遅々とした歩み
これはまずいのではないか。
クリフの旅の同行者たちは皆、そう思い始めていた。
最初の村では賊退治。
次の村ではゴブリン退治。
その次の村では村同士の争いの仲裁
4番目の村ではグリフォン討伐。
5番目の町では盗賊団の捕縛。
村や町によるたびにクリフは騎士の役目と言って、揉め事に首を突っ込み、困っている人々を騎士の務めと言って助けるのだった。
立てた予定は完全に破綻している。下手をすれば一生、コンフォード領にたどり着けないのではないかという不安が旅の仲間たちの間に広まっていた。
陽気な詩人のシャルルや騎士の鑑とクリフを称えていた司祭のシドの二人さえ口数が少なくなっている。
元気なのは理想の騎士道を歩んでいるクリフだけだった。
暗雲が漂い始めた旅路、やがてクリフたちは大きな城館を有した町へとたどり着く。
「ウィルメット子爵の町ですね」
オリヴィエの説明をきいて、それぞれここでも厄介ごとに巻き込まれるのだろうと嫌な予感を覚え始めていた。
クリフと旅の仲間はクリフだけが溌溂とした様子で町の門まで進んでいく。
「何者か!」
当然、門番に何者かを問われるが、クリフは堂々とした様子で──
「我が名はクリフ・コンフォード! 皇帝陛下の臣にして陛下の第一軍を預かる者なり! 今は故あって旅をしている! どうか一晩の宿を貸してはいただけぬだろうか!」
クリフが名乗りを上げるとにわかに門衛たちは騒ぎ出し、十分ほどして門が開いた。
見れば、門衛たちが勢ぞろいし、クリフに対して敬礼をしていた。
「任務、御苦労。民の安寧に努める貴公らを帝国の騎士として誇りに思うぞ!」
クリフも礼を返し、門を通っていく。
「この後はどうするんで?」
「ウィルメット子爵のもとに挨拶に行く。体を休めるのはそのあとだ」
騎士たるもの挨拶を忘れるべきではないとクリフは思う。
その背後でぜったいにそこで面倒ごとを頼まれると旅の仲間たちはウンザリとした表情を浮かべていた。
さて、そうして街路を進み、ウィルメット子爵の城館が見えると、何やら館が物々しい気配に包まれていた。
装甲が施された馬車。重装備の騎士たち。遠くから見えたそれらは近づくと帝国の者たちではないことが分かった。
彼らは教会の聖騎士の一団だった。
「これは、まさかコンフォード卿か!」
髭を生やした黒髪の聖騎士が近づくクリフを見るなり歓声を上げる。
「ジェラルド殿か!」
クリフは愛馬のユニコーンから降りると、ジェラルドという名の聖騎士と抱擁を交わす。まるで激戦をともに乗り越えた戦友同士の出会いのようだったが、実際、クリフとジェラルドは幾度も戦場をともにし友情を育んだ仲だった。
「何故、貴公ほどの騎士がこの町に。いやそれを問うなら我らがいる理由も伝えねばならぬか」
体を離した二人はお互いの近況を語るべく、従者に用意させた椅子に腰かける。
「俺は今、父が倒れたので帰郷の旅の最中だ」
親しい相手や目下の物には一人称が俺に変わるクリフ。
「それはお気の毒に……我々の方だが、話すよりも実物を見てもらった方が早いと思う」
そういうと、ジェラルドは立ち上がり、ウィルメット子爵の館の中へとクリフを案内する。
「おぉ、コンフォード卿ではないか。まさか、噂を聞きつけて?」
館に入るなりウィルメット子爵と対面するクリフだったが、クリフが何かを言うより先にジェラルドが──
「コンフォード卿は偶然、立ち寄っただけです。これから例の現場を彼に見せたいと思いますが、よろしいでしょうか?」
問われた子爵は「うむ」と頷き、クリフとジェラルドを見送る。
そしてジェラルドが案内したのは子爵の息女の部屋。
「待て、ジェラルド殿。騎士として淑女の部屋にみだりに立ち入ることは憚られる」
「そうも言ってられんのだコンフォード卿」
そう言ってジェラルドはクリフを部屋の中に入れると、クリフは部屋の様子に目を丸くするのだった。
『次の満月の日、貴殿の娘を頂戴する』
真っ赤な血で壁一面に書かれた一文。
このような真似をするのは──
「吸血鬼か」
クリフの問いに頷きで答えるジェラルド。
どうやらこの町でも問題は起きているようだった。
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