困窮の理由
「なぜ、このような有様に」
クリフは村人全員に粥を配り終え、それを食べ終わったのを見計らい、老婆に尋ねる。すると、老婆いくぶんか元気を取り戻した様子で、村に起きた出来事を語るのだった。
老婆曰く──
元々はこの村は何もない平和な村であったが、突如、武装した亜人の集団が襲ってきて、食料やら何やらを奪っていったのだという。亜人たちの中には魔術師もおり、みせしめに住居を魔術で廃墟にされたという。
「……どう思うゴーツェル」
「同盟軍の残党か脱走兵か。どっちにしろ、砦に報告して──」
「違うな。騎士たるもの、目の前に民を苦しめる者があれば成敗するのが道理」
クリフは決然と騎士の心得を唱えると立ち上がり、素早く指示を出す。
「総員完全武装。アーヴィンは賊の根城を探せ。それ以外のものは戦闘準備、既習でもって一網打尽にする」
悪癖が出たぞと、クリフ・コンフォードを良く知る者たちは思う。
困っている民を見捨てられない性分のあまりにも堂々とした騎士道。それがクリフの悪癖である。
まぁ、そんな将軍についてきた部下たちも似たようなものであり、ゴーツェルは弓の用意をし、クライス達は互いに鎧の点検をしている。
「司祭殿はついてこずとも構わんぞ」
「いえ、ぜひ同行させてください。困窮する民のために立ち上がる騎士。まさしく騎士の鑑です。そんな騎士に同行できるなどこの上ない誉」
「こうして、クリフ・コンフォードの英雄譚にあらたな1ページが刻まれるのであった」
従軍吟遊詩人だけあって、シャルルも武装しついていく様子だった。
細剣を腰に差し、マントを羽織り、楽器は馬車の中にしまっている。
ほどなくしてアーヴィンから森の中に賊のアジトを見つけたという報告があった。
「総員出撃!」
完全武装の帝国騎士たちが駆け出した。
第一軍は第一皇子のアレクサンダーとクリフが共に鍛え上げた軍である。
第一軍の兵にまず求められることは走れること。アレクサンダーとクリフは歩兵の速さを重視し訓練を行ってきた。どれだけ荷物を背負っても、どんなに足場が悪かろうとも、どれだけ疲れていても、第一軍の兵は速度を落とさない。
そんな彼らが村を襲った賊に襲い掛かる。
賊のアジトは森の中に作られた野営地であった。
アーヴィンの誘導に従って、その場に瞬く間に到着したクリフたち。
鍛え上げられた帝国騎士は森の中でも速度が落ちることはない。
「敵は12人です」
報告を聞くなり、ゴーツェルが賊の中にいた魔術師らしきものの頭を射抜いた。弓兵隊長の腕は確かである。
「突撃!」
クロイスとアロイスが槍を構え突撃し、犬耳の獣人二人の腹を同時に貫いた。
そこで、ようやく襲撃を受けていることに気づいたようで亜人たちは慌てて武器を構えるが遅い。
盾を構える間もなくゴーツェルの弓に二人の獣人が射抜かれた。
純粋な人とは違うから亜人。ここにいる者は体に動物の特徴を持つ獣人であるようだ。もっとも、どんな亜人であろうが村を苦しめた以上、クリフにとっては成敗の対象だが。
「遅い」
クリフは腰の鞘から教会からもらった聖剣を抜き放ち、賊の首を跳ね飛ばした。
そして、即座に次の獲物めがけて飛び掛かり、聖剣で頭を叩き割る。
「良い剣だ。乱暴に扱っても刃こぼれ一つない」
振り返り、迫ってきた相手に突きを放つ。賊の胸鎧を聖剣はたやすく貫き、命を刈り取る。
「3人だ」
クリフは腰からもう一本の剣を抜き放つ。
それは皇帝から賜った帝国の宝剣『レイヴンフェザー』。漆黒の長剣を振るい、迫る賊を問答無用で切り伏せるクリフ。
12人いた賊はものの数分で壊滅したのだった。
「これで、村に平和が訪れるだろう」
クリフたちは賊を壊滅させたことを伝えると、村のものにカーヴァ砦へ向かい被害にあったことを伝えるように指示を出す。
騎士の鑑ともいうべき颯爽とした姿を見てゴーツェルは一抹の不安を抱く。
「まさか、訪れる村すべてでこれをやるのか?」
まさかと思うゴーツェルだが、その不安はまさしく的中するのであった。
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