起死回生
「落ち着け、落ち着くんだ、クリフ! 俺を斬ってもどうにもならん!」
「うるさいぞ。余計な面倒ばかり増やしやがって、その口、斬り飛ばせば二度と面倒なことなど口走らんだろうよ」
皇家からもらった宝剣を片手に今にも襲いかかろうとしているクリフ。ヒルドレイク卿とコールドレイク卿がクリフを押さえつけて何とか止めている。
「まぁまぁ、落ち着いてくださいコンフォード卿。別に私は悪い話をしに来たわけではありません」
みんなそう言って、面倒ごとに巻き込んでくるんだがとクリフは言いたかったが、我慢して黙ることにした。なにせ相手は侯爵家。オズワルド帝国では公爵が爵位の最上位となっているが、それは名目上の話。公爵はの地位は皇子、皇女がその地位を抜けるときに与えられるもので、皇族のスペアとして用意されているだけなので、実際の力は強くない。対して侯爵は実際に広範囲の土地を治める貴族の頂点ともいうべきものたちで帝国における不動の実力者たちだ。
「……失礼しました。コールドレイク卿」
「いえ、誰であっても今のような状況では混乱することもあるでしょう」
マリウス・コールドレイクはクリフよりも僅かに年上程度の落ち着いた貴族だった。なるほど、父親争いに加わりに来たわけではないと、クリフは判断する。
「──はっきり言うが、おまえの父親に関してはもう収拾がつかん」
アレクサンダーは今の状況に完全に匙を投げていた。
「もしも、おまえに今更、父上などと呼びたい相手がいれば、話は別だがな」
「いるわけあるか。この年まで天涯孤独の如く生きてきて今更、どこの誰とも試練輩を父上などと呼べるか」
「だろう? お前が父上と呼べばそいつが父上ということで終わりだったんだが、クリフ自身がそれを嫌がっているのだから、別の手段を使うことにした」
「別の手段?」
クリフが訊ねるとアレクサンダーはマリウスに視線を送る。
視線を送られたマリウスは軽く手を上げ。
「やぁ、義弟よ」
クリフは腕を組んで首を傾げた。
「どういうことだ?」
「簡単な話だ。クリフ、おまえはコールドレイク家の養子になれ」
更にクリフは首をかしげる。
「それは、今やっている俺の父親争いと何か違うのか?」
「違う。全く違う」
「えーと、殿下? 私の方から説明しても、よろしいですか?」
アレクサンダーはそっちの方が面倒がないと判断し頷いた。
「まず、我がコールドレイク家は帝国の北西部にあります」
「北西部というとカーヴァ城塞があるな」
自分が手紙を受け取った、この旅のスタート地点だ。
「そうですコンフォード卿はカーヴァ城砦の奪還のみならず、亜人・魔族同盟軍によって侵略を受けていた帝国北西部を解放し、同盟軍の撃退を果たしました」
自分のやったことは帝国の騎士として当然のことであるので、クリフは何も思わないが、世間の人々は色々と思う所があったらしいとクリフは気付く。
「その功績を称え、我がコールドレイク家はコンフォード卿に何か褒美を与えようと思いましたが、稀代の英雄に与えられるものなど何も思いつきません──」
打ち合わせをしていたかのように一旦言葉を区切ると、マリウスはアレクサンダーを見る。そしてアレクサンダーはニヤリと笑うと──
「では、こうしたらよいと皇帝陛下は仰られた。『クリフ・コンフォードは天涯孤独の身の上。天下の大英雄がそれではあまりにも不憫。どうかコールドレイク家が後ろ盾になってはやれないものか』そうして、コールドレイク家はクリフ・コンフォードを養子にすることに決めましたとさ」
「ちょっと待て」
何かがおかしいというか、間違いなくおかしいとクリフは思う。
そんな話、今日にいたるまで何もなかったのに、まるでずっと前から決定していたような話だからだ。
「疑問に思うのは当然です。だって、これはついこの間、決まりましたから」
もっとも、クリフをどこかの家の養子にするというのは皇帝の中では決定事項であり、娘のアメリアとの結婚の件もあり、この話を決定事項にするのになんの躊躇いもなかった。もっとも、相当に無茶をしたのは事実であった。
なにせ、素性も定かではない者を侯爵家の養子にしたのだから、皇帝は無理を押し通したのである。
「いや、だが、急に養子と言われてもだな」
「あまり深く考えなくてよいのですよ、コンフォード卿。こういう養子関係などはただの後見人制度みたいなもので、後ろ盾になったぞという証明のためだけのものです。なので、我が父もわざわざコンフォード卿に会いには来ませんし、私も口頭と文書を届けに来ただけで、家族として何かを求めているわけでもないので」
「コールドレイク家はいいぞぉ。皇族との関係も深いし、宮廷とのつながりもある。寝かせている土地もあるから、領地が欲しいと言えばすぐ用意してくれる。戦争は弱いが、貴族としての実力はあるから、面倒ごとが起きた時は頼りにできるし、逆に力があるから、おまえに余計な頼みごとをしてこない」
それはまぁ助かるが……とクリフは思うが、いくら何でもこれだけ貴族たちが争っている中で、この話をどう切り出すのか。
「色々と心配をしているが、クリフ。お前は何も気にすることは無い。我らが皇帝陛下は慈悲深いお方だからな。自分の従者を何年も務め家族ぐるみの付き合いのあるお前を見捨てると思うか?」
アレクサンダーは不敵に笑うのであった。




