これは予想外
「また会ったな、友よ!」
馬車の中から声をかけてきたのはアレクサンダー第一皇子だった。
ヒルドレイク卿を供につけた馬車にクリフが駆け寄る。
「一体、これはどういうことですか殿下」
クリフはアレクサンダーと共に現れた近衛騎士団全軍を見ながら尋ねた。
「友の頼みだぞ。小隊などケチ臭いことは言わず、全軍連れてくるのが当然だろう」
クリフはアレクサンダーに同行していたシャルルとオリヴィエを見るが、二人とも顔を背けるだけだった。どうやら、アレクサンダーに押し切られたのだろうとクリフは呆れて肩を落とす。
「野盗や魔物退治をするくらいですが」
「そんなつまらんことを言うな。全軍でもって、貴様の家を攻め落とし、真の領主が返ってきたことを知らしめようではないか」
クリフはポカンとアレクサンダーの頭を叩いた。
ヒルドレイク卿が抑えて、抑えてとクリフをなだめるが、クリフとしてもこんな事態は予想していない。
「暇だからと言って、俺のお家事情を暇つぶしに使うな。それと暇つぶしで軍を動かすな」
敬意は消え失せ友としてクリフは話す。
「演習と思えばよかろうよ」
こんなつまらん場所で演習などするなとクリフは言いたかった。
だが、来てしまったものは仕方ない。
「どこに陣を敷く?」
アレクサンダーが訊ねるとヒルドレイク卿が地図を持ってきた。
クリフとしてはなるべく男爵領の中心近くが良いと思った。
「サルトゥーラの町の近くの丘にしよう」
そこは男爵領の位置的な中心である。
ちなみに政治的な中心である男爵家の屋敷がある町からは、それなり以上に距離が離れていた。
「殿下はどういう扱いをすればよろしいですか?」
「俺は謎の軍師アレクとでもしておいてくれ」
人のお家事情を遊びに使いやがってとクリフは思ったが、本人が軍師を名乗っているのならばそれでいい。軍師として使いつぶしてやる。
「近衛騎士団の指揮権は?」
ヒルドレイク卿に尋ねるとヒルドレイク卿はクリフに手を差し出し──
「お譲りします」
面倒ごとには関わりたくないという態度だった。
まぁいい、帝国最精鋭の近衛騎士団を自由に使えるのならば言うことはない。
「全軍、サルトゥーラの町まで前進!」
クリフの声に応え、近衛騎士団が進む。
それはまるで、クリフが近衛騎士団の団長であるのが当然であるかのような動きだった。
サルトゥーラの町までは二日ほどでたどり着いた。
騎士団はここに本陣を張り、作戦行動のための準備を整えていた。
そこに従軍司祭のシドが現れる。
「閣下、しくじりました……」
何を? とクリフが訊ねるより先に本陣の中に教会の聖騎士ジェラルドが姿を現した。
「水臭いですぞ、コンフォード卿! 故郷を取り戻すための聖戦。我ら、聖騎士団もお使いください」
なぜ、ジェラルドがいるのか。おそらく吸血鬼退治は問題なく達成したのだろう。
だが、教会に帰らず、ここにいる理由が分からない。
「聖女殿が、コンフォード卿の助力をすべしと我々に神の預言を行われました。我々はそれに従い馳せ参じた次第。もちろん、聖女殿も同行しておいでです」
神はそんなことは一言も言っていない。聖女は自分の独断でコンフォード男爵領に聖騎士団を向かわせたのだった。
「これは心強い。感謝しますジェラルド殿」
正直、過剰戦力だとクリフは思ったが、彼らがもってきた食糧を見れば、そういう文句も言っていられない。
「聖女殿も仰っておいでした。困窮する民のため、自らの懐を痛めることも厭わない貴殿こそ、真の騎士であると」
なるほど、教会からの寄付ではないというわけか。
クリフは自分の預金残高が目に見えて減っているのが想像できた。
──なにはともあれ、態勢は整った。
コンフォード男爵領で苦しむ民を助けるときが来たのだとクリフは思うことにしたのだった。




