剣聖躍動
コンフォード男爵領のある廃村にて秘密の作戦会議が行われていた。
彼らは廃村の教会に陣取り、リーダー役が高らかに作戦目標を説明していた。
「今、コンフォード男爵領には様々な貴族が集まっている。それどころか、皇帝すらいるという。この機会を逃すわけにはいかない。我らは打って出るぞ!」
リーダー格は魔族だろう。
人間の体に竜の尾と角を持つ竜人族だ。
それ以外はドワーフやエルフ、草食系の獣人や肉食系の亜人などまちまちの統一感のないグループであった。それもそのはず、彼らは同じ組織に属していた者たちではなく、単なる脱走奴隷であり、それを竜人族のリーダーがまとめているに過ぎない。
「我らの未来のため、邪悪なる皇帝を討つぞ!」
リーダー格の言葉に勢いづけられ、雄たけびがあがる。
だが、そんな中、淡々とした声が廃村の教会に響き渡る。
「それは無理だ」
激しさを感じさせない口調と共に廃村の教会に現れたのは、剣聖将軍クリフ・コンフォードもといクリフ・コールドレイク。
「お前たちはここで死ぬ。弁明は聞かない。ただ死ね」
「っ──何をしている相手は一人だ。剣聖将軍であろうが、多勢に無勢では手も足も出せん!」
「本気で言っているならお笑い草だ」
肉食系の亜人──狼の亜人だろう。
リーダーの声に従って真っ先にクリフに襲い掛かるが、クリフはその突進を一歩横にずれて躱し、すれ違いざまに抜く手も見せずに剣で亜人の首を刎ねた。
血を見た瞬間に、草食系の亜人──牛の亜人と鹿の亜人が恐怖で背を向ける。クリフはそこに隙を見出し、獣のような勢いで飛び掛かった、途中、エルフの矢がクリフを狙って飛んできたので、それを弾きながら、牛の亜人の背中に剣を突き立てる。
「わ、私たちはなにもしてないのに」
「悪いが、皇帝陛下を殺す企てをした時点でそいつらは皆殺しと決まっている」
鹿の亜人が尻餅をついて後ずさりをする。腰が抜けて立てないのだろう。
クリフは無慈悲に剣を振り下ろすが、ドワーフが斧でクリフの剣を止める。
「力比べならば──」
と言った瞬間にクリフはふっと力を抜いて後ろに下がり、ドワーフの体勢を崩す。エルフの矢が邪魔しようと飛んでくるが、それを腰に差したもう一本の剣を抜いて弾き飛ばし、もう片方の手に持った剣でドワーフの首を刎ね飛ばす。
「さて、弓の腕はまぁまぁだが──」
クリフは両手に剣を持った状態でエルフに迫る。エルフは懸命に矢を射かけるが、全て剣で弾き飛ばされ、間合いを詰められる。そして、クリフの剣が届く瞬間──教会の天井から虎の獣人が奇襲を仕掛けてきた。
「獣臭いだよ貴様らは」
クリフは奇襲を仕掛けてきた虎の獣人を何事もなかったかのように斬り捨て、エルフも流れ作業のように斬り捨てる。
「さて、残りは貴様だ」
「っこの、悪魔め!」
クリフは剣を持ったまま肩を竦める。
「悪魔族は貴様らの軍にもいただろう。俺と一緒にしないでくれ」
クリフは竜人族に斬りかかるが、竜人族は尻尾で床を強く打ち、その反動で遠くに逃げる。
「逃げるのが上手だな。それは勇者にでも教わったのか?」
「貴様!」
竜人族が両手に魔力を集中させ、突風と雷撃の魔法を放ってくる。
だが、だからどうしたという表情でクリフは両手の剣を振るい、魔法をかき消す。
唖然とした表情を浮かべる、竜人族の懐に飛び込み剣を閃かせるクリフ。しかし、その一撃は浅く、致命傷には及ばなかった。
「力が足りんか、間合いが甘いか」
胸元からだらだらと血を流しながら、竜人族は叫ぶ。
「調子に乗るな大罪人。勇者様の腕を斬り落とした悪党が──」
最後まで口にすることが出来ず、竜人族の腕が宙を舞う。
「奴の腕を斬った俺がなんだって? 大罪人? ふざけるなよ。奴のせいで、帝国は死なんで良い奴が何人も死んだ。罪人は奴の方だ」
「いいや、違う。勇者様は我々を解放する聖戦のために身を捧げた偉大な御方だ!」
もう一本の腕も宙を舞う。
「私を痛めつけたところで何も変わらん。勇者様は偉大なる竜の女王の元で傷を癒し、再び貴様らに聖戦を挑むだろう」
「相も変わらず女を騙すのが上手い奴だ。勇者──いや、あのガキは」
侮蔑の表情を隠さず、クリフは竜人族の胸と首に剣を突き立てた。
「戦いが始まるのなら、それはそれで構わない。こんどこそ、勇者も貴様ら魔族も皆殺しにするだけだからな」
吐き捨てるように言うとクリフは剣を抜き、血を拭って鞘に納める。
これで戦いはお終い。皇帝を狙う企みは剣聖将軍によって一蹴されたのだった。




