強いて言うならクリフが悪い
「こんなはずではなかったんだがな」
クリフはサルトゥーラの町に呼ばれていた。
そして、町長の屋敷に招かれ、町長とその娘と一緒に食事をする羽目になっていた。
「我々はクリフ殿がコンフォード家を継ぐことを支持いたしますぞ!」
「そ、そうか」
町長は勢いのある人物で、彼の中ではストーリーがもう出来上がっているらしかった。なるほど、クリフは現当主の代行を務めるルドルフを倒しに来たと思われているらしかった。
それは全くの誤解であるので、その説明をしたのだが──
「なるほど、確かに血のつながった兄を武力で……というのは聞こえが悪いですな。圧力をかけ、そうして……いえ、みなまで言わずとも結構」
勘違いが極まっている。
もはや、話は通じない。なぜ、こうなったのか。
強いて言えば、自らの立場や経歴を考えずに故郷へ帰ったクリフが悪いのだが、クリフ自身は自分はただ父の見舞いに来ただけだと心から思っているので、何の野心もない。
「ところで、私の娘はどうですかな。親のひいき目とは思いますが器量も気立てもよく……」
「はぁ、素敵な娘さんですね。さぞ御自慢でしょう」
クリフは特に何も考えずにそう言った。
これがベストな回答かそうでないか。はたしてどちらか。
クリフは泊まっていってほしいと言われたが町長の家を後にし、サルトゥーラの町のそばに構えた本陣へと戻った。
「おかえりなさいませ。夕食はどうされますか」
オリヴィエが従者としてクリフに尋ねるが、クリフは充分に食べてきたと言うと、自分に与えられた大型のテントに戻り、そのまま横になった。
「なんだか面倒になってきたぞ」
父の見舞いという重大な用事があるといって出てきたのだが、こんなに面倒ならば、前線にいた方が気楽だった思うようになってきていた。
「おい、クリフ邪魔するぞ」
「邪魔しないでくれ、軍師アレク。俺は自分の行いを省みているところなんだ」
体を起こし、テントの中の椅子を出してアレクを座らせるクリフ。
足が不自由な相手を立たせたままにはできない。
「昔のことなど気にしてもしかたあるまい帝国人たるもの常に前を向き、進歩を目指すべきだ」
「確かにな。騎士が己の行いを後になって悔いるなど恥ではある」
クリフは思考を切り替えることにした。
とりあえず、自分は何も悪くない。悪いのは、自分以外の勘違い連中だと思うことにしたのだった。
「さて、城攻めは無いにしても。投石器はいるだろう。今のうちに用意しておくか?」
「どこに石を投げこむつもりだ?」
「貴様の実家がある町に」
クリフは大きくため息をついた。
「多くの配慮いたみいるが、俺の実家のある町──コントリウムの町は城壁に囲まれていない。あるとしても柵くらいなものだ。……言っておくが馬防柵ではないぞ。ただの、畑の柵だ」
「おい、城壁攻めもないのか? 破城槌は? 攻城梯子は?」
「全部いらない」
「正気か貴様の家は? 騎兵突撃で町が蹂躙できるぞ」
あぁ、なんでそんな話になるのだと、クリフは頭を抱えたくなった。
だから言っているだろう。俺は父の見舞いをしたいだけだと。家督相続? まぁ、そんな話もでるだろうが、穏便に済ませるつもりだ。
それなのに、なぜどいつもこいつも自分が戦う気なのだと思っているのかがクリフには分からない。
クリフが分からずやどもに怒りを抱き始めた、その時だったテントの入り口が慌てて開き、オリヴィエが飛び込んできたのは──
「大変です! サルトゥーラの町の若者とビアンキ村の若者が喧嘩をしています!」
「ただの喧嘩ならよくあるだろう?」
「!? 失礼しました。大喧嘩です。十数人が武器を持って争っています」
それは喧嘩ではなく抗争だ。物事は正確に伝えてくれと思いながらクリフは自分のテントを慌てて出ていくのだった。




