あらわれる闇
前言撤回。
今日の気分はすこぶる悪い。
間違いないだろう。
犯人は千丈だ。
煉は廊下をつかつか歩く。
その様子を見た周りの男子は
「おい、なんかレン様機嫌が悪くないか?」
「確かに…やっぱアイツのせいだろ。」
「ヤバいぞ。機嫌をとらなければ。」
と騒いでいた。
しかし、煉の耳にはそんな騒ぎ声さえはいっていない。
久々だった。ここまでなめられたのは。この私にたてつくとはいい度胸だ。
煉の怒りはみるみるこみ上げてくる。
その間にも考えていることは…
さぁ、アイツをどうやっておとしいれようか。
ということばかりだった。
煉は自分の多くの知識を引っ張り出して、一番哀れで苦しいおとしいれ方を考える。
沙弥と同じように男子の前で大恥をかかせようか…それとも今度は全校生徒の前で…
ゴチーーーーーーーン!!!!!!!!
いろいろな知識でいっぱいだった頭が何かにぶつかった。
「いたたたた…前見て歩きなさいよ!!」
いっぱいだった頭がぶつかったのは、空っぽな頭だった。
「はぁー。前を見ていなかったのはあなたでしょ? 上木さん。」
「す、鈴木 煉!!」
沙弥はぶつかって大げさに倒れこんでいた。
男子の同情をかおうとでも思ったのだろうか。もうモテてないのに…
そんな沙弥を見下ろし、煉は手を差し出した。
その手を握られた瞬間、煉は沙弥の腕を上げ、つりさげるようにした。
腕をつかんだ手には女子ではありえないほどの握力がかかっていて、沙弥は逃げることができなかった。
「あなたに一つ聞きたいことがあるわ。」
「フン、どうせ上浦さんたちのことでしょ?」
沙弥はもう慣れているのか、そんな状況にあっても煉に果敢に立ち向かってくる。
「私があなたのためになるような助言を出すとでも思う?」
思ってないから脅しているのだ。
煉はきつく冷たい瞳で沙弥の瞳をじっと見る。
「そんなに睨まなくたっていいじゃない。さっきの言葉はウソ。ちゃんと教えてあげるわ。」
「珍しいわね。」
「まあね。今回だけよ。ただ私もあの子が気に入らないだけ。」
「へー。ま、いいわ。あなたを敵に回すのは一番面倒だったから。」
「そこまで思ってもらえてたなんて、光栄ね。」
沙弥は憎たらしく言う。けどその瞳はいつものような煉を恨む瞳ではなかった。
「でも、どうしてあなたが上浦さんを嫌っているの?」
「まー、ちょっとね。そのことも含めて、今から全てを話すわ。」
そう言って沙弥は最初から今までのことをゆっくりと話し始めた。
沙弥が女子に協力すると言ったのは朝、みんなが登校してきて少しずつ教室が埋まってくるころだった。その時、初めて上浦 千丈の存在を知った。内気な子だったから、嘘はつかないだろうと思っていた。しかし、それと同時に煉がそんなあほらしいことをするだろうかとも思った。
まあ、ただ煉を傷めつけられるのならと思い協力はしたのだった。
ただ一つ気になったことがある。内気で影の薄い千丈がいきなりポッとでてきたことだ。
内気な子ならこんな集団の女子に話しかけるなんて勇気がいるだろうし、それに好きな子のことなんて…しかも煉に喧嘩を売るときた。これは少し怪しくないか…?
そう思って昼休みに千丈と女子集団の跡をつけていたのだ。
すると千丈は煉に話しかけていた。
しばらく続いた会話は、一見煉が千丈を責めているようにも見えたが、どこかおかしな感じもした。
会話が終わり煉が立ち去った後も、女子集団と千丈の様子を見ていた。
女子集団は泣きそうな千丈を囲み、慰めているようだったが、沙弥の視線はそこではなく千丈の表情だった。
女子集団には見えないように俯いていたが、沙弥には見えていた。
その時の千丈の表情は、何かを企むような不適な笑い。
アイツが何かを企んでいる!!
そう思った沙弥は、「ゴメン、私、職員室に用があるんだ。」と言って女子らと別れた千丈を再び付けていった。
「…そこまでは私も見ていたわ。」
「え!? 見てたの??」
「当然よ。私の推理力をもってすれば、最初から上浦さんが怪しいことは気づいていたし。だから私もあそこを立ち去った後、階段のかげから見ていたわ。決定的な証拠をつかむため。まぁ、あの表情からして犯人は上浦さんだろうけど…笑い方一つで犯人とは決めつけられないわ。」
「それじゃ、私の話の続きを聞いて。ここからが問題なのよ。」
そして沙弥は続けた。
「あら、上木さん。」
ずっと千丈をつけていて、曲がり角を曲がった瞬間、千丈はこちらを向いてそう言った。
「備考なんて趣味の悪いことしちゃダメよ。」
ばれていた。
「いやねー上浦さん。べつにあなたを尾行してなんかいないわ。っていうか、するわけないでしょ。」
「あら、そう? じゃあ、上木さん。どこに行こうとしてたの?」
「しょ、職員室よ。」
「おかしいわー。こっち、職員室じゃないわよ。それにさっき職員室の近くを通ったのに。なぜいかなかったの?」
気付かなかった…
「あなただって!! 職員室に行くつもりじゃなかったの?」
「へー、立ち聞きしてたんだ。」
「うっ…」
クスッと千丈はまた不適に笑った。その笑い方が少し煉に似ていてイラッときた。
「あ、そうだ!! 上木さん、私に協力してくれるんだってね。ひどいものね、鈴音 煉。一緒に懲らしめてやりましょ?」
「いやよ。」
千丈は少し驚いたような顔をしたが、すぐに冷静そうな顔にもどった。
「私、知ってるのよ。犯人がアンタだってこと。鈴音 煉と話し終わった後のあの憎たらしい顔!! しっかりとこの目で見たんだから!!」
「…あら、見られてたの。」
千丈は悔しそうなそぶりは見せたが、わざとらしかった。
「それじゃあ、あなたはもう用無しね。」
その言い方は冷たく、棘があって、煉で慣れていたはずの沙弥でも少し後ずさった。
千丈は沙弥に近づき、耳元でこう囁いた。
「あなたも気をつけた方がいいわよ。女子全員が、あなたではなくて私の味方になる。」
そしてまたクスッと笑い、数歩歩いて沙弥から離れた。
「鈴音 煉が私の好きな人をばらしたっていうのはもちろん嘘。だけど、私がアイツに恨みを持っているのは本当。私はアイツに復習するの!!」
千丈は目を見開いて、憎しみのこもった表情で言った。手をギュッと握りしめて、何かを睨みつけていた。そしてどこかへと消え去った。
「私が知っているのはそんなとこね。けど、決定的な証言があったでしょ?」
「ええ、上浦さんははっきりと、私が上浦さんの好きな人をばらしたのは嘘と言ったのね?」
「そうよ。これで犯人はわかったわ。後はどうやっておとしいれるか…そうでしょ?」
「そのとおりよ。フン、あなたもよくわかってるじゃない。」
「何年戦ってきたと思ってるのよ。」
「何年? 私はあなたと戦ってきたつもりなんてないのだけど。」
「はぁ? 私こそアンタにたくさんおとしいれられてきたんでしょ!?」
「ええ、だから戦いにもならなかったでしょ?」
「・・・ああ、そうですか!!」
煉はクスッと笑って静かに呟いた。
久々に楽しめそうね。
事件は動き出す。




