怪しい動き
「あーしんどいのう。クリフ」
皇帝陛下に名前を呼ばれたクリフはすぐに皇帝の肩を揉む。
今、皇帝はサルトゥーラの町にあるクリフの家にアレクサンダーと一緒にやってきていた。
「まぁ、これで余計なことを言う貴族もいなくなっただろう。満足か?」
「満足かと言われましても、私としては何が何だかわからないまま物事が進んでいるだけですので」
クリフが丁寧に肩を揉みながら答えると皇帝は大きくため息を吐いた。
「おい、アレク。もう少しこやつに政治など仕込めんのか? いくら何でも心配で仕方がないぞ」
「親父殿。俺も良く分かったが人には向き不向きというものがあるのだ」
色々と自分に言いたいことがあるのが分かったが、ここでその話題を続けても碌なことにはならないとクリフは黙ることにした。
「とにかく、クリフはコールドレイク家の養子になった。それでよいな。文句は聞かん。不満も聞かんぞ」
「まぁ、特に不満もありませんが」
「かぁーっ、これだからこやつは駄目なんだ。もっとギラついた欲でも見せんかい。今ここでコールドレイク家を乗っ取るにはどうすれば良いか、余やアレクに効くなどせんかい」
それこそ大問題になるだろうとクリフは思った。
だいぶ無茶を言うが、昔からこういう人だと思えば何も気にならない。
「それで、どうすんだよ、クリフは? まだ、ここに残るのか?」
アレクが椅子に座ったままリラックスした様子で尋ねる。
「いや、すぐに前線に帰る」
「なんでまた」
「そもそも見舞いだけが目的だったんだ。それを余計な連中が引っ掻き回したから、ここまで伸びたのであって、当初の予定であれば俺はもうカーヴァ城砦に戻っている」
「潤いの無い人生だ」
嘆くようにいう皇帝に対しクリフは一言。
「貴方がたのせいでこうなったんですがね」
おっと、一本取られたと皇帝とアレクはへらへらと笑う。
気心の知れた戦友たちの会話であった。
「──失礼します」
だが、その和やかな雰囲気を断ち切るように張り詰めた声が家の外から聞こえてきた。
「俺が出ましょう」
クリフはそう言って扉を開けると、そこには以前、自分を裏切った斥候のアーヴィンがいた。過去のことに対してクリフはもう遺恨がない。なので、単刀直入に聞く。
「何があった?」
アーヴィンは室内の様子を確かめると、家の中に入れてくれるようにクリフに頼む。断る理由もないので、クリフは家の中に入れるが──
「おう、裏切り者」
「なんだ裏切り者なのか、では首を落とさねばな」
きつい言葉を吐く二人を無視しろと合図し、クリフはアーヴィンの報告を待つ。
「皇帝陛下がこの地を訪れたことが同盟軍に知られています」
ふむ、と皇帝とアレクが軍人の顔になる。
「敵は国内に侵入していた魔族と亜人の脱走奴隷の集団です」
「数は?」
「十程度」
ならば、複雑な話をすることもない。クリフは腰に二本の剣を帯び、家を出る準備をする。
「なんだ、貴様だけで平気か?」
「十匹程度、物の数ではありません。それに、近衛騎士団を動かすとどうしても派手になりますからね。俺が内々に処理をしておいて、二人は何事もなく帝都にお帰りください。その方が人々も安心します」
──というのは建前。ぶっちゃけた話、クリフは敵を斬ってストレスを解消したかっただけである。父を見舞いに来ただけの話がここまでこじれた鬱憤。それを払させてもらおうとクリフは意気込むのだった。




