閑話 君のせい 前編
GWも明け、緑ヶ丘高校の選挙期間が始まった。
立候補者の名前や抱負なども公示され、誰がいい?等話しているのを時折見掛けるようになった。
選挙といえど、緑ヶ丘高校ではあまり堅苦しさはなく、半分お祭りのようなところがある。
「しっかし、変わった選挙だよね〜。会長に立候補!とかじゃないんだもん。」
いつもの様に談話室に集まっている時に、谷中沙世が談話室にも貼られている生徒会選挙の告知の紙を見ながら言う。
「一番獲得票が多い人が会長なんだっけ?」
「うん、そう。会長副会長は得票数。あとの会計、会計監査、書記、庶務は生徒会になった人で話し合って決めるんだって。得意不得意もあるしね。」
安西雪音の問いに、実際に選挙に立候補している吉崎香緒里が答える。
生徒1人の持ち票は5票、つまり5人に入れることが出来る。
選挙の立候補者は香緒里のクラスメイトもいれば全然知らない人や、なんなら一年生もいる。
「男バスは結局小野に決まったんだっけ?」
「そうそう。一輝に押し付けたお詫びに俺が推薦責任者やろうかと思ったんだけどさ。」
「秀人が出たら絶対一輝より目立つからやめろって、小倉先輩に言われたんだよな。」
沢田真が新谷秀人と鮎川悠に聞くとそう返ってくる。
確かにイケメン、天才、運動神経抜群の三拍子揃った秀人が隣に立つと大体の人が霞みそうではある。
話は上手いので推薦責任者としては申し分はないのだろうが。
「亮、香緒里は当選すると思う?」
香緒里と同じ空手部の上原奈津が隣に座る鮎川亮に聞く。
奈津に聞かれた亮はパソコンを叩いていた手を止め、少し考える。
「吉崎なら、学級委員としての実績、そして新谷の彼女として、空手部のエースとしての知名度的にもかなり当選確率は高いと思うぞ。」
「当選したいわけではないんだけど……いや、やるからには頑張るけど…。」
亮に保証されて喜んでいいのかどうなのかわからないところではある。
他に候補者がいなく、香緒里になった流れではあるが、香緒里は大体こうして学級委員にもなっているので、今回もそうなってしまう予感はある。
とりあえず私たちは全力で応援するからね!と沙世たちは言ってくれる。
ともかく、地道に選挙活動をしていくしかない。
「あの、吉崎先輩!」
ふと呼ばれて顔をそちらに向けると一年生の女子生徒が数人いた。
その一番前にいる生徒は見たことがある。
「あれ?中村じゃん。」
悠が声を掛けると男子バスケ部の中村彩葉はペコリと悠と秀人に向かって頭を下げた後、再び香緒里を見た。
「吉崎先輩、私たち先輩が生徒会長になれるように、応援してますので!」
「「頑張ってください!!」」
「どうも、ありがとう……???」
香緒里が戸惑い、ちょっと小首を傾げながらお礼を言うと、きゃーー!と黄色い悲鳴が上がった。
そして、去って行った。
去り際に「かわいい」「尊い」等々聞こえてきたがあれは一体なんだったのだろうか、と香緒里は更に分からなくなった。
「あのマネージャー、俺はてっきり秀人狙いなのかと思ってた。」
「わかる、俺もそう思ってた。」
一連のやり取りを見ていた沢田真と石川翔太もそう言いつつ首を傾げた。
「わかった、あの子たち香緒里と秀人が推しカプなんだ。」
ポンと手を叩いて沙世が納得したように言った。
「え……?」
「は………????」
「そういえば、最近噂で香緒里と新谷カップルの非公式ファンクラブが出来たーって聞いたわ。」
「あ、それも俺も聞いた。」
「推しカプってなーに?」
「このカップルのこと応援してます大好きですー、って感じかな……?」
混乱する本人たちを他所に、渡辺美愛が思い当たったように言い、鮎川圭も同意する。
そもそもの疑問符を浮かべる渡辺直樹に須賀由美が噛み砕いて教えてあげている。
「えっと、結局どういうことなの……??私たちを見て楽しいってこと…???」
「まぁ要はそんな感じだねぇ。」
「カプ厨の気持ち、わかるはわかる。」
「えぇぇぇ恥ずかしいんだけど………。」
「「かわいい」」
混乱し、恥ずかしがる香緒里を見て雪音と沙世は声を合わせる。
一方…
「俺らのやり取りが見られてるってことか………?いやでも別に何もしてねーし……」
「珍しく困惑してるな秀人。」
「大混乱だな。」
「……………まぁ、香緒里に害がないなら、いいか……」
「あ、考えること放棄した。」
「悟ったな。」
頭を抱える珍しい秀人の姿を翔太と真は実況する。
「あの子が秀人のこと好きじゃないなら、とりあえず良かった、かなぁ………」
ぽつりと呟いた香緒里の言葉は、再び秀人の思考をフリーズさせるには充分だった。
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選挙期間中、香緒里と推薦責任者である奈津は毎日昇降口の前に立ち、挨拶運動を行っていた。
その甲斐あってか、最終日の今日も声を掛けて応援してくれる生徒は多い。
「香緒里の人気がうなぎ登りね!」
丁度登校してきた沙世に声を掛けられる。
「うなぎ登りかどうかはわからないけど……だいぶ認知はされてきた気がする。」
「初日は色んな意味でやばかったけどな。」
沙世と一緒に来た真が思い出すように言う。
初日は、香緒里と奈津が2人で立っていたため、特に3年生男子からよく絡まれた。
それを『一緒にいると変に目立つからダメ』と止められていた亮が遠くから睨んでいてなかなか肝が冷えた、真や翔太の。
秀人はというと、毎日登校する度に香緒里と話しつつ、周囲に牽制していたのだが……絡んでくる男子が減っているため、効果はある程度あったのだろう。
そしてそれを見たファンクラブ会員が歓喜する、という無限ループも出来上がっていたらしいが。
他の候補者も何人か同様に昇降口や下駄箱を入ったあたりに立ち、声掛けを行っている。
その中の1人、女子テニス部の河村柚希からはこちらに鋭い視線が送られている。
「今日も河村さん、見てるねぇ。」
「そうだね…。」
夏の香緒里と沙世の件で未だに若干女子テニス部から敵意を向けられることがある。
元々、秀人ファンが多い女子テニス部なので仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないが。
その中でも、沙世曰く、河村柚希は本気で秀人のことが好きなタイプの女子らしい。
故に、こうして恨まれてるのだろう。
「いくら香緒里を恨んだところで新谷の気持ちが香緒里から動くなんて、万が一にもないだろうにねぇ。」
普段の秀人を見ている奈津はそうコメントする。
いつものメンバーなら満場一致の意見だろう。
この頃の秀人を見ると特に。
分かっていないのは本人の香緒里だけだろう。
もし、一緒に生徒会やることになったら……大変そうだなぁ、なんて香緒里は河村を見ながら思った。
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嫌な予感というものは不思議と当たるもので。
選挙結果は香緒里が堂々の単独トップで生徒会長。
副会長ではないものの、河村も生徒会役員に選ばれていた。
ちょっと溜息をつきつつ、生徒会の初日の集まりに香緒里は向かった。
生徒会室に入ると既に2人、人が待っていた。
「小野くんと……佐倉くん、だっけ?」
「せいかーい!佐倉時行です、トッキーって呼んでね!」
「よろしくな。まぁ吉崎が会長になるだろうとは思ってたけど。」
軽い調子で言った佐倉時行は野球部。
真曰く、圭と直樹を足して割ったような性格らしい。
小野とは男バスに行った時や学級委員の会議等で会っているので顔見知りである。
次に生徒会室に入ってきたのは河村で、香緒里の方を睨んだ後に所定の席に腰を掛けた。
その後に、1年生が2人入ってきた。
全員揃ったので、自己紹介をする運びとなる。
「じゃあ俺から行っくねー。会計の2年E組の佐倉時行です、トッキーって呼んで欲しいな!よろしくね〜。」
まず時行が立ち上がってそう言う。
次に時行の隣座る、一年生男子が立つ。
「会計監査の1年B組の手塚颯斗です。お願いします。」
確かサッカー部だ。
圭が『サッカー部に美男子が入ってきたんだよ……俺と人気を二分してしまう……』とか言っていた。
圭の言う通り、綺麗な顔立ちをしている。
「庶務の1年C組日向里華でーす♡よろしくお願いします♡」
にっこり笑いながら言ったその子は雪音にもひけをとらないくらいのかわいい子だった。
雪音とは全然性格は違うようだが。
「書記、2年B組、河村柚希。あんまり会長に従う気はありませーん。」
こちらを見る目は相変わらず厳しい。
「副会長の2年E組の小野一輝。よろしく。」
このメンバーの中でだと、副会長が小野で良かったと思うべきか……。
などと考えてしまうくらいキャラは皆濃い気がする。
「会長になりました、2年C組の吉崎香緒里です。頑張るので1年間よろしくお願いします。」
「はいじゃあ自己紹介終わりー!はーちゃんに、りっちゃんに、ゆずに、カズに、かおりんね!」
「は????」
「勝手に名前で呼ばないでくれる??」
まとめだした時行に颯斗と柚希が眉を顰めて反応する。
「まず仲良くなるには呼び方からでしょ!ねぇかおりん!」
「えーと、佐倉くん…?」
「トッキーでいいよ。」
「じゃあ、トッキー、呼び方は本人に確認取ってからの方がいいと思うよ?」
やんわりと香緒里が窘めるも、「えーー??」とのらりくらりと躱された。
このマイペースっぷりは確かに直樹だ。
距離の詰め方は出会った初期の頃の圭を彷彿させる。
「会長、諦めてくれ。こいつはこういうやつなんだ。」
「なるほど………。小野くん、もしかしてクラスでも大変なんじゃない…?」
「……否定は出来ない。あと、あんまり苗字で呼ばれないから、名前の方が助かる。一輝でいい。」
「そう……?」
時行はというと、未だに颯斗や柚希となんだか揉めている。
このキャラが濃い生徒会を上手くまとめられるのだろうか。
これからの1年間を思い、若干香緒里は胃が痛くなってきた。




