剣聖談義
サルトゥーラの町のそばにある丘に建てられた本陣は日々訪れる貴族の増加に合わせて、砦のような有様となり、段々と町の方へと侵食していった。
そして今日も今日とて、貴族たちは自分がクリフの実の父であるという証明のために議論を交わし続けていた。
そして、することもない警護の兵や、帝国近衛兵は暇なのでひたすら訓練をしていた。
ちなみにクリフも色々と上手くケリがつきそうなので、訓練に参加し、兵を鍛えていた。
「足が遅い! 完全装備で二時間は走り続けられるようでなければ、戦場では戦えんぞ!」
クリフはとにかく兵を走らせる。半端な戦闘技術を学んだところで実戦では役に立たない。鎧でガチガチに固めた騎士が全速力で突進し体ごとぶつかりながら、剣や槍などの武器で相手を刺し貫く方がよほど強力あることをクリフは身をもって知っていた。
「敵も味方も雑兵だらけだ。ぶつかって押し倒せば殺せる奴らばかり。剣術や何かを考えるのは、腕の立つ奴と戦う時だけにしろ。だが、そんな相手は滅多にいない! つまり無駄だ!」
無駄は捨てろ。合理的に殺せ。
クリフは自分は騎士道を重んじるが、配下の兵士にはそれを求めない。
「数はこちらの方が多い! 数の利を生かせ、訓練の成果を生かせ。どんなに亜人共が強かろうが、数人で囲めば押し倒せる。押し倒したら、死ぬまで剣を突き立てればいい!」
クリフは大声を張り上げながら訓練を指揮していた。
そこへマリウスがやってくる。
「やぁ、義兄殿」
「それはやめてくれ、クリフ殿。……ずいぶんと訓練に熱が入っているようだが、それほど敵は強大ななのかね」
マリウスは自身が住む帝国北西部の惨状を思い出し、顔をゆがめる。
対してクリフはあっけらかんとした様子で──
「いいえ、敵は雑軍です。我らの相手になどなりません」
堂々とした答えにキョトンとするマリウス。
クリフはそれを気にせず言葉を続ける。
「マリウス殿は御存じないようですが。実はオズワルド帝国軍は最強なのですよ」
「さ、最強ですか」
「えぇ、最強です。広大な領土は豊かな土地を持ち余りある食糧を軍へともたらす。飢えない兵の精強さを卿は御存じか? それに鉄も豊富に取れ、高度に工業化された武器製造工程は統一された高品質な装備を兵士へ提供する。それに加え、帝国は内乱もある土地柄、戦を知る兵も多くいます。あぁ、あと給料が安定しているのも良い点ですな。金払いの悪い軍、メシの少ない軍は弱い。その点、我が軍は金とメシに糸目はつけません。それが士気につながる。士気の高さは軍の強さを飛躍的に挙げてくれるのです」
なるほどとマリウスは思うが、であれば敵はどうなのかと、クリフに尋ねる。
「亜人・魔族同盟軍はその点、駄目ですな。彼らは統一された意志で動く軍隊ではない。いくら亜人の身体能力が高かろうと、彼らの大半は素肌か着の身着のままで戦場に出ます。それは何故か──防具が用意できないからです。彼らにもエルフやドワーフなどの一流の技術を持つ者たちはいますが、彼らが日にどれだけの装備を作れるのか。ドワーフの名工? 笑わせる、矢も槍も通さぬ鎧を作る? さて、それを何日で作る? 彼らは数週間かけて、そんな立派な鎧を作り、一人の兵に着せて悦に入るのです。我らは一日で100を超える数の鎧を用意できるというのにね。また、人間だけで構成された軍隊と異なり、人種ごとの差が大きすぎる。ドワーフの兵と獣の亜人の兵を同時に走らせてみると見事に戦列が崩れ、獣の亜人もドワーフも孤立し、各個撃破の対象です。後はメシも酷い。エルフは肉を食わない。だが、肉食獣系の亜人は肉しか食わない。ドワーフは酒が無ければ仕事ができない。兵站において考慮すべき事項が多すぎる。」
「つまり、同盟軍は軍として機能はしていないと?」
「えぇ、今回は平原での大合戦などがなかったから、その弱点は露呈しませんでしたが、平地での戦があれば、壊滅するでしょうな奴らは」
「しかし、亜人や魔族の中には、一人で何十もの兵を倒す怪物たちが……」
マリウスが言葉を終えるより先に、クリフは自分の腰にある鞘を叩き、音を鳴らす。
「そのために私のような人間がいるのです。そういう怪物は私のような者たちが速やかに殺す。それで、終わりです」
自身に満ち溢れたクリフの言葉にマリウスは安どした表情になる。
だが、そんなマリウスに聞こえないようにクリフは呟くのだった──
「大集団になればなるほど奴らの軍は綻びを見せる。では、少人数ならばどうか」
クリフは敵軍の側に立って考え、彼らがどう動くのが彼らの能力を発揮しやすいか考えるのだった。




