クリフ・コンフォード、実家に帰る
「クリフ・コンフォード、ただいま戻りました!」
蹴破る勢いで実家の屋敷のドアを開けたクリフ。
その声は万の軍勢に轟かせるために鍛えたものであり、一瞬にして屋敷中にクリフの帰還は伝わった。
「あわわわ」
「うあわああ」
「ひええええ」
慌てふためくメイドと使用人。それはそうだ。
コンフォード男爵家を継ぐべき筋目として正しいのはクリフであり、使用人たちはそんなクリフを気にせずルドルフに仕えているのだから、どんな仕置きが下るか分かったものではない。
「ああ、おかえり、クリフ」
「ただいま戻りました。兄上」
屋敷の玄関で二人は顔を合わせる。
この状況に特に何も思っていないのはクリフとルドルフの兄弟だけだった。
クリフは父の見舞いに来ただけでそれ以上の感情は持ち合わせていない。そして、ルドルフの方はというと、人知を超えた鈍感さが、状況を全く理解させず、ただ弟を迎える兄の立場を取らせていた。
「さっそく父上の見舞いしたいのですが」
「あぁ、そうだよね。その件で帰ってきたんだもんね。ちょっと待っててね」
そういうとルドルフは小走りで屋敷の奥に向かった。
その姿にクリフはちょっとイラっとする、男爵家の当主代行たるものいかなる時も悠然とせねばと、なんとなく自分の中にある貴族観に当てはめてルドルフに不満を抱いたのだった。
「魔術師の先生たちも大丈夫だってさ。峠は越えて健康体。もう、何も問題ないって」
「魔術師ですか?」
「クリフが手配してくれたんだろ? さすがだなぁ。僕には魔術師に知り合いはいないからね」
全く状況が分からないが、とにかく危機を脱したならよしとしよう。そうクリフは思うことにした。ちなみに治療に訪れていた魔術師たちは帝国魔術院の者たちで、クリフに恩を売るためにクリフの父の治療をしていたのだが、恩を売られたことにクリフが気付いていないので目論見は全くの無駄に終わったのだった。
「失礼します、父上」
クリフは父の病室に入る。
すると、いきなり枕が飛んできたので、剣を抜き放ち、斬り飛ばす。
枕に詰められた羽毛が舞い散る中、クリフの父ヘンドリクセン・コンフォード男爵はクリフを睨み付けながら言うのだった。
「我が家を奪いに来たな、疫病神め」
捨てた息子が戻ってきた。
それも華々しい活躍と経歴、立場を携えて。
「この家は貴様には渡さん。あの売女の息子などには!」
ヘンドリクセンは枕元に隠していた短剣を手に取ると、病人とは思えない迫力でクリフに襲い掛かった。
「父上、クリフ、お茶にしよう──って、うわわわああああ!?」
暢気なルドルフが茶の乗った盆をひっくり返し、驚愕のあまり、クリフに抱き着く。ルドルフに押さえつけられた形になったクリフは予想外の展開すぎて反応が遅れていた。
「──緊急事態! 突入!」
その時だった。窓を叩き割り黒い人影が部屋の中に飛び込んできたのは。
同時に屋敷の中に一斉に帝国騎士団の特務隊が突入してくる。
「対象を無力化」
連射式クロスボウが、ヘンドリクセンの両手両足を射抜き、行動の自由を封じる。
「ぐおおおお、ふざけるな! ふざけるな! 貴様、こうまでして俺の家を乗っ取るつもりだったのか!」
自由を失ったヘンドリクセンは床でのたうち回りながら呪いの言葉を吐き続ける。
そこにちょうど、アレクサンダーがやってきて──
「え、なにこの状況」
混沌とした部屋の状況に目を丸くするのだった。




