ゆるい戦場
「私は魔術院の命令で閣下を無事にコンフォード男爵領までお連れする任務をたまわっているんです」
その割には危なくなったらすぐに逃げた気もするがとクリフと旅の仲間たちは思う。
しかし、旅の仲間もクロイスとアロイスが抜け、アーヴィンも行方知れずだ。ヴィルマはゴーツェルの馬に相乗りしているが、そのせいで行軍速度が遅れてもいる。
「せっかく補給した物資も手放す羽目になりました……」
シャルルの馬に相乗りしているオリヴィエが肩を落としている。
情況は極めて悪い。食料も何もなしでは旅は続けられないからだ。
「とにかく、近くの村や町で補給をしやしょう」
「だったら、アタシはこの先に町があるのをしってますよ」
ヴィルマが明るい声で言う。そういえば、この女一人だけ大きな背嚢を背負っている。おそらくクリフたちと違い、一人旅の準備を万全に整えているのだろう。
「あぁ、神よ。なぜわれらにこのような苦行」
「英雄の旅路に苦行はつきものさ」
あまりに役に立っていないシャルルとシドはまだ軽口をたたく余裕があるようだ。
戦力が大幅に低下した今、彼らの身を守るものもいないということにまだ気づいていないようだった。
「あ、見えてきました」
ヴィルマが明るい声で町を指差すが──
「ここも塞がれているな」
町の入り口は重装歩兵によって塞がれている。強行突破するしかないか?
しかし、そうなると物資の補給は難しくなる。さて、どうしたものかと思っていると──
「コンフォード卿、助太刀に参った!」
背後から何頭もの馬の駆ける音が聞こえてきた。
こんどは何かと身構えていると、軽装騎兵がクリフたちを追い抜いて、重装歩兵の集団に向かっていくではないか。
「これは何事だ?」
「さぁ?」
誰も状況が掴めず重装歩兵と軽装騎兵が戦闘状態に入る。
どちらも長い棒に布を巻き付け、相手に怪我をさせないように配慮した武器でポコスカと相手を殴っている。茶番のようにも見えるがお互いに本気のようだ。
ちなみに重装歩兵は軍務卿の私兵で、軽装騎兵は宰相の私兵である。
私兵同士が雇い主の命令を受けてポコスカと殴りあっているのであった。
「閣下、今のうちに町の中へ」
「ええい、行かせてなるものか。何としても閣下を止めるのだ」
口では本気だが、まぁ誰も全力ではない。
ちょっとした演習のような戦場にはぽっかりと隙間が空き、クリフたちはそこを通り抜け、町の中へと入る。
何かの取り決めがあるのか、重装歩兵たちは町の中までは入ってこず、クリフたちはゆっくりと物資の補給をし、ついでに宿をとって体をゆっくりとやすめることにしたのだった。
この作品について面白いと思う場面などあれば、評価・ブックマーク・感想をよろしくお願いします。
また、たまに活動報告などもご覧いただけるとありがたいです。




