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騎士とて悩む

 クリフ・コンフォードは悩んでいた。

 果たしてこの場に自分は必要なのかと──


 騎士としては、「悪漢から婦女子を守るのは騎士の務め」

 クリフ自身として「二週間もここに待機しているのは流石にまずいのでは……」

 一応、常識的な感覚も持っているクリフは吸血鬼退治のためにウィルメット子爵の館に二週間拘束されるのは故郷へ帰る旅をする上で大きな問題になるのではないかと。

 このままでは父親の死に目に立ち会えなくなる。自分を捨てた親だが、戻ってきてほしいと手紙があった以上、戻るのが子の情けであろう。

 吸血鬼に関しては危険な魔族であるが、行動からして単独犯であり、一匹の吸血鬼相手にジェラルドとクリスティアナが後れを取ることなどありえないという確信もある。それに二人だけではなく聖騎士団も何名もいるのだから盤石の態勢。ここに自分も加わるのは過剰戦力ではないかともクリフは思う。


「しかしなぁ」


「大将、悩んでるところ悪いんですが旅程が乱れすぎてどうにもなりやせん。ここに一泊だってきついですぜ」


 ゴーツェルの言葉がクリフをさらに悩ませる。

 そんな時だった。クリフの宿にウィルメット子爵が訪れたのは──


「恥ずかしながら、コンフォード卿にお願いがあるのですが……」


 ここにきてまた更に事件かと思い、さすがのクリフもどうしたものかと思いながらウィルメット子爵と相対する。


「卿ほどの人物にお頼みするのは申し訳ないのですが、我が領の村の近くに山賊団が現れたという噂がありまして……」


 それは一大事だと剣をひっつかみ宿を出ようとするクリフだったが、ウィルメット子爵が一旦なだめる。


「我が領の兵力は先の戦で大きく損耗しており、情けないのですが、コンフォード卿のお力をお借りしたく。ですが吸血鬼の件もありますので、ジェラルド卿とご相談いただければと思います」


 ジェラルドと? クリスティアナの方とではなくてか?

 教会の権威の上では聖女の方が聖騎士団のジェラルドより上だとクリフは思ったのだが──


「警備担当はジェラルド殿ですので、ジェラルド殿とご相談されるのがよろしいかと、クリスティアナ様には私の方から後で伝えておきますので」


 まぁ、それもそうかとクリフは思う。

 よくよく考えてみれば、今の自分は一軍を率いる将軍ではなく、故郷を目指す旅人に過ぎないのだから、そんな身の上のものが、教会でも最上位クラスの権威を持つ聖女に直接、相談を持ち掛けるのも無礼だろう。

 クリフはそう結論付けて、ジェラルドに会いに行くことにした。

 その背中で笑うウィルメット子爵の存在には気付かずに。


 幸い、ジェラルドはウィルメット子爵の館に常時滞在しておりすぐに見つかった。


「なるほど山賊か。それは許せんな。卿の力でこの地に平和をもたらしてくれ」


 許可はあっさりおりた。そのうえ──


「卿は父君の見舞いに向かわねばならぬのだろう。山賊退治が終わり次第、コンフォード領に戻られよ」


「吸血鬼の件は大丈夫なのか」


「なに、私と聖女様がいれば並の吸血鬼など相手になるものか。卿の心配は不要だ」


 なるほど、話をしてみるものだ。

 悩みはあっさり解決。クリフはいそいで宿に戻ると、旅の仲間たちに声をかける。


「皆の者、準備せよ! 山賊退治である!」


 そうして、クリフと旅の仲間たちは一泊することもなく、山賊退治のためにウィルメット子爵の町を後にし、二度とそこに戻ることはなかった。


 後にそのことを知った聖女クリスティアナは全力でジェラルドとウィルメット子爵をぶん殴り、大問題となるのだが、それはまた別の話である。



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