旅の同行者たち
クリフは早く故郷へと帰ろうと思っているのになかなか出発できないでいた。
荷造りは従者のオリヴィエが済ませているが、軍務や面会の申し込みが絶えない。
実はこれはクリフを故郷へと帰らせるのを遅らせようとするシーザリウスとランバースの陰謀であった。
クリフが貴族であるのも初耳であれば、領地を継ぐかもしれないのも初耳という二人。しかし、対応は早く、クリフの領地帰還を遅らせることで、領主の座の争いに一歩出遅れさせようと企てたのだった。
クリフの方も真っ当で誠実な人間であるから(真っ当で誠実な人間が自分の身分を明かし忘れることなどあるのか疑問だが)、来る客は拒まず応じる。
今日の客は聖神教の司教であった。『勇者事件』の際にオズワルド帝国に極めて大きな借りを作ってしまった、聖神教は今日も今日とて帝国の高官に対して賄賂を持ってきていた。
皇帝一族とも親しいクリフと良い関係を築き、色々と取り直してもらおうという思いでやってきた司教は一振りの見事な剣を持ってきていた。
「聖神の加護を受けた特別な剣になります。どうかコンフォード卿にお使いいただきたく、この場に持ってまいりました」
青い鞘には金の装飾。クリフは鞘を掴むと音もなく剣を抜き放った。
「人の手で作った聖剣か」
若干細身の刀身、鍔には金で繊細な彫刻が施されている。
名剣と言っていい一品だと判断したクリフは迷わず受け取ることにした。
「卿がよくしてくれたことはシーザリウス殿下にもよく伝えておこう。ただ、私も近く旅に出る身でな。あまり、期待に添うのは難しいかもしれぬな」
目下のものへの言葉づかいで剣を納めながら言うクリフに対し、司教はというと、
「でしたら、私の弟子を旅にお連れいただけませんか。此度の戦の折も従軍司祭として、微力ながらも帝国のために力をふるった者です」
わざわざ旅に付き添わせるメリットが見えずクリフに困惑が生じる。
そこまでして恩を売りたいかとも思うが、断る理由もないのでクリフは同行を承諾することにしたのだった。
──これ以上は無理だ。クリフは積み重なっていく軍務を他の将軍に回し、面会を謝絶した。最後に面会を従っていたのは帝国魔術院の教官だったが、縋りついてくる相手を振りほどき、クリフは旅に出ることを決めるのだった。帝国魔術院も『勇者事件』の折にとんでもない不祥事を起こし、帝国に借りがあるのだが、それに構ってやるつもりはもうクリフにはない。
「俺は故郷に帰るぞ」
そう言ってクリフは愛馬のユニコーンに跨る。
すると、クリフの周りを固めるかのように数名の騎兵が後をついていく。
「なんの用だ」
クリフが訊ねたのは弓兵隊長のゴーツェル。
髭に覆われた顔に笑顔を浮かべながら、ゴーツェルは問いに答える。
「大将ほどのお方を一人で帰すわけにはいかないでしょうが。大将は国の要人。頼りないかもしれませんが護衛役を務めさせていただきやす」
同調するように双子の槍騎兵クロイスとアロイスが頷き、斥候部隊長のアーヴィンも頷く。
「遅れて申し訳ありません、従軍司祭のシドと申します」
更に馬に乗った司祭も現れ人数がさらに増えた。
クリフは仕方ないと思い前を向くと、戦場跡には相応しくない華美な恰好をした男が馬に乗って待っていた。
「シャルル。お前もか」
「閣下あるところに小生もあり、従軍吟遊詩人のシャルル・ロスコーはどこまでも御供も致しますとも」
長い付き合いの吟遊詩人だ。断る理由はないが──
「オリヴィエ、物資は充分か?」
クリフは馬車の御者席に座るオリヴィエに尋ねた。
「こんなこともあろうかと思って、食料は充分以上に積んでいます」
ならばよし。とクリフは跨るユニコーンの足を進めさせる。
今から故郷への帰還の旅が始まる。
メンバーは
将軍クリフ・コンフォード
従者オリヴィエ・レイヤード
弓兵ゴーツェル
槍兵クロイス
槍兵アロイス
斥候アーヴィン
司祭シド
詩人シャルル・ロスコー
この8人でクリフは旅立つのだった。
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