追い込まれているものたち
さて、貴族や教会が様々な思惑をもって動く中、一足出遅れている組織があった。
それは帝国魔術院である。帝国魔術院は帝国において魔術の研究の行う最高機関である。
ただし、それも『勇者事件』の前まで、勇者事件の折に勇者によって魔術院史上最高の天才魔術師と呼ばれた少女が勇者に絆され、勇者についていってしまった所から最高機関としての扱いからの転落が始まる。
彼女は高い志を口にする勇者に惹かれ、その懐へと収まり帝国を去った。それだけならば、まだ良かっただろう。だが、少女は自分だけではなく自分のシンパともいえる者たちや魔術院の研究成果も盗んでいった。
さらにそれだけではなく、彼女についていった者たちはみな、勇者たちと同様に亜人・魔族同盟という敵国へと寝返り、帝国相手の戦争に協力をしてしまったのだ。
戦場で帝国魔術院に所属していたものから魔術による攻撃を受けたという報告が絶えず魔術院にもたらされ、総数としては数千の帝国兵が魔術院を抜けた者たち殺害されたという。
こうなると魔術院の評判は地に落ち、更に勇者召喚の儀式を第三皇子に教えたのも魔術院だということが発覚し、皇帝から本気で魔術院を潰そうとする気配も感じられるのが、今の帝国魔術院の状況だった。
ここでなんとかしなければ本気で終わる。
帝国魔術院は帝国に叛意はないことを示すために、魔術院の魔術師を戦場に送ることを提案。しかし、帝国軍には専属の魔術師を育成するための帝国軍魔術訓練所があり、魔術院の派遣の提案を却下。
その決定の中心はクリフ・コンフォードとアレクサンダー第一皇子だったという。
こうして名誉挽回の機会を奪われた帝国魔術院はどうしようもない状況になった。
このままでは取り潰しの可能性が現実味を帯びてきたころ、藁にも縋る思いの帝国魔術院の教授たちにある情報が舞い込んでくる。
『クリフ・コンフォードが家督相続争いのために軍を出奔』
平民のはずのクリフがなぜ領地を相続するのかなど、様々な疑問があったが彼らはそれを無視して全会一致でクリフ・コンフォード家督相続をサポートすることにした。
帝国魔術院の思惑としてはクリフが軍を退けば、帝国軍に魔術院の魔術師を送り込み軍に恩を売れる。家督相続できずに軍に戻っても相続争いの手伝いをすれば、それに恩を感じて、魔術院に対して便宜を図ってくれるだろうという打算があった。
するべきことが決まれば、やることは早い。
帝国魔術院はすぐさまコンフォード領に医療知識に優れた魔術師を派遣。
また、コンフォード領に戻るまでのルートに魔術師たちを配置し、クリフと合流しその手伝いをするように厳命。
一足出遅れた彼らの行動は必死であった。
だが、果たして彼らの行動が報われることはあるのだろうか。
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