腹が減っては戦は……
「ウィルメット子爵、よもや俺をたばかったか!」
クリフは平和な村の真ん中で長剣を抜き放ち鬼神の形相を浮かべている。
山賊退治のために訪れた村は聞いていた話とは全く違い、平和そのものだった。
「偽りを伝えるとは許せん! 奴の首で償ってもらおう!」
旅の仲間たちが一斉に飛び掛かりクリフを止める。
「大将、落ち着いてください!」
「そうです将軍、ウィルメット子爵も悪気があって閣下に嘘をいったわけじゃないですって!」
ゴーツェルとクロイスの言葉を聞いてクリフも少し落ち着いたのか長剣を鞘に納める。村人たちは真昼間からの大騒ぎに怯えて、家に閉じこもってしまっていた。
「うむ、俺とてな。ウィルメット子爵の考えは分かる。おそらく、なんらかの事情があって、俺たちを旅立たせたかったのだろう。そして、それは俺たちにとっても好都合ではあった」
だがな──と言う言葉に合わせて再び長剣を抜き放つクリフ。
「嘘はいかん! 嘘を言わず真実を口にするのが誠実というものではないか? 誠実さを欠いた行いに対して、俺は制裁を行わなければならない」
「正直に言えない理由があったんじゃないかなぁ」
詩人のシャルルはクリフを取り押さえるのには加わらず楽器をポロロンと鳴らしていた。シャルルの言葉を聞いたクリフは僅かに考える仕草を見せ、長剣を鞘に納めた。
「なら、しかたないな。正直にいえないことなど誰にでもある。さて、我々は我々の旅をつづけようではないか」
今までの騒ぎはなんだったのか、急に冷静になったクリフはシレッとした顔でユニコーンに跨る。
「それでゴーツェル、旅程はどうなっている」
「どうにもなりやせんぜ、大将。とりあえず、この村を素通りして、次の町を素通り──」
「大変です! もう食料がありません!」
なんだと?とクリフたちが驚愕の表情を浮かべるが、一瞬立つと皆が納得した表情を浮かべるのだった。
旅程が大幅に狂っているのだから、それに合わせて用意した食料がなくなるのも当然。考えるまでもない事態だった。
ウィルメット子爵の町にいるときにもう少し時間の余裕があれば、物資の補給もできたのだが、追い出されるように山賊退治名目で旅立ったクリフたちには準備の時間もなかった。
「とりあえず、この村で──」
オリヴィエが辺りを見回すが村人たちは家に引きこもってしまっている。
「次の町で補給しよう。ついでに、そろそろ野営も限界だろう。宿をとって休むとしよう」
疲労がたまってきている実感がある。
クリフたちは方針を決定し、自分たちに怯える村人しかいない村を後にして、補給のために次の町へと向かうのだった。
──そして、次の町へと到着したのだが……
「戦の匂いがするな」
またもやトラブルの気配がし、さすがのクリフもげんなり、そして旅の仲間たちの顔色は死人のようになっていた。
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