本気な人々
「なんだかとんでもないことになったな」
「そうだな」
クリフとアレクは共に茶を飲みながら、状況の推移を見守っていた。というか、見守ることしかできないでいた。
クリフの実父であると言うものの数は日増しに増え、その人々がコンフォード領を訪れている。
「とりあえず、絶対に違うというのはカリムから送られてきた報告書で分かるがな」
アレクの手元には過去にテレジア・イスマイルと関係を持ち、クリフの出産の時期に強く関連性がある者だけが書かれた報告書があった。
クリフは目を通していない。実の母が誰と寝たのかなど知りたくもなかったからだ。
「あの男爵と伯爵は違う」
クリフが何人かの貴族を指差す。
どうやら、自分の母と関係を持った相手ではないと分かりホッとするクリフ。
「……しかし、なぜ、みんな俺を実の子供だと言い張るのだ?」
クリフには理解ができなかった。
実は子供がいたなど醜聞にしかならないだろうし、そんなリスクを負ってまで自分を我が子だなどと公言する貴族たちの考えがクリフには全く分からなかった。
「そりゃあ、アレだよ。手駒としては最高だし」
「そうか?」
「今をときめく大英雄。軍に対して大きな発言力を持っている。皇族とも親しく、姫が夫にしようと狙っている。ついでに教会からの信頼も厚く、聖女もぞっこん。良い要素を適当に挙げてみたが優良物件ではないか?」
「大英雄というのには疑問があるし、姫と聖女に惚れられているというのにも覚えがないが。まぁ、世間からすると、俺は醜聞のリスクを負ってでも持っておきたい駒なわけだ」
クリフが実の子ということになれば、クリフを通して軍への影響力を強められるし、皇族との関係も深められる。それに教会とだって深い関係を築けるだろう。なるほど、思ったよりも自分は影響力があるのだなとクリフは思った。
「あと、実の子としても基本は損が無いからな。ここら辺にいる貴族連中はみんな、嫡子がいるし、きちんと領地を継ぐ子は準備ができている。本来だったら、おまえを養うのに金がかかるが、おまえ自分で稼いでるだろ?」
「そりゃまぁ、軍の俸給があるし」
「仕事とか用意してやる必要ないだろ?」
「そりゃまぁ、将軍だしな」
「というわけで、実の子ですと言ったら後は別にお前のことは放っておいても問題ないんだよ。奴らにとって重要なのはクリフの父であるという肩書とそこから得られる影響力なんだからな」
なるほどとクリフが頷いた。
クリフは自分が軍事は分かるが政治はそこまで分からないことに気づいたのだった。
「なんだか誰の子供にもなりたくなくなってきたな」
「でも、誰かとは血がつながってる可能性が高いぜ? 例えば宰相」
宰相とも血がつながっている可能性が高いのかとクリフは驚く?
「宰相は結構、本気だな。まぁ、おまえが実の子になれば、自分があまり影響力を効かせられない軍部におまえを通して影響力を与えることが出来るから欲しいだろ」
つづけて、浅黒い肌の男をアレクサンダーは指差した。
「シドニス侯。あの人も本気寄りだな。シドニス領は帝国南部にあって海洋貿易が盛んで経済的には豊かだが、中央に政治的な地盤を持たない。だから、おまえを実の子として、皇族との関係を深めたい」
クリフの顔がウンザリとしたものとなる。
「愛をもって俺を息子として迎えてくれる人はいないのか」
「28歳の男をいまさら息子として迎えるのに打算なしは無理があるだろ」
それでも親子の情くらいは感じたいものだとクリフは思うのだった。




