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穏やかに過ごす

 クリフのコンフォード邸滞在は無期限に延長されていた。すでに一週間以上滞在している。別に慌てて帰る理由もないなぁというのと、居心地の良さが原因だった。

 もっとも、それだけではなく、ルドルフに対して色々と教えないといけないことがあったからだ。


「兄上、税が重すぎます」


「えぇ、でも父上の時と同じだよ?」


「父上がおかしかったんです。あの、税の重さでは民は暮らしていけませんよ」


 そう言ってクリフは税率を下げさせた。

 言えば素直に聞くので助かる相手であった。


「衛兵が少なすぎます」


「衛兵の給料を父上は削りたがっていたけど」


「それは父上が衛兵の給料を自分の懐に入れたかったからです。それと衛兵の増員。それは急務ですよ」


 治安維持のためには衛兵が必要だ。武装した兵士が日常的に歩いているだけで、野盗や山賊の活動は目に見えて落ちる。


「領主って大変だなぁ」


「まだ楽なものですよ、帝都周辺の小領主など」


 クリフは内乱を起こした地域の占領地の総督をやったことがあるから、この地の統治の楽さが分かる。


「あぁ、もうこんな時間だ。僕は畑仕事にいかなければ」


「畑仕事?」


 クリフが疑問を抱くより先にルドルフは農具をもって外に出る。そして屋敷の裏手にあった畑に鋤をいれる。


「自分で畑を耕しているのですか」


「そりゃあそうだよ。自分の家の畑なんだし」


 あぁ、なるほど。ちょっとマシな地主と同じレベルかとクリフは納得する。

 それじゃあ、領地経営は厳しいよなぁとルドルフの今後に心配を抱くのだった。

 帝都から代官を派遣してもらうか? 宮廷貴族の中には代官をやりたくて仕方ない奴がいることをクリフは知っている。


「……私の甥のことなんですが」


 まだ、クリフは甥っ子の名前を憶えていなかった。


「ダニエルのことかい?」


 畑仕事をしながら、ルドルフはクリフと会話する。


「将来はどうするつもりですか? 従士になるのであれば、信頼のできるものに口利きをしますが」


「従士って騎士の見習いでしょ? うちの子には向いていないと思うんだけどなぁ」


 向いている向いていないの話ではないのだとクリフは言いたかった。


「あのですね、兄上。ダニエルは青い血を1/4しか持っていないのです。これは貴族社会において致命的です。これでは家督相続すら順調には進みません。ですが、信頼のできる高位貴族の従士となった経験があれば、口利きをしてもらって、なんとか無理を通せるかもしれません」


「すまない。ちょっと僕には難しい話だ」


 クリフは溜息を吐いた。

 この人に領主は無理だ。そんな確信を抱かせる溜め息だった。

 じゃあ、どうする自分が家督を継ぐのか? 父上は拒否するだろうが、兄上は何も言わないだろうとクリフは確信があった。だが、自分がこの地を治めている姿も想像ができないクリフ。


「代官を呼んで、その人に最初から兄上を鍛えてもらうのが一番かもなぁ」


 ぼんやりとそんなことを考えていたクリフ。

 その時だった、屋敷の外から馬のいななきが聞こえ、数頭の馬が屋敷の前に止まる気配がしたのは。

 さて、何事かと思い、玄関に向かおうとしたクリフだったが、吟遊詩人のシャルルが必死の形相で、屋敷の中を駆け抜け、クリフのもとにやってきた。


「まずいことになった、クリフ! すごいまずいことだ!」


 いつも飄々としている彼らしくない必死さだった。


「どこでもいい、とにかく逃げろ。どこか遠くに、急いで!」


 そんな急にと思った時だった。

 絢爛豪華な衣装を身に纏った貴族がクリフの前に現れたのは。

 その人物はシャルル──シャルル・ロスコーの父親。ロスコー伯爵だった。


「ようやく会えた、我が息子よ!」


「は?」


 ロスコー伯爵はクリフの困惑を一顧だにせず、クリフを抱きしめ愛おしむ。


「もう二度と離さんぞ。我が愛する息子よ!」


 クリフはどういうことかシャルルの方を見て説明を求めるが、シャルルは頭を抱えることしかできないようだった。



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