出戻り聖女
あぁ、何という幸運だろう。
現在の聖女クリスティアナは聖騎士達に守られた馬車の窓からクリフ・コンフォードの姿を見て、神に感謝した。
吸血鬼退治などという民衆の人気取りのための下らない任務の最中にこんな再開があるなど日ごろから神に祈っておいてよかったと思うのだった。
現聖女のクリスティアナ、『慈悲の乙女』と呼ばれる彼女の経歴は多少特殊である。最もそれは『勇者事件』がおきるまでの話であり、彼女は敬虔な聖神教信者の両親のもとに生まれ、類まれな法術の力を見込まれ、修道院へと送られ、修行の日々を送り、努力の末、実力を認められ聖女の地位を与えられた。しかし『奇跡の乙女』と呼ばれる前聖女が現れ、聖女を引退させられ、一介の修道女に逆戻りした。
だが、前聖女が『勇者事件』で勇者に誑かされたことを切っ掛けに失われた聖女の座に返り咲いたしたという経緯がある。
「あぁ、クリフ様」
ぶっちゃけて言うと、この聖女。クリフに恋をしている。
魔族にさらわれた所を助けてもらったり、戦場で身を守ってもらったり、とにもかくにもクリフに助けられた経験からクリフのことを白馬の王子様と思っている26歳であった。
クリフの何が好きかと言えば、精悍な顔立ち、屈強な肉体など見た目もそうだが、何より童貞なのが良い。騎士として純潔を貫く姿勢が素晴らしいとクリスティアナは思うのだった。
金髪に青い瞳の美貌、女性として豊満で魅力的な肢体を持つ、クリスティアナは常に男性から下卑た視線を感じていた。あのジェラルドでさえ、時たま自分の体を眺めていることを知っているクリスティアナからすれば、そういった振る舞いを全くしないでいるクリフは高潔な人物であり、好感が好意に変わるのも自然な流れだった。
クリフを何としても聖騎士にする。そして自分と共に長い時を過ごす。だが、自分は聖女として処女を捨てることはできない。けれど、二人は肉体ではなく心でつながりあっている。
プラトニックな愛。そんな関係をクリスティアナは一人馬車で妄想するのだった。
クリフが家督相続を争うために故郷に向かうことはクリスティアナは知っている。
独自の情報網くらい聖女であれば持っているものだ。
クリフがもしも領地を継いでしまったら、聖騎士になることはなくなる。そうなれば、自分の聖騎士として永遠にいっしょにいることも不可能になる。それだけはクリスティアナは避けなければいけないと考えている。
よって、クリスティアナはジェラルドにある命令を出すことにした。
『コンフォード卿と協力して吸血鬼退治に当たれ』と、次の満月まではまだ時間がある。次の満月までここで待機させられれば、家督相続の争いには絶対に間に合わない。それに自分がクリフと関わる時間も増える。
これは完璧な作戦だとクリスティアナは思うのだった。
親の死に目に会えないクリフと、子に死を看取ってもらえないクリフの父はかわいそうと思うが、それよりも自分のプラトニックラブがクリスティアナは大事であった。
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