3、傷は浅くなく
「真と連絡が取れない?」
「うん、部活はもう終わってるはずなんだけど…………既読にならないんだよね。」
昼過ぎに部活が終わった香緒里と沙世は夕食前にお風呂に入っていた。
真の返信は確かに早い方ではない。
とはいえ、ここまで時間が空くことはあんまりない、と沙世は話す。
野球部の人なら何か知ってるかも、と話しながら大浴場を出て寮の方に向かっていると、丁度時行と健が前から歩いてきた。
「あれー?かおりんとさよちん、お風呂行ってたの?早くね?」
「うん、今日は早く部活終わったからね。」
「ねぇトッキー、前野。真どこいるか知らない?」
沙世が真の名前を出すと、2人は顔を見合わせた。
何かあったのだろうか。
「さよちん聞いてないのか。真の母親って言う人が来て、真は外泊行くって言って、出掛けた。」
「……それ、どんな感じの人?」
声のトーンが下がった沙世が聞くと、前野は思い出しながら話す。
「20代から30代くらいの見た目の人だったな。背は谷中くらいか?派手めな感じの雰囲気。」
「そう…………。」
その答えを聞くと押し黙ってしまった。
多分香緒里の脳内に浮かんだのと同じ人に思い当たったのだろう。
代わりに香緒里が話す。
「えっと、ありがとね。」
「いや全然…………真、何かあった?母親が来たって前野が言ってから、なんか雰囲気ちょっと違って。」
時行は、いつものふざけた雰囲気はなりを潜め、心配そうな表情をしていた。
「うーん…………。何となく予想はつくんだけど、ちょっと私たちからは言いづらいかな。」
「そっか、ならいいよ。」
「ごめんね。」
「全然。後でまたちょっと会議するんでしょ?またね。」
深く聞かないでくれてありがたい。
時行は空気を読めないようで、意外と読んでいると思う。
前野も気を使って何も聞かないでいてくれる。
二人と別れた後、沙世の顔を見ると強ばっている。
「絶対あいつ、真の義理の母親だ……何しに来たのよ……!!しかも真を連れてどこに行ったのよ…!」
真と義母の関係があまり良くないのだろうということは、初詣でのやり取りでわかった。
再婚してからずっと見ていた沙世が嫌悪感を抱くのは当然なのだろう。
怒りを目に宿す沙世を見た後窓の外を見ると、部活終わりの時より雨足が強まっていた。
あまりいい予感はしない。
真はどこに行ったのだろう。
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雷まで鳴り始めたな。
雨音が響く部屋の窓の方を見て秀人は思う。
時折窓の外が光、雷鳴が聞こえる。
同室の真は今日はいない。
夕食の時に香緒里たちから、真の義母と出掛けたらしいということは聞いた。
いい話でないのは確かだ。
「どこ言ったんだよ、連絡もなしに……。」
ポツリと誰かにともなく呟く。
連絡がないということはそれをする余裕もないくらいの何かがあったのではないか、と想像してしまう。
ブブッとスマホが振動した。
もう1時だ。
いつもならもうとっくに寝ている時間なのに目が冴えて寝られない。
通知を見ると、香緒里からメッセージが来ていた。
『まだ起きてる……?』
スタンプ付きで送られてきたその言葉に硬かった表情を少し緩める。
『起きてるよ。どうした?』
返信するとすぐに返ってきた。
『電話してもいいかな……?』
その言葉を見て、返信するより早く電話を掛ける。
ワンコールで繋がった。
「もしもし?」
「もしもし……寝られないのか?」
「うん…………。真のことも心配だし、雷も鳴ってるしで……。」
香緒里は雷もあまり得意でないらしい。
お化け屋敷と共に苦手なものの一つだと前に話していた。
「結構鳴ってるもんな。」
「それで、寝られなくて……。美愛も寝ちゃったし。秀人の声が、聞きたいなぁって、思って……。」
遠慮がちに言われたその言葉に、スマホを耳に当てたまま額を押さえた。
誰も部屋にいなくて良かった、と思った。
耳が赤くなるのが自分でもわかる。
深夜にこれはダメだろ。
深呼吸を1つして、話を続ける。
「俺も寝られてなかったから、丁度良かった。」
「そっか、なら良かった。」
スマホから聞こえる香緒里の声は心地いい。
少しだけ心が安らいだ気がする。
「何かあったのかな……。」
「わからない。けど、義理の母親が来て何もない、はないだろうな。」
秀人も香緒里も、もちろん沙世も、そして翔太と雪音も危惧している。
何もなければいいと思うが、わざわざここまで来て何もないわけがない。
気を紛らわすように部活の話や、生徒会の話などをする。
二人で落ち着いて話しているうちに、段々眠気もやって来た気がした。
しかし、その時ガチャリと扉が開いた。
「香緒里、ちょっと待ってて。」
「え?」
スマホを置き、入口の方を見ると真がいた。
どうやって校内に入ってきたのか、なんでこんな時間にとか一瞬のうちに様々な疑問が浮かぶが、暗がりの中よく見ると全身ずぶ濡れだ。
「おい、大丈夫かよ……?」
近寄ると、右手の甲から水滴ではなく、赤黒い液体が滴っていた。
それが血だと気付いた秀人は血相を変えた。
「真、何があった??」
その問いに真は答えず目を逸らす。
明らかに様子がおかしい。
どうする?
「とりあえず、シャワー浴びて温まってこい。男子寮のシャワー室なら使えるはずだ。手の傷もしっかり洗え。翔太呼んどくから。」
バスタオルと着替えを持たせ、シャワー室へと向かわせた。
溜息をつき、ベッドに座り込む。
さすがの秀人も混乱しているが、香緒里との電話もそのままだ。
「悪い、突然。」
「ううん、大丈夫。何かあった……?」
「真が帰ってきた。」
「え!?こんな時間に……??」
「詳しいことはまだわからない。話、聞いておくからまた明日の朝話すよ。」
「……わかった。」
「と、言っても……寝られないよな……。」
「ううん、大丈夫よ。今は真のこと心配してあげて。おやすみ。」
「おやすみ。」
そう言って電話を切る。
中途半端に話すと不安を煽るかもしれない、と思ったが、帰ってきたことを伝えた時点であまり変わらないのかもしれない。
落ち着け、と自分に言い聞かせて、次に翔太に電話を掛けた。
「翔太?夜中に悪いな、ちょっと俺の部屋まで来てくれないか?あぁ、緊急事態。真が帰ってきて----」
手短に話を伝える。
一体真に何があったのか。
あの様子だと聞いたところで教えてくれないかもしれない。
それでも、心配でたまらないのだ。




