謎はだれ?
鈴音 煉は小走りで廊下を行き、二人の少女を探していた。
一人は上木 沙弥、もう一人は上浦 千丈だ。
あの沙弥の言動からして、今回の犯人は沙弥ではない。
では一体誰が…。
煉を一番強く責めていた少女は、いつも沙弥の近くにいて偉そうにしているような奴。
きっと誰か中心となる人物がいない限り、煉を責めることはしないだろう。そんな勇気があるわけがない。
他にいた女子を考えたとしても同じような女子ばかりだ。
おかしい。いつもは沙弥が仕掛けてくるとわかっているから犯人なんてすぐに見つかるし(というか最初からわかっているし)、証拠だって見つかる。だがその沙弥が犯人と違うときた。
…誰だ?
煉の頭の中は霧がかかっているようで、何も見えてこない。
そこで、とにかく二人の少女を探しているのだ。
沙弥は犯人でないにしても何らかの計画を知っているはずだ。千丈はそもそもなんなのかよくわからない。女子の連中は煉が千丈の好きな子をばらしたとかなんとか…
そもそも千丈と煉は話したこともないのに…。
謎の千丈…これがカギかもしれない。
「煉ちゃん!!」
!!
聞いたこともない声で名前を呼ばれて驚いた。
長くさらさらの黒髪を勢いよくまわして振り向いた。
「…上浦さん?」
「ん? そうだよ? 忘れたの??私の顔。」
そんなことを言われても困る。
話たこともない相手に突然顔覚えてる?言われても…
「ごめんなさい。私、あなたと話したことないから。そうでしょ?」
「話したことない? ふーん…」
まるで挑発されているようで、煉は少しイラっときた。
「…違ったかしら。」
「ううん。そうだね、話したことないね。」
そう言って千丈はニコッと、いや、ニヤッとした。不気味に。
煉にとっての千丈はあまり知らない存在だが、内気でいじめられっ子なイメージがあった。
そのイメージと今目の前にいる千丈は全く違っていて、なおさら不気味に感じたのだった。
「あなたなの?」
煉はついつい口にしてしまった。口に出すつもりはなかったが、そのいつもとは違う千丈を前に思ったことを出してしまう。
しかし、千丈は何が?とでも言うようにとぼけた顔をした。そのわざとらしさに、煉は知らないうちに睨んでいたようだった。
だがある複数の視線を感じて振り返る。
廊下の曲がり角に隠れて、千丈側の女子がこちらを見ていた。それこそ睨むように。
きっと距離からしてこの会話の内容は聞こえていないだろう。
その分、見ただけではどう考えても煉が悪いように見える。
その時の千丈の表情ときたら…
眉を寄せて目を充血させて、いかにも泣きそうな表情をつくる。
煉がさも千丈をいじめているように見せようというのだ。
「あなたねっ!!」
もう一度千丈を睨んでしまう。
その分煉への視線も強まった。
このままでは煉が犯人で終わってしまう。
「まあ、いいわ。今日はここまでよ。」
そう一言言って煉はその場を立ち去った。
「ねーねー、千丈ちゃん。なんて言われてたの?」
「あんなに睨まれて、つらかったよね。」
「やっぱ鈴音 煉って最悪!!」
煉が見えなくなったのを確認した女子たちは曲がり角から出てくるなり、千丈に駆け寄って慰めた。
「大丈夫だよ…でも、やっぱり、すごく恐かった…。」
千丈は泣きそうな表情をつくる。
「大丈夫よ、千丈ちゃん!! 私たちがしっかり守ってあげるからね。」
「そうだよ!! あの沙弥ちゃんも協力してあげるって。」
「がんばろうね。」
千丈はありがとうと一言言って俯いた。
その時の表情が見えないように。
ついつい口角が上がってしまったものだから。
そんな様子を遠くから見つめる二つの瞳。
真実を見抜く瞳と、
真実を知りたいと思う瞳だった。
「そういうことね。」
二人の少女は呟いた。




