帝都前、友との再会
クロイス達を退けたクリフたちはコンフォード男爵領までの道を警戒に進んでいく。帝都が近づけば、クリフたちの旅を阻むトラブルは起きなくなり、穏やかな道のりを進むことが出来ていた。
だが、それも帝都に着くまでのこと。
クリフたちは帝都に寄る予定はなく、帝都の前を通り過ぎてコンフォード男爵領へと向かう予定だった。しかし、目の前の状況がそれを許さない。
「近衛騎士団だと?」
帝都の前には皇族に仕え、その身辺を守る精鋭である近衛騎士団が待ち構え、クリフたちが通る道を塞いでいた。
クリフは一人、ユニコーンを走らせ、近衛騎士団の前に立ち、問いかける。
「近衛騎士団の諸君に問う! 何故、我が道を阻むのか!」
その問いに答えるためか騎士団の中から一際豪華な装飾のされた鎧を纏った騎士が前に出る。その騎士に見覚えのあるクリフは名を呼ぶ。
「ヒルドレイク卿ではないか。卿が何故、騎士団を率い、このような場所へ?」
ヒルドレイク卿は名のある騎士であり、共に轡を並べて戦ったこともある仲である。戦友がどうして、自分の前に立ちはだかるのか、その理由を問おうとしたクリフであったが、すぐにその理由を知ることになる。
「久しいな、クリフよ」
騎士たちが一斉に道を開ける。そして、その姿を見た瞬間、クリフは慌てて下馬し、跪いた。
「アレクサンダー殿下」
親友ともいっていい仲の皇族が近衛騎士団を率いてクリフの前に現れたのだ。
「よい、そう畏まるな。俺とお前の仲ではないか」
その言葉を聞き、クリフは立ち上がり、改めて親友の姿を見ると、言葉が出なくなる。勇者事件の後、勇者討伐を共にしてからは会うことができなかった親友は、杖をつき、馬にも乗れずにいた。
「少し話せるか」
アレクサンダーの視線が帝都前の草原に向かう。
「あぁ」
言葉少なに答えると、二人は帝都の前に広がる草原に向けて歩き出すと、適当な場所に腰を下ろした。草原に吹く風は暖かく春の気配を感じさせた。
「……痩せたな」
以前は筋骨隆々の堂々とした体躯をしていたアレクサンダーの体は上背こそあるものの一般男性の平均的な細さになっていた。この腕では以前のような剛剣を振るうことはかなわないだろうとクリフは思う。
「足がこれだからな。体重が重いとどうにもきつくてな」
座ったまま杖を振り上げて見せるアレクサンダーは快活に笑っていた。
勇者との戦いで右足と右腕に大怪我を負ったアレクサンダーは杖が無ければ歩けなくなっていた。右腕も不自由が残り、ほとんど動いている様子が見えない。
「まぁ、俺も父親の身だ。コレを機に少し落ち着こうと思っているのさ」
何でもないことのように笑うが、アレクサンダーは帝国最強の騎士だった。
それが、今となっては馬にも乗れず、剣も握れない身。その悔しさはいかほどのものか胸中は察するに余りあった。
「……それで、今日はどうした。近衛騎士団を引き連れてまでして、俺にただ会いに来たというわけではなかろう」
十年来の親友の前ではクリフの言葉も明け透けなものに変わる。
「いや、その通りだ。ただ、おまえに会いに来ただけだ。近衛騎士団に関してはアレだな。最近は皇城の者たちが俺を一人で外出させてくれないのでな」
「皇位でも継ぐのか?」
「それは無い。他の貴族がどうかは知らんが、オズワルド皇帝家は常に正室の長子が皇位を継ぐ決まりになっている。お前のところと違ってな」
痛いところを突かれたようにクリフは苦い顔になる。
それを見て、アレクサンダーは笑いながら、
「今や、城の中はてんやわんやだ。お前がどんな選択をするのかでな」
帝国では基本的に正室の嫡子が跡継ぎとなる。だが、例外が無いわけでもない。
当主に気に入られた者、能力に優れた者、そういった輩が跡継ぎとなることは普通にあることであった。
「正直、俺はどちらでもいいんだがな。ただ、父の見舞いに帰るだけだというのに」
「お前がそう思っていても周りはそう思わんということだ」
よっ、という掛け声でアレクサンダーは杖を使って立ち上がる。釣られてクリフも立ち上がった。そろそろ話は終いにしようという流れだ。
「皇帝陛下はどう考えている?」
「父上も、もうどうでもいいとさ。なるようになれとしか。考えていない」
俺も似たようなものだという顔でアレクサンダーは帝都前の道に向かって歩き出した。
「今日はお前と話したかっただけ。場合によってはまたしばらく会えんかもしれんからな」
それもまぁ、状況次第だと思いながらクリフはアレクサンダーの隣を歩く。
「しかし、おまえも律儀な奴だ。自分を捨てた親の元にわざわざ見舞いにいくとは」
「捨てられたとはいえ、親には変わりがないからな」
二人はそれぞれ、再開した位置に戻る。
クリフはユニコーンに跨り、アレクサンダーはそれを見上げる。
「では、さらばだ友よ。次は酒でも酌み交わしながら、話をしよう」
「あぁ、俺もそれを願っている」
近衛騎士団はヒルドレイク卿の指示に従い、道を開ける。
クリフたちは堂々と近衛騎士たちの駆け抜け、コンフォード男爵領への道を進んでいくのだった。
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