お前はどっち派だ?
「お前はどっち派だ?」
帝都と皇城ではこの言葉が流行していた。
それはクリフが爵位を継ぐことを望んでいるか、望んでいないかを聞いたものである。
帝都の民衆は概ねどちらでもいいと思っていた。
捨てられた息子が名誉と功績をもって故郷に帰り、正当な貴族として認められる話も良いし、貴族の地位を捨て帝国の将軍として華々しい活躍を続けてくれるのでも、とにかくどっちでもいいと思っていた。
「コンフォード将軍なら、きっと領地経営だって上手くやるさ」
「いやいや、コンフォード将軍の才能は戦場でこそ発揮されるものさ」
まぁ、こんな感じで帝都の民はどちらでもよかった。
クリフは街に顔を出すことも良くあったし、顔見知りも大勢いる。
とにかく本人が幸せならばいいだろうというのが、帝都の民の考えであった。
しかし、皇城ではそんなノンビリとした雰囲気ではなくピリピリとした雰囲気が漂っていた。それは政治を行う者たちがこの状況を神経質に取り扱っていたからである。
「コンフォード卿に決して領地を継がせてはならぬ!」
そう叫ぶのは帝国の軍事を司る軍務卿の役職にあたる老人。
彼は自分の後継者はクリフしかいないと思っていた。『勇者事件』から連なる、亜人・魔族同盟の蜂起とそれによる帝国西部の占領。その状況を解決したのは表向きはシーザリウス殿下となっているが実際に全軍の指揮を執ったのはクリフである。
クリフ以上に帝国の軍事を任せられる人材はいないと軍務卿は確信しており、そのクリフがコンフォード男爵という小さな立場に収まるのが許せない側であった。
「あの者の才覚は軍全体を統べてこそ発揮される」
皇帝の前でさえそう断言した軍務卿は、間に合わない可能性が高い現状に満足はしていたが油断はならないと思っていた。
対して、帝国の宰相はクリフのコンフォード男爵家を継いでほしいと思っていた。
帝国の政治全てを司る宰相はクリフが皇族と関係が近すぎることに危機感を抱いていた。元が男爵程度の一貴族が皇族に意見できる立場にあるのは明らかに危うい。皇族とは絶対のものであるというのが宰相の考えであり、それを侵害するクリフは危険な存在であり、なるべく皇族とは遠ざけたかった。
最も避けたいのは、皇族との結婚。できれば上位貴族との結婚も避けてほしい。だが、宰相自身は複雑な思いもあり。
「あの才覚は本来、内政でも発揮されるものではないだろうか」
そんな疑問があった。軍事が優秀である故、見落とされるが、クリフは作戦立案に際して文官に話を通し、全てがスムーズに動くことを欠かさない。
この感覚を自然に身につけているのであればセンスにあふれている。皇族からの信頼の厚さも考えれば次期宰相というのも──
一瞬余計な考えが浮かんだが、とにかく宰相の考えは変わらない。まずはクリフをコンフォード男爵領へ。そのためにはどんな手段でも使おう。
宰相になるための教育は男爵になってからゆっくりとやればいい。軍事から離れ、政治の世界でその才能を花開かせるのだと宰相は考えていた。
「これは、コンフォード卿に継いでもらった方がいいかもしれんなぁ」
自室でそう呟いたのは帝国内の細々とした状況を管理する内務卿。
彼が見ていたのはコンフォード卿からあげられた報告書。そこにはでっちあげと思しき数字が数多くあり、コンフォード男爵領が窮状を書面で誤魔化しているのがありありとわかった。
クリフ・コンフォードならこの状況を何とかできるだろうという根拠なき信頼で、内務卿はクリフがコンフォード男爵になるのを望んでいた。
「コンフォード卿の存在がなければ他国に侮られる!」
外交に携わる外務卿は国防の観点からクリフが少しでも軍から離れる状況を恐れていた。戦えば無敗のクリフは他国からすれば軍神ともいえる存在であった。
よって、外務卿はクリフが男爵を継ぎ領主貴族に収まるのは反対であった
城内がにわかに騒がしくなる中、全てを決める権利がある皇帝はというと──
「あー、とりあえず好きにしてくれ」
その言葉をもって、それぞれの権力者は己の目的のために好き勝手することになるのだった。
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