皇城の波乱
「──いや、まさか、余もうっかりしておったわ」
そこは玉座の間。帝国において至高の地位にある皇帝ヴィクトリウス・オズワルドはまいったまいったと笑っていた。
「笑い事ではないぞ。親父殿」
叱る口調なのは第一皇子のアレクサンダーであった。
「何故、素性を洗わず従者になどしたのだ」
アレクサンダーとクリフは親友であるのでクリフを責めるつもりはない。責めているのは父親の迂闊さだった。
「いやな、奴自身が捨て子であるといったのだから、それ以上追求するのも余としてはな──」
「なぜ、そこで人情を出すのか!」
激昂するアレクサンダー。
父親とクリフのうっかりのせいで皇家は混沌とした状況に追い込まれていた。
『勇者事件』の後遺症で右手と左脚が不自由になったアレクサンダーは自分が健康であれば、父に拳骨の一発でも叩き込んでやるのにと思っていた。
「いや、余を責めるが貴様も大概であろう。友として過ごしながら、そんな話は一度も聞いていないのだろう。余だけが悪いわけではないだろう」
「それは……」
アレクサンダーとクリフは様々なことを語り合った。しかし、クリフの素性の話題は一度もしていない。答えに窮するアレクサンダー。
その時、玉座の間が凄まじい勢いで開けられた。
「お父様、私とクリフ様の結婚はどうなるのですか!」
現れたのは白銀の髪に陶磁のような白い肌をもつ絶世の美女。
オズワルド帝国第三皇女アメリア・オズワルドであった。
アメリアは烈火の形相で皇帝に詰め寄る。
「お父様はおっしゃいましたよね。戦が終われば、クリフ様を適当な侯爵家の養子にし、私の婿にしてくださると!」
「それは、言ったは言ったが……」
「落ち着け、アメリア」
取りなそうとするアレクサンダーだが、アメリアの目は吊り上がり、怒りの表情を浮かべている。
「無理です! 私はクリフ様の妻となるために今まですべての縁談を断ってきたのですよ」
アメリアにとってクリフは騎士の中の騎士。最推しであり、結婚を夢見る相手だった。
「いや、なんとかなると余は思うのだが──」
「無理だろう。コンフォード家は男爵家。男爵と皇女ではさすがにつり合いがとれん」
「あああああああ!」
アメリアが発狂する。白馬の皇子が間もなく手に入るはずだったのに、うっかりで全てが台無しである。
「爵位をあげることは──」
「無理でしょう。クリフの功績はコンフォード家ではなく奴個人に帰属するもの。この機会に伯爵などにする? 絶対無理だ」
アレクサンダーが無情に妹へと告げるのだった。
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