んだんだ……!という気持ちと、上原グッジョブという気持ちがせめぎ合う。
でも100%善意で下心は一切ないのが分かるので、拒否する理由もない、そもそも香緒里から提案されて拒否することはないが。
「わかった。」とだけ、なんとか言うと香緒里の膝に横になる。
「……ちょっと、恥ずかしいね。」
と言って香緒里は顔を赤くする。
その頬に手を伸ばし、心の中で「かわいい」と呟く。
「寝不足なの、気付いてたのか。」
「うん。秀人のことだから、真を気にして寝られてないんじゃないかって思ってたし、朝会った時に最近眠そうだったから。」
秀人も香緒里のことをよく分かっていると思っているが、同じように香緒里も秀人のことをよく見ている。
それが感じられて嬉しかった。
香緒里の手が秀人の髪に触れ、優しく頭を撫でる。
その心地良さに目を閉じていると、いつの間にか意識を手放してしまった。
寝てしまった秀人の頭をゆっくり撫でながら、香緒里はその端正な顔を眺める。
「綺麗な顔……。」
寝ている秀人を見たのはこれが2回目だ。
あの時は触れるのを憚ってしまったが、今は触れられる。
無防備な寝顔を見ていると、愛しい、という気持ちが胸に広がっていく。
昼休みが終わりそうになる頃になっても秀人は熟睡していて起きなかったので、結局呼び起こすこととなった。
元々ショートスリーパー気味の秀人には40分程寝ただけでも効果てきめんだったらしく、すっきりした顔をしていた。
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夕食の際、秀人のそばに奈津が近寄ってきた。
「新谷、寝られた??」
「…………寝られたよ。ただ、なんてこと香緒里におしえてんだよ……。」
「でも、良かったでしょ??」
「…………まぁな。」
秀人は雪音たちと話している香緒里を見つめた。
その目はいつも香緒里を見る目より、もっと優しげだった。




