剣聖将軍クリフ
クリフ・コンフォードは今年で28歳になる。険しい顔立ちだが涼やかな目元をした偉丈夫として、帝都の淑女たちの話題に上がるほどである。
そして剣の腕は帝国一に留まらず、大陸一、いや世界一と噂され、若くして将軍の地位いることから剣聖将軍と呼ばれていた。
その経歴は波乱に満ちている10歳で単身、皇城の前に立ち、「両親に捨てられ、行くところがない。軍に入れてほしい」と言った所から始まる。
普通であれば、相手にされないだろうが、その様を面白がった当時の皇帝(いまも現役)が従者として取り立てた所からクリフは活躍を見せる。
当時の皇帝は先帝の悪政の影響から内外に敵が多く、皇帝は常に暗殺の危険にさらされていた。そんな中でクリフは10歳でありながら身を挺して皇帝の命を守り、暗殺者を返り討ちにしたのである。──才能まさしく、その一言に尽きる。
ただ、天才と称えた皇帝の言葉に調子に乗り、暗殺者を送り出した貴族を逆に暗殺し返し、その首を皇帝のもとに届けたという逸話もある。
殺されそうになったから殺し返していいわけではない。政治の世界はそういうものはないと皇帝はクリフに説教をし、クリフは無断での暗殺を行うことはなくなった。皇帝が遠征の際に病で倒れた時は、夜を徹して薬草を探し出し、皇帝の体調回復に努めた。そうして信頼を得たクリフは皇帝と公私にわたる関係となり、生まれた皇子おしめを変えるなどの乳母や家令のような仕事をすることもあった。
当時の帝国には内乱の嵐が吹き荒れ、皇帝自身が反逆者の討伐に出向くこともあった。その際も、クリフは従者として常に皇帝に同行し、幼少の身ながら皇帝の護衛や身の回りの世話など卒なくこなしたという。
やがて、13歳になるとクリフは騎士として初陣に立たされる。相手は短慮の上、兵を起こした、帝国貴族の反逆者。雑兵の群れである。これを相手に初陣を果たさせたのも皇帝が面白がってのことであり、後方の安全な場所に配置し、本格的な戦闘に関わらせるつもりはなかった。しかし、皇帝の思惑に反して、クリフは戦が始まるなり軍馬を躍らせ、味方の陣営をかき分け、先陣へと躍り出て、まさかの一番槍を果たし、敵の先方に立つ騎士を切り伏せる活躍を見せる。
「騎士として、陛下が私を初陣に立たせた以上、恥をかかせるマネはできない」
というのが本人の主張である。
その後、敵陣を突っ切ろうとしたので、他の騎士に押さえつけられ、皇帝の居る本陣へ戻り従者の任に戻されたという。
それからクリフは皇帝の従者の任を解かれ、正式に騎士として軍に属することとなる。所属は皇族が将軍を務めることが慣例となっている帝国軍第一軍。そこで、厳しい訓練を受ける中で、めきめきと頭角を現したクリフは15歳になる頃には一対一では誰も勝てない剣士となっていた。
時を同じくして皇帝の第一子、妾腹の第一皇子が名目上、第一軍の将軍となる。
アレクサンダー・オズワルド第一皇子。ちなみに、この皇子、クリフのことを極めて嫌っていた。なぜかといえば、歳が同じであったことから、ことあるごとに比較されており、皇帝ですら自分の息子のアレクサンダーとクリフを比較し、クリフをほめたたえる始末であった。
アレクサンダーからすればクリフは顔も見たくない相手であったが、皇帝の命によってクリフはアレキサンダーの近衛に就くこととなる。
そうして腹立たしい相手の顔を見ながら、アレクサンダーは第一軍の将軍として国内の反逆者の鎮圧に赴くことになる。
その時の相手はそれなりに名の通った貴族。
兵も精鋭がそろっていた。対して、初陣のアレクサンダーは緊張のあまり、まともに指揮がとれずにいた。その隙を突き、敵の精鋭が本陣へ迫り、アレクサンダーに襲い掛かる。だが、そこで放たれた一撃をクリフは身を挺して庇い、アレクサンダーの命を救ったのである。
「殿下、負けが決まっているのであれば一花咲かせるのが騎士の本懐というものです」
そう言って笑ったクリフは傷の手当てもせず騎乗し、剣を構える。
その様を見てまけじとアレクサンダーも馬に乗り、剣を構える。
「殿下、突撃を。どこまでもついてまいります」
「だったら、敵の本陣までついてこい」
息を吹き返したようにアレクサンダーは勇気を振り絞り、馬を走らせ、味方の陣営をすり抜け、敵陣へとクリフと共に突撃する。
実のところ、アレクサンダー自身の武勇も同じ年齢のものと比べれば並ではない。クリフと比較されて卑屈になっていただけであり、その気になれば、一騎当千の武者ぶりであった。そして同じく隣に並ぶクリフも一騎当千の猛者。
二人は互いをかばいあい、敵陣を一直線に切り裂くと、敵の本陣へと攻めより、遂には大将首をとるのだった。
戦後、二人は和解──というか、アレクサンダーがクリフを一方的に敵視することをやめ、二人は友となり、公私に渡る付き合いが続くこととなる。それはまさに親友と言っていい間柄であった。
さて、こうして第一皇子と親友となったクリフはその後も皇子と共に反乱の鎮圧にあたり、帝国を一つにまとめ上げることに大きな働きをした。
その中で、制圧した都市の総督にアレクサンダーがなり、補佐官としてクリフが就くなど文官のような仕事も行うことがあった。とにかく、皇帝と第一皇子に気に入られたクリフは出世の階段をとんとん拍子に登っていく。
任務の合間合間にクリフは冒険の旅に出ることもあり、各地で名をはせてもいる。
山賊狩り、バジリスク討伐、グリフォン狩り、ドラゴン退治。数えきれない冒険は吟遊詩人によって詩にされ、帝国の酒場のあちこちで聞くことができる。
そうして日々を過ごしていく中で気付けばクリフは28歳。
帝国最大のタブーとされる『勇者事件』の後に、アレクサンダーの跡を継いで、第一軍の将軍となって今に至る。
その武勇は帝国においては知らぬものはなく、敵対する者にとっては恐怖の象徴。
それが剣聖将軍クリフ・コンフォードである。
この作品について面白いと思う場面などあれば、評価・ブックマークをよろしくお願いします。
また、たまに活動報告などもご覧いただけるとありがたいです。




