そして全てに燃え移る
「うーん、とりあえず、ご飯を食べよう」
コンフォード男爵ヘンドリクセンはとりあえず拘束となった。
その上で、ルドルフが放ったのが、上の一言だ。
「父上も病み上がりで混乱していたんだろう。少し休めば、ちゃんと話もできるよ。とりあえず、今日はクリフの歓迎会ってことで、みんなでご飯を食べよう。えーと、貴方は?」
「軍師アレクだ」
「じゃあ、アレクさんもご一緒に」
その流れで、クリフとアレクサンダーはルドルフとその家族と一緒に食事をすることになった。
ひたすら気まずそうにするルドルフの母。夫と同じくのんびりとした感じのルドルフの妻。ルドルフの子は英雄であるクリフに戦いの話をせがんでいる。
「なぁ、こんなこというのアレなんだが、おまえの兄貴ヤバくない?」
「昔はそう思わなかった。改めて会うと、相当ヤバい」
屋敷の奥では実の父のヘンドリクセンが両手足をクロスボウの矢で貫かれてのたうち回っているのにルドルフは平気な顔でいるのだ。
「このね、魚のパイ包みは僕の好物なんだ。みなさんも一切れどうぞ」
明らかに自分の分だけ一切れのサイズが大きいパイ包みを食べながら、ふと何かに気づいたようにルドルフは言う。
「そういえば、父上が売女って叫んでたけど、なんだったんだろうね?」
コンフォード領に娼館は無いし、街娼もいない。ルドルフが知る筈もない言葉だった。
「きっと、何かを売っている人のことよ」
ルドルフの妻が確信を抱いた表情で言う。
「なるほど、商売をしている女の人のことか。でも、そうなるとクリフの母上は違うよね。だって、貴族だし。やっぱり、父上は病み上がりで何か調子をおかしくしていたのかも」
一連の会話の中、クリフは自分の母親を売女扱いされて怒っていた。
ルドルフの子供たちは何もわかっていない。そんな中で顔色を変える者が二人。
アレクサンダーはクリフとルドルフの顔を見比べ、そしてヘンドリクセンの顔を思い出す。そして、三人の顔が頭の中に並んだ瞬間、アレクサンダーは自身の血の気がサーっと引いていくのを感じ、そして自分と同じ顔色をしているルドルフの母を見る。
まさか、いやまさか──だが、そうであるならば、男爵がクリフを捨てた理由にも納得がいく。
「すまん、ちょっと用を思い出した。先に出る」
アレクサンダーは顔色の悪いまま、コンフォード男爵家を抜け出す。
そして、すぐさま特務隊の者を呼び出すと、近衛騎士団の本陣に連絡を取るのだった。
「ヤバい案件だ! クリフの母親! コイツを今すぐ調べろ! 家族関係、交友関係、男女関係、とにかく全てだ!」
ヤバい、ヤバい、ヤバいぞこれ。
アレクサンダーは呟きながら、コンフォード家の屋敷の前をうろうろするが、ふと気づく。
「あ、別に俺はヤバくねぇじゃん。ヤバいのはおっさん連中だわ」
そう気づき、アレクサンダーは冷静に事態に関わることにしようと思うのだった。




