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簡単な任務

「ところで、今回は城攻めはないのか?」


 サルトゥーラの町の近くに敷かれた本陣の天幕の下、幹部クラスが一堂に会する場で上座に座っていた謎の軍師アレクがクリフに問う。


「あるわけないだろ」


「では、野戦だな。貴様の兄の率いるコンフォード男爵軍と平原で決戦か。なるほど騎兵を多めに連れてきたのは正解だったな。帝国最精鋭の騎兵突撃を見せてやろうではないか」


 意気揚々と語るアレクに対し、クリフは肩を竦めて答える。


「それもない」


「どういうことだ」


「そもそもコンフォード男爵家は常備軍を持っていないし、徴兵もしない。いるのは町や村の治安を守るのが仕事の衛兵くらいだ」


「おいおい、何を言っているんだ。帝国貴族、それも領主が軍備を持たんだと、貴族の誇りはないのか?」


 ないんだなぁ、それが。とクリフはハッキリ言ってやりたかったが、まぁ他の領主の手前、それは口に出さなかった。


「帝都周辺の小貴族はこんなものだよ。俺たちが内乱鎮圧をしていた時に戦っていたような気合の入っている貴族は帝都の周りにはいない」


 そもそも、帝都の周りで強大な軍備を持っている貴族がいる方が怖いよ。

 いつ、帝都が襲われるか気が気じゃないし、基本的に帝都周辺の貴族は軍備を持たないように暗黙の了解を求められる。


「つ、つまらん。じゃあ、コンフォード男爵家はなんのために存在しているのだ」


「えーと、帝都にじゃがいもと豆と豚肉を届けるために」


 帝都周辺の小貴族というのは帝都の食糧庫担当でもある。それはコンフォード男爵家も同じである。


「……おい、クリフ。本気でこんな家継ぐつもりか。お家騒動をやる価値を感じんのだが、俺は」


 軍師アレク──オズワルド帝国第一皇子アレクサンダーは底辺貴族の事情にことごとく疎かったのだった。


「軍師アレク。俺は最初から里帰りのつもりだと言ったはずだ。近衛兵の力が欲しかったのは治安維持に問題が発生しているからであり、その手伝いのために兵を少し借りたかっただけなのだ。逆に俺こそ問いたい、何故、帝国近衛兵全軍が集結しているのかを」


 それはアレクサンダーが友のため、お家騒動に勝利するための軍が必要だろうと早とちりをしたためである。


「まぁ、すくないより、多い方がいいだろう。さて、治安維持をしたいのだったな」


 アレクサンダーは軍師アレクとなって全てをなかったことにして、先のことを考えることにした。


「山賊や野党がうろついているというのならば、騎兵部隊に街道を巡回させよう。完全装備の騎士が見回りをしていると分かれば、それだけでおとなしくなるはず。それでも分からん馬鹿にはちゃんと部隊で襲撃させればいい」


 まぁ、それが無難かともクリフも思う。野党や山賊を追い詰めるのはそれなりに面倒だ。とにかく相手が行動を自重するようになれば、それだけ治安は充分に回復するだろう。


「では、我々は魔物退治にあたりましょう」


 そういったのはジェラルドだった。

 ジェラルドが率いる教会の聖騎士達は実態は魔物および魔族に対する狩人である。彼らは教会から支給された、軽量のミスリル鎧を身に纏い、素早く動き獲物を追い詰める。

 魔物退治であれば、彼らに任せるのが適任だった。


「よろしく頼むジェラルド殿」


「礼は無用です。民のため、魔物を駆除するのが我々の仕事なのですから」


 さて、これで治安上の問題である野党や魔物に対しては対策ができた。後は食糧援助だが──


「食糧援助に関しては教会が行いましょう。聖女様が各地を慰問に回りついでに食料の提供を行うというのはいかがでしょうか」


 そうしてくれるのならば、こちらとしても助かるとクリフは思った。


「帝国近衛兵を護衛につけましょう」


「ありがとうござます。それならば心強い」


 何をすればいいか分かっているものが揃っていれば話は早い。

 こうして、帝国の者も教会の者も、それぞれが普段行っているよりもはるかに簡単な任務に従事することとなったのだった。



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