先走りすぎる女
オズワルド帝国第三王女アメリア・オズワルドは夢見る乙女である。ただし20歳であるが。20歳というのはオズワルド帝国の婦女子で言えば完全な行き遅れである。だが、彼女は気にしなかった。なぜならば、いつか必ず白馬の王子であるクリフ・コンフォードが自分を迎えに来てくれると思っていたから。
そして、クリフが自分の夫になると決まっていると信じている彼女は、今の状況もきっと、神が自分をやきもきさせるためだけに与えた試練であると思いこみ、最終的には自分の良い形に終息するだろうという夢をもっていた。
アメリアは帝国一の美女と称される姫である。白銀の髪に、抜群のスタイル、表情は氷かと思いきや、笑ったときはパッと満開の花が開くようであった。
アメリアは幼いころから幼少の頃から自分はクリフと結婚すると思っていた。兄の親友であるクリフはことあるごとに城に招かれていたし、アレクサンダーによって家族のような扱いを受けていたこともあり、アメリアが最もよく知る男性であった。
そして、クリフはアメリアを子供と扱うことはなく騎士として常に一人前の淑女と扱っていた。子供が喜ぶような菓子ではなく大人の女性に与える贈り物を幼いアメリアにも贈っていた。
妾腹の第三皇女と侮られることもあったアメリアであったが、クリフだけはそのようなことはなく、常に騎士として敬いの心をもってアメリアに接していた。
少女の頃になると、縁談だなんだと自分の美貌ばかりを称える貴族と見合いをさせられることも増え、なんだか無性にイライラすることが増えた。その時はアメリアはクリフを城に呼び寄せ、様々な無理難題を押し付けるのが常だった。
しかし、クリフは一つも嫌な顔をせずたやすく無理難題を成し遂げると、アメリアに近づき、そっと優しくしかるのだった。
「アメリア、こんな意地悪を言っては駄目だよ」
優しい声色、表情には微笑を伴い、自分の手をそっと握る。
それをしてもらうためだけにアメリアは兄と父に怒られるまでクリフに無理難題を押し付けた。
ふと、自分がクリフに恋心を抱いていることに気づいたのはある日の見合いの後のこと、熱心に剣の素振りをしている姿を見た時だった。上半身の服を脱ぎあせだくになるまで長剣を振っている姿をウットリと眺めていると使用人の女が汗を拭く布をクリフに渡した時だった。
「その役は私の役目である!」
怒りから少女は自分の恋に気づいた。
あとは烈火の如くである。兄のアレクサンダーに真っ先に相談しにいき、自分はクリフと結婚すると宣言。続けて父のもとに向かい、「見合いはもう結構。私はクリフと結婚します」と宣言。
いや、いきなりそれはちょっとという親族を無視してアメリアは今に至る。
オズワルド帝国皇族の特徴として勢いに乗らせたら手が付けられないという特徴がある。それはアメリアも例外ではない。
彼女はクリフが領地相続の話し合いに間に合わないと確信。すでに行動に移っていた。
「公爵邸を建てるわ!」
速攻である。誰にも有無を言わせない状況を作れば勝てる。アメリアはそう判断し、王都の職人を自分に与えられた公費で雇った。予算は使い切れと毎年小言を言われながらも貯めていたのはこのためだ。
「コンフォード領に公爵邸を建てます。大きなものでなくても良いわ。幸せな家庭が築ける温かみのあるもの。ただし、小さすぎても駄目です」
アメリアは最速で馬車を走らせるとコンフォード男爵領へと馬車を走らせた。そして、公爵邸を建てるに相応しい小高い丘を定めると、そこに職人たちを呼び寄せた。
「なるべく早く、しかし丁寧に見える体で屋敷を建てなさい。夜を徹してでも作業。それに見合う賃金はお渡しします。また細かい仕様については私に聞きなさい。なぜなら私は公爵夫人となるのですからね」
まだ決まっていない。まだ決まっていないのである。だが、この自信である。
まだ状況が定まっていないのに先走りすぎる女がここにいた。
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