彼女、おぼえていますか?
アレクサンダーからの便りは真っ先にオズワルド帝国第二皇子カリム・オズワルドのもとへと届けられた。
その内容はクリフ・コンフォードの父親に対するもしもについてである。
帝国における情報部を統括する任を与えられ、内政面に強い力を発揮するカリムは自分にそのもしもを調べろと兄が言っていることを理解した。
カリムはアレクサンダーと同じ妾腹の生まれであるので皇位継承権は持たない。だからこそ、自分の仕事をこのうえなく大切に思っていた。
「なるほど、テレジア・イスマイルとまぐわった男を探せということか。クリフの年齢は27歳。生まれるまでに十か月と十日となると28年前にテレジアと関係をもった男を探せばいいわけか」
カリムは見つけるべき相手の見当をつけつつ、ふと思う。
果たして、本当の父親を捜す必要などあるのかと。
「クリフ・コンフォードは稀代の英雄。実の父親が見つかったとしても、彼の力を生かすことのできない立場のものでは勿体ないな」
できれば、クリフの父親は地位と権力を持っている方がいい。そうすればクリフはより自由に動くことができ、それによって帝国は発展するだろう。
カリムは真実よりも帝国の繁栄を優先することにしたのだった。
そして、そんなカリムが真っ先に訪れたのはというと──
「失礼します、宰相殿。」
「おや、カリム殿。どうなされた」
宰相の今の年齢は58歳。充分ありえるだろう。さて、率直に行ってみようとカリムは宰相に言う。
「宰相殿は28年前、テレジア・イスマイルという女性と関係を持っていたことはありますか?」
テレジアという名を聞き、宰相の表情に過去を思い返す色が浮かぶ。カリムはそれを見逃さない。
宰相が懐かしそうに茶を口に含んだ瞬間に、カリムは言う。
「もしかすると、クリフ・コンフォードは宰相殿の御子息かもしれません」
次の瞬間、宰相は茶を口から噴きだした。
「ま、待て。いや、確かに彼女とは……だが、だがな」
「ただの可能性の話ですよ。そう焦らずに……」
そう言って、カリムは部屋を後にする。
残された宰相は呆然とした表情を浮かべるが、それも最初だけ、冷静さを取り戻すと顔にはうっすらと笑みが浮かんでいた。
「そうか、クリフ・コンフォード。いや、クリフが私の息子か。まぁ、それならば、今までの活躍も納得できなくはないか。いや、まさか、クリフがなぁ……」
英雄の父。それは宰相にとっては抗いがたい魅力であったのだろう。自分の血の影響か、クリフは並々ならぬ活躍を果たしたのだ。
彼の中では、クリフは既に自分の息子となっていたのだった。
「さて、次は軍務卿、外務卿、公爵家に侯爵家、伯爵家や辺境伯の所も回ろうか」
誰が本当の父親と言い出すか。
そして、父親としてどれほどクリフのために尽くし、英雄を盛り立て、帝国に更なる繁栄をもたらすのか。
どこまっていってもカリムは帝国の繁栄至上主義であった。




